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第二部 第二章
第02話 アトランティスの錬金術師
しおりを挟む『皆さん、如何お過ごしでしょうか。夕方の耳寄り情報のお時間です! さて、本日はようやく再開となりましたオークションハウスの様子を中継でお伝えします』
ルクリアが奇妙な夢を見てからしばらく経ったある日、普段は古代地下都市では映らない地上のテレビの電波を偶然キャッチすることが出来た。
自室のテレビはほとんど置物状態であまり使用しないため、気づかなかっただけで、もともと地上の電波が入るようになっているのかも知れないとルクリアは解釈した。
どうやら、隣国モルダバイトの夕方の情報番組のようで、女性のリポーターがモルダバイト別荘地のオークションハウスを紹介している。
「あら、珍しいわね。地上の、しかも隣国のテレビ電波が入ってくるなんて。ねっモフくん」
「もきゅっもきゅう」
ミンク幻獣のモフくんにとって、オークションハウスといえばルクリアと出会った因縁の場所である。モフくんなりに思うところがあるのか、本家モルダバイトのオークションハウスに興味津々のようだ。
ソファに座るルクリアの横で、ちょこんと腰掛けて画面に釘付けである。
経済大国モルダバイトの別荘地は観光スポットとしても人気だが、特に立ち寄りたい施設としてセレブ御用達のオークションハウスが挙げられる。
メテオライト国の隕石衝突の影響により、一時期は大型オークションは開催されていなかったが、ようやく今日再開されることとなったそうだ。
『モルダバイトといえば、オークション! しかも今回は、メテオライト国の遺産が多数出品されるそうで、かつての賑わいを取り戻しています。お昼のオークションでは、オークション初心者でも手が届きやすい魔法アイテムなどが中心だったそうですが、いよいよ夜の部はプラチナランクのお宝が登場する予定です!』
(今はもう国民が皆、地下に潜ってメテオライト国は存在していないけれど。遺産なんて言い方、ちょっと寂しいわね)
故郷のメテオライト国に対する世間の扱いはまるで亡国のようだとルクリアは悲しくなってしまう。確かに地上のメテオライト国は隕石衝突により封鎖されたが、国民の殆どが古代地下都市アトランティスに帰還することで歴史はまだ続いている。
『また、今回のオークションではメテオライト国の遺産だけではなく、幻と謳われている古代地下都市アトランティスの魔法鉱石の再現品も多数出品予定とか。楽しみですね!』
『では、ここでスタジオからメテオライト国の前身である古代地下都市アトランティスの錬金術について、分かりやすいまとめを用意しましたのでご覧ください』
ルクリアの悲痛な胸の叫びを拾い上げるかのように、テレビの映像は中継からスタジオにバトンタッチされメテオライト国の前身とされるアトランティスについて専門家が解説をし始めた。
* * *
遥か昔、アトランティスと呼ばれる魔法国家が地下深くに存在していた。住人の一人一人が高度な魔法を操り、彼らの暮らしには錬金術が身近にあった。
数ある錬金術の中でも鉱石にオーラを込める術は他所の国からも注目を集め、貴重な魔法アクセサリーとして取引された。透明な水晶に金をオーラとして蒸着させた【コスモオーラ】と呼ばれる鉱石は特に貴重で、万が一当時の遺物が発見された場合は高額で取引されることだろう。
さて、人類の叡智を集めたアトランティスが何故滅んだのかは、定かではない。一説によると隕石の衝突により地上に住めなくなった魔法使い達が苦肉の策で地下に都市を作り移り住んだのが始まりだとされている。
それゆえ、地上の氷河期が終わり安全になったタイミングで、再び地上に戻り、徐々に彼ら自身がアトランティスの民であることを忘れてしまったと。
何の因果か時を経て、メテオライト国は再び隕石の衝突に見舞われたが、国民が古代地下都市アトランティスに戻るための予定調和だったのではないかとも噂されている。
『絶望視されていたメテオライト国の住民達が、地下シェルターで生き延びていたという嬉しい情報も記憶に新しいですし。これも、古代アトランティスの叡智の賜物なのかも知れないですね!』
『いろいろありましたが、隕石から守られたアトランティスのアイテムは縁起が良いということで、オークションの値は吊り上がるのではないかと』
『となると、コスモオーラのレプリカ辺りは注目の品と言えそうですね。解説、ありがとうございました! では再び、中継のアマンダさん!』
映像が切り替わり、オークションハウスの関係者室の様子が映し出された。そこには、先ほどのリポーターの女性ともう一人、見覚えのある人物が映っていた。
(えっ……何故、あの人がここにいるの。あの夢はやはり、現実だったということ?)
困惑するルクリアの気持ちなんかお構いなしに、テレビの中継は黒髪のある男にスポットライトを当てていく。
『はーい! 今、私は今回の目玉アイテムの出品者に直接お話しを窺うことに成功しました。新進気鋭のイケメンジュエリーデザイナーであるテクタイト氏は、話題のアトランティスの錬金術を再現するのが目標だとか』
『錬金術師というと、賢者の石のように永遠の命を求めているような。我々、一般人とは遠いイメージがあると思いますが、本当はもっと身近な存在なんですよ。見てください、ここに水晶のブレスレットと金の欠片があるでしょう? これをこうして……』
テクタイト氏が自らの手で水晶のブレスレットと金の欠片をギュッと握りしめた。すると、眩い光が一瞬煌めいて……水晶のブレスレットが、美しい青の輝きを秘めた【コスモオーラ】のブレスレットに変貌する。
『うわぁ! 驚きです。まるで、古代アトランティスの錬金術師のようですね』
『お褒めに預かり光栄ですよ。このコスモオーラブレスレットも、アトランティス系アイテムのレプリカ品として出品します。古代の遺産ではなく、あくまでも僕が新しく作った再現アイテムですが。リーズナブルなアクセサリーとして、オススメです。是非、オークションにご参加下さい』
画面の向こう側にいる視聴者に向けて、にっこりと微笑む端正な美形は、ルクリアが夢見で出会ったテクタイト氏に他ならなかった。
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