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第二部 第一章
第06話 哀しいメッセージ
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レグラス異母姉妹は、それぞれの婚約者を見送ってようやく落ち着いたと胸を撫で下ろした。父親のレグラス伯爵は、地上から持ち込んだ秘蔵のワインで今夜は愉しむようだ。
「うん。やはり、このワインは芳醇で素晴らしい。再び、このレベルのワイン蔵を作るには時間がかかるだろうが今日は特別だ。おっモフ君、お前にも何かおつまみをやろう」
「もきゅっもきゅもきゅ!」
暖炉の前でモフ君と戯れている父親をみて、気が抜けてしまったルクリアだが、勢いでギベオン王太子と約束をしてしまったことを思い出す。
「そういえば、さっきは勢いで手編みのマフラーをプレゼントするなんて約束を、取り付けられてしまったけれど。私の部屋に毛糸玉なんて、あったかしら?」
地上にいた頃だったら、学校の売店や手芸店で気軽に手に入れられた毛糸玉。しかし、今は国ごと移住したての地下都市暮らしで、物資もまだまだの状態だ。お店の経営者も運べるだけの在庫を地下へと運んだらしいが、やはり泣く泣く諦めて地上に置いてきたり、他所の国へ譲ったりしたらしい。
「ルクリアお姉様、毛糸玉でお困りでしたら私のものと同じのがありますよ。ただ、オニキス生徒会長のマフラーの色とお揃いになってしまうけど」
オニキス生徒会長のためにレンカが編んだマフラーの色は、彼の名前の由来であるオニキスの石や髪色に因んだ黒色だ。ギベオン王太子は髪の色こそ普通の亜麻色だが、その名の通り瞳の色は彗星のように色が変化するブルーグレーである。何と無くだが、青やグレーが混ざった色合いでマフラーを編んだ方がイメージに合う気がした。
「レンカ。気持ちは有難いけど、あの二人がまったく同じ素材と色のマフラー……というのも何となく良くないし。自分の部屋に家庭科の時間で使った残りがあるか調べてみるわ」
「無理しないでくださいね。私は、購買部で購入したけど生徒会役員だから、入荷情報を早く知っていたの。地下に来てから手芸用品もずっと品薄だから、家で見つからなければ遠慮なく頼って欲しいです」
毛糸玉を生産するための羊も少なく、工房もまだ数が少なく、もしかすると地下にいる限り、ずっとその状態かも知れない。レンカの言いたい意味は分かったが、ルクリアにもこだわりがあった。
「気持ちが楽になったわ、ありがとう。いざって時にはお願いするわ。早速、部屋で探してみるわね」
* * *
自室に戻り、家庭科の時間で使用した手芸用品を確認してみるが、残念ながら毛糸玉の類は持って来なかったようだ。
「やっぱり無いか、そうだわ。物置には、いろいろと女の子が使いそうなアイテムや本がたくさんあったはず。調べてみようかな……」
ルクリアはふと思いついて、女の子が住んでいた跡のような【不思議な物置】の中を探してみることにする。
物置のドアを開けて灯りをつけると、蛍光灯が弱って来ているようで、電気がチカチカとして視界はあまり安定しない。そもそも、この邸宅は地下移住計画の際に、ゴーレムなどを駆使して作った新しい物件のはず。それなのに、この部屋だけはまるで昔に誰かが住んでいたかのようなオーラがあった。
(きっと、移動の際に地上から余剰品を運んだ結果、こういう実在人物がいそうな部屋が出来てしまったのね)
偶像、誰かの部屋のような雰囲気に出来上がってしまったのだと自分に言い聞かせて、部屋の中を調べる。
天蓋付きのベッドやアンティーク調の家具は、全て同じシリーズで揃えられていて、少し掃除すればすぐに人が住めそうに見えた。
