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第二部 第一章

第11話 未練のワンピース

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「カルミアさん宛ての荷物が、先程届きましたよ。ここに置いておきますね!」
「はい、ありがとうございます」

 夕刻、予備寄宿舎の母屋に荷物が届けられた。段ボール箱で届いた幾つかの荷物は、女子高生が着るのにちょうど良い洋服や小物が揃っていた。また、学生向けに相応しい学習書や資格の本なども、梱包されている。

「わぁ! 思ったより、たくさんあるね」
「他の人に分けるぶんはこちらの母屋に置いておいて、必要な分は台車で自分の借りてる部屋まで運ぼうかな」
「台車は確か、母屋の倉庫にあるから取って来るね」

 荷物を受け取った際に同行していたコゼットとメイが、倉庫に台車を取りに行っている間に、必要な荷物を段ボールごとに分けていく。

(これも見覚えがある、これは以前ショッピングモールで購入したものだわ。この水色のワンピース、大事にしすぎて一度も履かなかったけど、オニキス会長とのデートで着ようとしてたものだ)

 カルミアは荷物の中身をチェックしているうちに、これが自分自身の私物そのものであることに気づいた。

 ただの記憶違いという可能性もあるが、完全にカルミアの私物だという証拠が、聖女検定の参考書の中に記されていた。

『絶対にこの資格に受かって、私が乙女ゲームの主人公だって認めさせてやる! カルミア』


 乙女ゲームの主人公になりたいのであれば、もう少し可愛らしく決意表明を書けばいいものを。血の気の荒さが隠し切れていないところが自分らしい……とカルミアは、黒歴史を見てしまったような気分だ。

(やっぱり、私の荷物だわ。ルクリアお姉様、私に関する記憶がないはずなのに、何故これを本人宛てに? それとも、コゼットさんがさりげなく促してくれたのかしら)

 運命とは不思議なもので、巡り巡って自分のものが自分の元へと戻ってくるのはたまにある話だ。特に、この黒歴史全開の聖女認定試験の決意表明は、自分自身が回収出来て良かった気がする。
 流石に恥ずかしくて、コゼットやメイにも見られたくないため、聖女認定試験のテキストだけは段ボールに入れず、自分のカバンにサッとしまった。

 すると、ギリギリのタイミングで台車を取りに行っていたコゼットとメイが母家に帰って来た。

「お待たせ、作業進んだかな?」
「ええ。見覚えのあるものばかりだと思ったら、タイムリープ以前の自分の持ち物だったみたい。支援物資を提供してくれたコゼットさんの同級生も御令嬢って、ルクリアお姉様のことだったのね」
「ふふっ。黙っていてごめんね。けど、ルクリア様本人が、まだ表立ってボランティア活動出来ないみたいだから。けど、状況が落ち着いたら支援物資提供者一覧の名簿で公表されると思うわ」

 次期王妃候補のルクリア嬢がすぐに表立って動くことは許されていないらしいが、支援物資提供者一覧としては名前が残ると聞いて、カルミアは少しホッとした。その一方で、自分の荷物が勝手に他の人の手に渡らなくて命拾いしたとも。

「じゃあ、プライバシーに関するものはきちんとカルミアさん本人が回収出来て良かったね。
「本当よね、けどこの荷物を自分の部屋に全て持っていくのは不可能だし。やっぱり、母家に支援物資提供コーナーを作って、他の人に使って貰うようだわ」


 今借りている予備寄宿舎の部屋は、寝室スペース六畳と、キッチンスペース四畳しかない。六畳のスペースにベッド、机を兼ねた鏡台、クローゼットとタンスがあり、意外とぎゅうぎゅうだ。
 クローゼットに収まる洋服や、収納を購入すれば置き場が出来そうな書籍は運べそうだが、それ以外はスペースの関係でも他の人に分けるようだろう。

「そっか。カルミアさんがそれで納得しているなら、その方がいいんだろうけど。思い入れのあるものは、きちんと自分が持ち帰らなきゃダメだよ」
「あはは……ちょっと人に見られたくない感じのものは、速攻で回収しておきました」
「ふふっ。カルミアさん良かったね、じゃあこの荷物を台車で……あれ、このレースが綺麗な水色のワンピース、新品だよね。他の人にあげてもいいの?」

 予備寄宿舎で暮らす他の生徒に提供する物を収めた段ボールに、新品の品の良いワンピースが入っているのをメイが発見する。オニキス会長とのデートを期待して購入したカルミア渾身の水色ワンピースは、結局一度も出番が来ないまま手放すことになった。いや、カルミア自身、もうこのワンピースを見ないようにと思ったのだ。

「えぇと……それは、気合を入れて購入したものの着る機会が一度も来なくて。どうせ、オシャレして出かける機会なんてそうそうないだろうし……。しばらく、切り詰めた暮らしだし」
「勿体無いよ、カルミアさん。この古代地下都市アトランティスの生活で、このレベルのお洋服を手に入れるのは大変なんだよ。これは、カルミアさんが着るべき!」

 メイがせっかくカルミアが忘れようとしたもののワンピースを、有無を言わさずカルミア用の段ボールにしまった。

「自分が存在していたデータを消されちゃって、気落ちするのは分かるけど。思い入れのある洋服を着ないまま他の人にあげちゃうのは、良くないと思うな。特に今は、状況が変わりたてだし手放すのは早いよ。私もメイさんの意見に賛成。さっ……荷物を運びましょう!」
「……はい!」

 コゼットにもワンピースを手放すのは早いと言われて、カルミアの気持ちは少しだけ軽くなった。自分の中にあるオニキス生徒会長との未練を、まだ残していていいのだとワンピースを着る夢を見て、自分の部屋へと戻るのであった。
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