追放される氷の令嬢に転生しましたが、王太子様からの溺愛が止まりません〜ざまぁされるのって聖女の異母妹なんですか?〜

星里有乃

文字の大きさ
上 下
88 / 94
第二部 第三章

第06話 地上の初日を仰ぐために

しおりを挟む
 年の瀬が迫る12月のある日。
 古代地下都市アトランティスから、地上の旧メテオライト国に探索部隊が派遣されることになった。隕石墜落から放置されている土地の調査と、波動停止してしまった閉山中のペタライト鉱山を調べるためだ。部隊が地上へ昇る前に、隊長に任命されたギベオン王太子と研究者から詳しい説明がなされた。

「俗にいう氷河期状態に突入している旧メテオライト国は、その殆どが活動困難状態である。だが、天使が宿るペタライト鉱山周辺は隕石の影響が和らいだため辛うじて暮らしていけるそうだ」
「かつて別荘地だった豪雪集落はその代表で、一定数の住民がチカラを合わせて生活しています。けれど、このままではその活動も厳しいだろうとのことです。それなのに滞在先を提供してもらうのだから頭が下がる思いですね」

 これから世話になる予定の豪雪集落はお世辞にも豊かな暮らしをしているわけではなく、滞在先として借りるもののギベオン王太子も研究者も遠慮がある様子。

「では、ギベオン王太子はどのようにお考えで? やはり、豪雪集落の民も古代地下都市へと招くおつもりなのでしょうか」
「いや、彼らは地上で暮らしていきたい意向だという。土地に根付く人々に対して無理強いは出来ないし、貴重な地上の暮らしを止めるように強制はできない。我々に出来ることは、無法状態の地上の権利を取り戻して経済状況を良くすること。それが、少しでも地上の人々を支援する近道だと考えている」
「そういえば、以前から地上が無法地帯状態になっていると問題視されていましたものね。モルダバイト国に譲渡した土地はともかく、そろそろ手入れをすると」

 地下都市に国民の大半が移動したのをいいことに、国境を無断で越えて価値ある品々を奪う者がチラホラいるらしい。火事場泥棒という言葉があるように、苦しい状況の中でも金品を狙う輩はいる。
 しかし、古代地下都市アトランティスとしては一度は地下に潜ったとはいえ、モルダバイト国に任せている土地以外は権利を手放してはいない。

「ああ。氷河期状態とはいえ、隕石落下の副産物で価値の高い鉱物が採掘されるようになったのも事実。最近では隕石ハンターを名乗る者達が、無許可で効果な隕石を回収しているらしい」
「一応、モルダバイト国のオークションハウスに正式なルートの構築を依頼していますが。法的にきちんと手入れをしなくてはそれも難しいだろうとのこと。まずは、土地の精霊と契約を結び直す……まぁ今は殆どが氷の精霊の配下にあるわけで……そこで氷魔法の使い手の出番です」

 話の流れで一同ルクリアへと視線が移る。
 いつもならワンピースに品の良いコート姿のルクリアが、今日は防寒服姿で隊に加わっている理由が示されたからだ。
 探索部隊の大半は王宮勤めの兵士や科学者で、次期王妃候補のご令嬢が参加するようなプロジェクトにはとてもではないが見えない。

「ルクリア嬢は精霊の中でも契約が難しいとされている氷の精霊と生まれつき契約しており、氷河期の氷も冷気も全くノーダメージの【絶対零度の聖女】だ。今回のプロジェクトの鍵を握っていると言えるだろう」

 改めて氷河期状態の土地の精霊と契約をするのであれば、ルクリアなしでは話が進まないだろう。

「そういえばルクリア様は、閏年の二月二十九日生まれでしたね。四年に一度しかない、氷の精霊との契約日生まれだ!」
「なるほど。そのために、氷の令嬢の異名を持つルクリア嬢が必要となるわけですね。ルクリア嬢なら、氷河期状態の地上の精霊とは契約が結び放題だ」

 一見すると場に合わない人物が最も重要なキーを握っているのだから、世の中とは不思議なものだと学者が頷きながらも納得している。

「ギベオン王太子からの説明にあった通り、氷の精霊は生まれつきの契約者がいなければ交渉が難しいものです。私の力で良ければ、喜んで役立てます」

 本来ならば、探索部隊とは無縁にも見える麗しい令嬢がこの場にいる理由をようやく皆が理解した。


 * * *



 久しぶりの地上は、空気まで凍るほど冷たくルクリアの氷の加護が無ければ危険なレベルだ。真っ白な景色に変わってしまった祖国に、探索部隊は唖然としてしまう。

「分かってはいましたが、本当に氷河期ですね」
「でも、地上で初日の出を仰げるならこの寒さも耐えて見せますよ」
「頑張りましょう」

 雪に埋もれた道なき道を歩いて、歩いて……。
 ようやく、ペタライト鉱山の入り口に辿り着き、設備のロッジで休憩することに。
 薪を暖炉に焚べて、ポットのジンジャーティーでひと息入れる。

「ふう。心も身体もポカポカするわね!」
「ジンジャーは風邪予防になるし、今の季節には欠かせないな」

 手袋越しにしかコップを握れないが、温かなジンジャーティーの温度が徐々に身体を温めた。

「このペタライト鉱石鉱山の山付近は、波動のおかげで人間が生きていける環境だ。今日は地下と繋ぐゲートをペタライト鉱山に設置して、明日からは豪雪集落に移動。しばらく豪雪集落でお世話になる。ルクリア、済まないが早速ゲート魔法の準備をしてくれ」
「ええ。分かったわ! モフ君、ペタライトちゃん、手伝ってくれる?」

 ルクリアのコートの中に隠れていたミンク幻獣のモフ君と鉱石の磨き石に潜んでいた天使ペタライトが姿を現す。

「もきゅ、もきゅ」
「はあい、マスター!」

 せっかく身体に体温が戻ったのに再び寒さの中に戻るルクリアに内心、同情する者もいたが流石は氷の令嬢と呼ばれるだけあって寒波にも怯まない。

「モフ君は氷の精霊に干渉、ペタライトちゃんはこの土地の地母神に契約の許可をお願い。いくわよ……全てを凍てつかせる氷の守護よ、人々にその加護を与えよ!」

 呪文詠唱に呼応するように、雪に隠れていた地面には魔法陣が描かれ、女神を模した氷像が一つだけ魔法で造られた。

「「「おぉお~」」」
「お見事です。ルクリア様! まさか、この僅かな時間で結界を守護する像まで造るとは」
「ふふっ。ギベオン王太子からゴーレムの技術を学んだから、ちょっとだけ以前より腕が上達したの。これで安心して初日の出を仰ぐことが出来るわね」

 優しく微笑むルクリアに思わず見惚れる兵士や研究者。その様子に焦ったのか、婚約者のギベオン王太子がわざとらしく咳払い。
 ポーカーフェイスの氷の令嬢が微笑む姿は滅多に見られないとされている。笑いかけられただけでも、今回のプロジェクトに参加する甲斐があったと密かに皆、士気を高めるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...