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正編 最終章

第02話 感傷に浸る二人は気づかない

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 未来人レンカ・ジェダイトが、突然学校に姿を現さなくなった。

『レンカちゃん、一体どうしちゃったんだろう。寄宿舎の部屋も空っぽだし、地下都市移住計画でレンカちゃんの未来まで変わっちゃったのかなぁ』
『でも、レンカちゃんって多分、ルクリアさんとネフライト君の子供でしょう。二人は正式に婚約したし、レンカちゃんが生まれる未来は守られているはずだよね』
『カルミアちゃんも、落ち込んじゃってあんまり詳しく話してくれないし。ただ、レンカは無事だとしか……』

 クラスメイト達は皆心配したが、事情を担任教師が説明をすることになった。

「実は、レンカさんは緊急で未来へ帰ることになってしまったそうです。理由としては、今の私達の世界線とレンカさんの未来の世界線が、イコールでは無くなってしまったからだとか」
「えっ。どういうことですか、私達の未来ではレンカちゃんに会えないの?」
「それはまだ分かりません。別のレンカさんが存在する未来はあるでしょう。このことにより、レンカさんのいる未来との通信は現時点で途絶えてしまい、皆さんへの報告が遅くなりました」

 騒つく教室、未来が変わったことによる動揺が走る。

『レンカちゃんがいた未来は、オレ達のパラレルワールドってこと?』
『多分、これから先の未来では私達の国は地下都市アトランティスとしてやっていくから、隣国との付き合いも変わってしまうんじゃない?』
『状況がこんなだから、仕方がないとはいえ残念だな。レンカちゃんともっといろんな話をしてみたかった』

 今の時間軸に、俗に言うパラレルワールドというものが発生してしまったのではないか、という意見が飛び交う。
 まさに、その発想は合ってはいるだろうが、レンカが消えているという解釈自体が実はトリックだ。しかし、この場にいる全員がこの話しを鵜呑みにしている様子。

「当初の予定にあった二十年後の保証も期待は出来ませんが、どっちみち死ぬ運命だった我々が生きていける二十年後を得られたことに意味があると思います。パラレルワールドの未来人レンカさんのことは、私達の心にずっと刻んでいきましょう。このクラスの全員がレンカさんを忘れないことが、彼女が生きた証拠になることを願って!」

 担当教師が生徒達を傷つけないようにうまくまとめて、ホームルームの時間が終了する。伯母様と慕われていたカルミアは、ずっと俯いて今にも泣き出しそうだった。クラスメイト達のうち何人かは、一番辛いのは懐かれていたカルミアだろうから、自分達でカルミアを支えていこうと話していた。
 そして、必ず地下都市移住を成功させて、素敵な未来を作るのだと……。


 クラスメイトが親切で頑張り屋で有ればあるほど、カルミアの心は傷んで真実を告げられないことが悔しくて仕方がなかった。

(違う、違うの! そうじゃないのよ、みんな。いなくなったのは、消されたのはカルミア伯母様なの。乙女ゲームの主人公本体に、中の人だった未亜さんは消されてしまったの。そして、今ここにいるカルミアこそが……未来人レンカなのよ! お願い、誰か気づいて!)


 主人公カルミア・レグラスの第二アバターとして作り直されたレンカは、銀髪を金髪に変更したことにより、完璧にカルミアに似ていて素人目には違いは分からない。
 もし、違いが分かる人物がいたとしたら、その人はカルミア・レグラスの本体に匹敵するくらいこのゲームのタイムリープを体感している者だけだろう。


 * * *


 隣国への移住が従来のシナリオよりもずっと早くなったルクリアは、婚約者のネフライトと共に自宅で荷造りをしていた。

「ルクリアさん、結局高校は辞めることになっちゃうね。ごめん、王立メテオライト魔法学園をきちんと卒業したかった?」
「ううん。法改正で思ったより早く入籍出来そうだし、それに昔の倭国の人は女学校在学中に見そめられて退学して嫁いだそうよ。隣国モルダバイトは倭国の影響を色濃く受け継いでいるし、そんなに浮かないわよ。それよりも、花嫁修行をしないとね。料理とかお裁縫とか……」
「ふふ、ルクリアさんの手料理楽しみにしてるよ。ところで、モフ君って出国の許可降りた?」

 荷造りをしているそばで、ミンク幻獣のモフ君がふらふらと様子を見ている。自分が運ばれるためのケージが用意されなくて、不安なのかも知れないとルクリアは思った。

「実はね、モフ君って地下都市出入り口を見つけられる特別な幻獣ってことで、まだ出国出来ないのよ。数ヶ月遅れで、隣国に届けてくれるそうよ。しばらく、お別れになっちゃうけど……」
「そっか、モフ君にもモルダバイトの美味しいペット用おやつを、食べさせてあげたかったな。けど、また合流出来るか……」
「そうよね、ごめんね。モフ君……」

 ルクリアが自分の髪色に似た銀色のモフ君の小さな頭を撫でてやると、嬉しそうにつぶらな目を瞑って甘えてきた。

「もきゅん、もきゅきゅん!」
「また会おうぜ、相棒って言ってるみたいだね。ルクリアさん」
「まぁネフライト君ったら……」

 初めのうちはお互い笑っていたが、段々と本当に祖国との別れの日が近づいていると思うと、ルクリアの瞳から涙が溢れ出した。すると、ネフライトが涙そっと拭って口付ける。

「ん……ネフライト君」
「オレのわがままで、いろんな人達と別れる羽目になってごめん。その代わり、幸せにするから……」
「うん……約束よ……」

 二人は何度も口付けを交わし、お互い温もりをもっと感じられるように抱きしめ合った。まだ、口付けと抱擁以上のことはしていない関係だが、既にルクリアはネフライトに純潔を……心の全てを捧げる覚悟が出来ていた。
 駆け足で大人になることになったネフライトに対して、せめて年上の自分がしっかり彼を支えられるように。彼が大人になった時に、妻がルクリアで良かったと思われるように。

 だから感傷に浸る二人は、ルクリアの異母妹カルミアが死んでいることに気づかない。そして、自分達の未来の娘レンカと入れ替わったなんて夢にも思わなかった。
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