54 / 94
正編 最終章
第02話 感傷に浸る二人は気づかない
しおりを挟む未来人レンカ・ジェダイトが、突然学校に姿を現さなくなった。
『レンカちゃん、一体どうしちゃったんだろう。寄宿舎の部屋も空っぽだし、地下都市移住計画でレンカちゃんの未来まで変わっちゃったのかなぁ』
『でも、レンカちゃんって多分、ルクリアさんとネフライト君の子供でしょう。二人は正式に婚約したし、レンカちゃんが生まれる未来は守られているはずだよね』
『カルミアちゃんも、落ち込んじゃってあんまり詳しく話してくれないし。ただ、レンカは無事だとしか……』
クラスメイト達は皆心配したが、事情を担任教師が説明をすることになった。
「実は、レンカさんは緊急で未来へ帰ることになってしまったそうです。理由としては、今の私達の世界線とレンカさんの未来の世界線が、イコールでは無くなってしまったからだとか」
「えっ。どういうことですか、私達の未来ではレンカちゃんに会えないの?」
「それはまだ分かりません。別のレンカさんが存在する未来はあるでしょう。このことにより、レンカさんのいる未来との通信は現時点で途絶えてしまい、皆さんへの報告が遅くなりました」
騒つく教室、未来が変わったことによる動揺が走る。
『レンカちゃんがいた未来は、オレ達のパラレルワールドってこと?』
『多分、これから先の未来では私達の国は地下都市アトランティスとしてやっていくから、隣国との付き合いも変わってしまうんじゃない?』
『状況がこんなだから、仕方がないとはいえ残念だな。レンカちゃんともっといろんな話をしてみたかった』
今の時間軸に、俗に言うパラレルワールドというものが発生してしまったのではないか、という意見が飛び交う。
まさに、その発想は合ってはいるだろうが、レンカが消えているという解釈自体が実はトリックだ。しかし、この場にいる全員がこの話しを鵜呑みにしている様子。
「当初の予定にあった二十年後の保証も期待は出来ませんが、どっちみち死ぬ運命だった我々が生きていける二十年後を得られたことに意味があると思います。パラレルワールドの未来人レンカさんのことは、私達の心にずっと刻んでいきましょう。このクラスの全員がレンカさんを忘れないことが、彼女が生きた証拠になることを願って!」
担当教師が生徒達を傷つけないようにうまくまとめて、ホームルームの時間が終了する。伯母様と慕われていたカルミアは、ずっと俯いて今にも泣き出しそうだった。クラスメイト達のうち何人かは、一番辛いのは懐かれていたカルミアだろうから、自分達でカルミアを支えていこうと話していた。
そして、必ず地下都市移住を成功させて、素敵な未来を作るのだと……。
クラスメイトが親切で頑張り屋で有ればあるほど、カルミアの心は傷んで真実を告げられないことが悔しくて仕方がなかった。
(違う、違うの! そうじゃないのよ、みんな。いなくなったのは、消されたのはカルミア伯母様なの。乙女ゲームの主人公本体に、中の人だった未亜さんは消されてしまったの。そして、今ここにいるカルミアこそが……未来人レンカなのよ! お願い、誰か気づいて!)
主人公カルミア・レグラスの第二アバターとして作り直されたレンカは、銀髪を金髪に変更したことにより、完璧にカルミアに似ていて素人目には違いは分からない。
もし、違いが分かる人物がいたとしたら、その人はカルミア・レグラスの本体に匹敵するくらいこのゲームのタイムリープを体感している者だけだろう。
* * *
隣国への移住が従来のシナリオよりもずっと早くなったルクリアは、婚約者のネフライトと共に自宅で荷造りをしていた。
「ルクリアさん、結局高校は辞めることになっちゃうね。ごめん、王立メテオライト魔法学園をきちんと卒業したかった?」
「ううん。法改正で思ったより早く入籍出来そうだし、それに昔の倭国の人は女学校在学中に見そめられて退学して嫁いだそうよ。隣国モルダバイトは倭国の影響を色濃く受け継いでいるし、そんなに浮かないわよ。それよりも、花嫁修行をしないとね。料理とかお裁縫とか……」
「ふふ、ルクリアさんの手料理楽しみにしてるよ。ところで、モフ君って出国の許可降りた?」
荷造りをしているそばで、ミンク幻獣のモフ君がふらふらと様子を見ている。自分が運ばれるためのケージが用意されなくて、不安なのかも知れないとルクリアは思った。
「実はね、モフ君って地下都市出入り口を見つけられる特別な幻獣ってことで、まだ出国出来ないのよ。数ヶ月遅れで、隣国に届けてくれるそうよ。しばらく、お別れになっちゃうけど……」
「そっか、モフ君にもモルダバイトの美味しいペット用おやつを、食べさせてあげたかったな。けど、また合流出来るか……」
「そうよね、ごめんね。モフ君……」
ルクリアが自分の髪色に似た銀色のモフ君の小さな頭を撫でてやると、嬉しそうにつぶらな目を瞑って甘えてきた。
「もきゅん、もきゅきゅん!」
「また会おうぜ、相棒って言ってるみたいだね。ルクリアさん」
「まぁネフライト君ったら……」
初めのうちはお互い笑っていたが、段々と本当に祖国との別れの日が近づいていると思うと、ルクリアの瞳から涙が溢れ出した。すると、ネフライトが涙そっと拭って口付ける。
「ん……ネフライト君」
「オレのわがままで、いろんな人達と別れる羽目になってごめん。その代わり、幸せにするから……」
「うん……約束よ……」
二人は何度も口付けを交わし、お互い温もりをもっと感じられるように抱きしめ合った。まだ、口付けと抱擁以上のことはしていない関係だが、既にルクリアはネフライトに純潔を……心の全てを捧げる覚悟が出来ていた。
駆け足で大人になることになったネフライトに対して、せめて年上の自分がしっかり彼を支えられるように。彼が大人になった時に、妻がルクリアで良かったと思われるように。
だから感傷に浸る二人は、ルクリアの異母妹カルミアが死んでいることに気づかない。そして、自分達の未来の娘レンカと入れ替わったなんて夢にも思わなかった。
0
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。
光子
恋愛
お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。
お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。
本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。
ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。
「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」
義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。
「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」
家同士が決めた、愛のない結婚。
貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。
だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。
「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」
お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの?
そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる!
リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌!
私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。
「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」
でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。
「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」
この日から、私の立場は全く違うものになった。
私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
政略転じまして出会いました婚
ひづき
恋愛
花嫁である異母姉が逃げ出した。
代わりにウェディングドレスを着せられたミリアはその場凌ぎの花嫁…のはずだった。
女難の相があるらしい旦那様はミリアが気に入ったようです。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-
さとう涼
恋愛
恋愛を封印し、花屋の店主として一心不乱に仕事に打ち込んでいた咲都。そんなある日、ひとりの男性(社長)が花を買いにくる──。出会いは偶然。だけど咲都を気に入った彼はなにかにつけて咲都と接点を持とうとしてくる。
「お昼ごはんを一緒に食べてくれるだけでいいんだよ。なにも難しいことなんてないだろう?」
「でも……」
「もしつき合ってくれたら、今回の仕事を長期プランに変更してあげるよ」
「はい?」
「とりあえず一年契約でどう?」
穏やかでやさしそうな雰囲気なのに意外に策士。最初は身分差にとまどっていた咲都だが、気づいたらすっかり彼のペースに巻き込まれていた。
☆第14回恋愛小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございました。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】
倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。
時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから!
再投稿です。ご迷惑おかけします。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる