追放される氷の令嬢に転生しましたが、王太子様からの溺愛が止まりません〜ざまぁされるのって聖女の異母妹なんですか?〜

星里有乃

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正編 第三章

第15話 鏡の向こうの声

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 王宮の主導により地下都市の工事着工から二週間が過ぎたある日、王立メテオライト魔法学園に移住担当大臣がやって来た。生徒会が開催する移住説明会にゲスト参加し、地下での学園生活がどのようになるのかを説明するという。


『古代地下都市は、山脈の下にあたる部分にあり、そのまま海底へと続いていることが判明しました。居住エリアは山脈の地下部分をメインにして、学校や商業施設などは海底部分に開発します。本日は、王立メテオライト魔法学園の皆さんに、校舎移動のアンケート調査を実施すべく参りました』
『質問です。地下では太陽の光が入らないと思うのですが、その辺りはどのような対策をお考えですか』
『小型の天体魔法道具を設置して、太陽や月の代わりを演出する予定です。太陽に関しましては、実際の天体のように植物などを育てる役割を担ってもらいます。雨などは人工的に調整しますが、生活を損なわない程度に工夫していければと』

 ひと通り説明が終わり、アンケート用紙に書き込む時間が生徒達に与えられる。アンケート用紙は、会場から帰るときに生徒会が回収するという仕組みだ。

「ご意見がある方は、アンケート提出後でも生徒会の目安箱にあらためて要望を伝えることが出来ます。是非、ご利用下さい!」
「カルミア君、アンケートの回収が終わったらレンカ君と一緒に移動スケジュールのコピーをお願いしたい」
「クロード生徒会長、分かりました!」

 当初は雑用などと揶揄われていた生徒会広報係のカルミアだったが、今回の移住計画においては移住に関する仕事が多くあり、本当の意味で忙しく内容のある時を過ごすことになった。
 カルミア自身も最初は目立ちたい一心で広報係を引き受けていたが、今ではこの移住計画に役立てることで心の奥底からやりがいを感じていた。

「あら、カルミア。今日も生徒会で居残りなの? 手伝えることがあったら言って頂戴ね」
「ルクリアお姉様、心配しなくても大丈夫よ。お姉様はまた別の出入り口が見つかった時のために、魔法力を温存しておいて」

 通常の乙女ゲームのシナリオでは、そこまで仲良くないルクリアとカルミアの異母姉妹だが、国の一大事になったため、学園内でも協力体制だ。

「……分かったわ。無理しちゃダメよ。ああ、それから地下移住の関係で延期していたお父様の演奏会なんだけど。実はプレ移住の時にイベント時の演奏を是非って、王宮から誘われてて。平気そうだったら、カルミアの歌もいれたいなって……」
「えぇっ。私が歌うの? プロの歌手でもないのに、大事なイベントの演奏会っていうのも、平気かなぁ」
「リハーサルを兼ねて、いずれレグラス邸でミニコンサートを行うからその時に歌ってみたら? 考えておいてね」

 古代地下都市への入り口を発見したレグラス家に、是非ともプレ移住時のイベント演奏会をお願いしたいとのこと。ルクリアはカルミアの性格はともかくとして、彼女の歌声をとても気に入っていて、歌を入れるならカルミアに歌わせたいと考えている。
 半ば無理矢理取り付けられた歌の約束に、カルミアは恥ずかしがりながらも、家族仲が修繕していくことを嬉しく感じていた。

(歌か……別に乙女ゲームの主人公が、絶対に王太子のお嫁さんにならなきゃいけない訳でもないし。このまま歌うことを勉強したり、目指しても幸せなのかなぁ……)

 もし、地下都市への移住が成功すれば高校生活をずっと繰り返すだけのタイムリープのシナリオが終わり、カルミアは高校を卒業して大人になる。これまで永遠に女子高生のつもりで、将来について真剣に考えてこなかったカルミアだが、最近は将来自分がどうなりたいかを考えるようになっていた。


 * * *


 生徒会の仕事が終わり寄宿舎に帰って、未来からやって来た姪っ子のレンカと仲良く夕食を食べる。既にこの流れがカルミアの日常となっていて、レグラス邸でギクシャクした生活を送っている頃よりも心が安らいでいた。

「んー。今日は鶏さんの唐揚げがとっても、ジューシーで美味しいです。嗚呼、地下に移動してからも養鶏は続けて欲しいなぁ」
「養鶏場や農園も早めに地下実験施設を作って、食糧不足に備えるつもりらしいわ。良かったわね、地下生活でも美味しい食事が食べられそうよ」

 レンカのいた未来では氷河期の影響で食糧不足の時期があったらしいが、今では対策を練る国が増えてメテオライト以外の国も地下施設の活用に乗り出している。これは、古代地下都市アトランティスが発見されたことによる副産物と言っても良いだろう。

「はいっ。私が未来に戻っても、メテオライトが古代地下都市アトランティスに移住してる世界が完成するといいなぁ。そしたら、カルミア伯母様のところに遊びに行ってもいいですか?」
「もちろんよ、私達って家族じゃない!」
「うふふ。家族……そうですね」

 次第にカルミアにとっての家族は、レンカも含めたものになっていた。乙女ゲームのシナリオ上は、カルミア・レグラスはあまり家族仲が良いわけではなく、その代わり交際相手となる異性への愛で寂しさを埋めていく傾向があった。
 一歩間違えると恋愛依存体質になりそうな乙女ゲームのシナリオだ。が、移住計画によりギベオン王太子が誰と婚姻するか決めるのは後回しになった為、カルミア自身もそこまで恋愛に関心を持たなくなる。

 全ては、移住が成功した後に決めればいい……殆どの人がそういう意見になっていた。

 その後は二人で共同浴場に入り、少しだけお話をして自室で眠るだけ。日常の締めくくりとなる就寝だが、カルミアは自室に帰るのが少しだけ怖かった。鏡を見るのが嫌だった……鏡の向こうには本来の乙女ゲームの主人公である【カルミア・レグラス】が不満そうな表情でカルミアに移住計画を頓挫させるように命令してくる。

『何故なの、未亜! せっかく貴女を私の中の人に選んであげたのに、これじゃあ恋愛シミュレーションとしての学園生活がエンジョイ出来ないじゃない! いいこと、初回移住までに計画を頓挫させてもう一度タイムリープさせるのよ。これ以上、私に逆らったら……貴女なんか……』

 怒りに震えて喚く乙女ゲームの主人公カルミアの姿が見えなくなるように、未亜は眠る前に鏡台に布をかけて就寝するのだった。けれど、その声は次第に大きくなり、いよいよ未亜を消そうとして動き出すのである。
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