一方で本棚の内容は統一感がイマイチなく、王立メテオライト時代の教科書や聖女認定試験の資格の本、ファッション雑誌やゲームの攻略本、楽譜など、多種多様なジャンルで構成されている。
クローゼットの中には、可愛らしいフリル付きの洋服が中心に揃っており、まるで乙女ゲームの主人公の部屋のようだった。
小物が入っているらしい引き出しを開けると、お目当ての毛糸玉が何種類か見つかる。
「嗚呼、良かった。これでレンカに毛糸玉を借りずに済むわ。えぇと、彼にはどんなマフラーが似合うのかしら?」
自分の恋人がマフラーをする姿を思い浮かべて、毛糸玉の色合いを決めようとすると、ギベオン王太子以外の黒髪の男の子の姿が浮かんできた。
『ルクリアさん、これ……オレにくれるの?』
謎の少年はサラサラの黒い前髪揺らし、ややつり目がちの大きな翡翠色の瞳は宝石のようだ。いわゆる美少年という形容詞がピッタリだが、その額には痛々しい傷の跡があった。
(ごめんなさい、せっかく神様が綺麗な顔に作ってくれたのに。私があの時に、氷魔法で傷をつけてしまったから。だから、やっぱり責任を取らないと……)
何故かスラスラと少年に対して出てくる謝罪の言葉は、ルクリアの心の奥底から生まれてくるものだった。
自分のせいで綺麗な顔に傷をつけた。
けれど笑って大丈夫だよと微笑む彼は、世界で一番優しく、可愛らしい。
きっと世界で一番カッコよくて、素敵な男性になる。
もし、彼が許してくれるなら。
自分を受け入れてくれるなら。
彼が望んでくれるのであれば。
私は彼と、結婚したい。
愛しているから。
「私……一体、誰と……結婚したかったの? うぅっ。頭が痛いっ」
思い出そうとした瞬間、頭に激痛が走り思わずしゃがみ込む。そして、額に傷のある美少年を思い出す代わりに、夜空から無数の隕石が落ちてくる映像とその隕石を呼んだ張本人の哀しいメッセージが聴こえてきた。
『そうだ……僕は悪くない、例えこの国に彗星を降らせても……隕石を衝突させたとしても。そのせいで氷河期が訪れたとしても……僕は悪くない。悪いのは……僕を選んでくれなかった氷の令嬢ルクリア・レグラスだ』
「うん。やはり、このワインは芳醇で素晴らしい。再び、このレベルのワイン蔵を作るには時間がかかるだろうが今日は特別だ。おっモフ君、お前にも何かおつまみをやろう」
「もきゅっもきゅもきゅ!」
暖炉の前でモフ君と戯れている父親をみて、気が抜けてしまったルクリアだが、勢いでギベオン王太子と約束をしてしまったことを思い出す。
「そういえば、さっきは勢いで手編みのマフラーをプレゼントするなんて約束を、取り付けられてしまったけれど。私の部屋に毛糸玉なんて、あったかしら?」
地上にいた頃だったら、学校の売店や手芸店で気軽に手に入れられた毛糸玉。しかし、今は国ごと移住したての地下都市暮らしで、物資もまだまだの状態だ。お店の経営者も運べるだけの在庫を地下へと運んだらしいが、やはり泣く泣く諦めて地上に置いてきたり、他所の国へ譲ったりしたらしい。
「ルクリアお姉様、毛糸玉でお困りでしたら私のものと同じのがありますよ。ただ、オニキス生徒会長のマフラーの色とお揃いになってしまうけど」
オニキス生徒会長のためにレンカが編んだマフラーの色は、彼の名前の由来であるオニキスの石や髪色に因んだ黒色だ。ギベオン王太子は髪の色こそ普通の亜麻色だが、その名の通り瞳の色は彗星のように色が変化するブルーグレーである。何と無くだが、青やグレーが混ざった色合いでマフラーを編んだ方がイメージに合う気がした。
「レンカ。気持ちは有難いけど、あの二人がまったく同じ素材と色のマフラー……というのも何となく良くないし。自分の部屋に家庭科の時間で使った残りがあるか調べてみるわ」
「無理しないでくださいね。私は、購買部で購入したけど生徒会役員だから、入荷情報を早く知っていたの。地下に来てから手芸用品もずっと品薄だから、家で見つからなければ遠慮なく頼って欲しいです」
毛糸玉を生産するための羊も少なく、工房もまだ数が少なく、もしかすると地下にいる限り、ずっとその状態かも知れない。レンカの言いたい意味は分かったが、ルクリアにもこだわりがあった。
「気持ちが楽になったわ、ありがとう。いざって時にはお願いするわ。早速、部屋で探してみるわね」
* * *
自室に戻り、家庭科の時間で使用した手芸用品を確認してみるが、残念ながら毛糸玉の類は持って来なかったようだ。
「やっぱり無いか、そうだわ。物置には、いろいろと女の子が使いそうなアイテムや本がたくさんあったはず。調べてみようかな……」
ルクリアはふと思いついて、女の子が住んでいた跡のような【不思議な物置】の中を探してみることにする。
物置のドアを開けて灯りをつけると、蛍光灯が弱って来ているようで、電気がチカチカとして視界はあまり安定しない。そもそも、この邸宅は地下移住計画の際に、ゴーレムなどを駆使して作った新しい物件のはず。それなのに、この部屋だけはまるで昔に誰かが住んでいたかのようなオーラがあった。
(きっと、移動の際に地上から余剰品を運んだ結果、こういう実在人物がいそうな部屋が出来てしまったのね)
偶像、誰かの部屋のような雰囲気に出来上がってしまったのだと自分に言い聞かせて、部屋の中を調べる。
天蓋付きのベッドやアンティーク調の家具は、全て同じシリーズで揃えられていて、少し掃除すればすぐに人が住めそうに見えた。
一方で本棚の内容は統一感がイマイチなく、王立メテオライト時代の教科書や聖女認定試験の資格の本、ファッション雑誌やゲームの攻略本、楽譜など、多種多様なジャンルで構成されている。
クローゼットの中には、可愛らしいフリル付きの洋服が中心に揃っており、まるで乙女ゲームの主人公の部屋のようだった。
小物が入っているらしい引き出しを開けると、お目当ての毛糸玉が何種類か見つかる。
「嗚呼、良かった。これでレンカに毛糸玉を借りずに済むわ。えぇと、彼にはどんなマフラーが似合うのかしら?」
自分の恋人がマフラーをする姿を思い浮かべて、毛糸玉の色合いを決めようとすると、ギベオン王太子以外の黒髪の男の子の姿が浮かんできた。
『ルクリアさん、これ……オレにくれるの?』
謎の少年はサラサラの黒い前髪揺らし、ややつり目がちの大きな翡翠色の瞳は宝石のようだ。いわゆる美少年という形容詞がピッタリだが、その額には痛々しい傷の跡があった。
(ごめんなさい、せっかく神様が綺麗な顔に作ってくれたのに。私があの時に、氷魔法で傷をつけてしまったから。だから、やっぱり責任を取らないと……)
何故かスラスラと少年に対して出てくる謝罪の言葉は、ルクリアの心の奥底から生まれてくるものだった。
自分のせいで綺麗な顔に傷をつけた。
けれど笑って大丈夫だよと微笑む彼は、世界で一番優しく、可愛らしい。
きっと世界で一番カッコよくて、素敵な男性になる。
もし、彼が許してくれるなら。
自分を受け入れてくれるなら。
彼が望んでくれるのであれば。
私は彼と、結婚したい。
愛しているから。
「私……一体、誰と……結婚したかったの? うぅっ。頭が痛いっ」
思い出そうとした瞬間、頭に激痛が走り思わずしゃがみ込む。そして、額に傷のある美少年を思い出す代わりに、夜空から無数の隕石が落ちてくる映像とその隕石を呼んだ張本人の哀しいメッセージが聴こえてきた。
『そうだ……僕は悪くない、例えこの国に彗星を降らせても……隕石を衝突させたとしても。そのせいで氷河期が訪れたとしても……僕は悪くない。悪いのは……僕を選んでくれなかった氷の令嬢ルクリア・レグラスだ』
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