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正編 第三章
第13話 幻獣が見つめる先には
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王宮がオークションで落札した地図によると、地下に眠る古代都市アトランティスの入り口は、強力な氷魔法の封印が施されているという。
国土の地盤に詳しい風水師や、古代文明を研究する考古学者などを王宮に招いて、会議が行われた。
「しかし、困りましたな。氷魔法の使い手はルクリア嬢という人材が確保出来ているものの、肝心の入り口が分からないのでは調査が出来ぬままだ」
「何か、氷とゆかりのある土地を重点的に調べてみては如何でしょう。我がメテオライト国は国土こそ、それなりにあるものの。雪や氷で閉ざされている地域も多く、居住区域は限られている。しかし、地下都市となれば話しは別だ」
「ふむ、確かに。この地図の大きさから察するに、ちょうど地上では閉ざされている地域の下が該当するのかも知れません。そもそも、地上の居住区域と場所が被っていたら、水道工事や電気工事で穴を掘った際に何かしら気づいているでしょうし」
話し合っていくうちに、次第に地下都市がありそうな場所が絞られていく。隕石衝突予定まで二年あるが、地下都市を整備して住めるようにすることを考えると本当にギリギリのスケジュールだ。
「もし、地下都市が見つかった暁には早めに住民を移住させて、住みながら整備していく方が効率が良いでしょう」
「拠点となる王宮の第二宮殿も検討しなくてはいけませんね。それと、整備仕事を行う人員の確保も必要だが、人のチカラだけではとても……。古代人はゴーレム技術で都市を急速に発展させたとされている。我々もゴーレム造りを行なって、彼らに手伝わせれば……」
「しかし、暴走の可能性のあるゴーレム造りの許可は、王族のみに許されている。現場に時折国王陛下や王太子に立ち会ってもらわなくてはなりませんな」
今後の効率を考えて移住しながらの整備、人員不足とスピードを補うためのゴーレム製造、王族にも現場に来てもらうことに。
特に、ギベオン王太子はゴーレムなどの土や鉱物を用いた魔導人造物が得意で、今回の計画にはピッタリな人物だった。
「ギベオン名付けられた王太子が現れる時は、隕石衝突の時代が来るとされていますが。意外と、ギベオン王太子が得意とするゴーレム技術を持ちいれば隕石が墜ちるよりもよりも早く、移住が済むのでは? ともかく、すぐにやれるところから実行しましょう」
「うむ。時間がない、急がねば!」
* * *
「王宮からの直接要望でな、ルクリアに明日の朝から古代都市の入り口を探す作業に参加して欲しいそうだ。地図と実際の土地を照らし合わせて、大体の場所は目処がついているらしい」
「地下都市の土地調査に私も、学校の課外授業扱いとして認定するから……って、随分と急ね」
「移住までの時間を踏まえるとスケジュールはギリギリらしい。だから、入り口を早く見つけるには氷の使い手がすぐに必要なのだよ。何せ、氷の精霊ベイラが封印をした古代地下都市だからな。それと、ゴーレム使いとしてギベオン王太子も同行するそうだ」
一歩間違えれば都市を滅ぼしかねないとされているゴーレムを起用するにあたっては、王族の許可が必要だということはルクリアにも分かっている。けれど、つい最近にギベオン王太子と電話で口論になり、挙句周辺の希望もあってそろそろ婚約破棄となりそうなタイミングでの共同作業。現場で、気まずくなる予感がしてならない。
「えっ……どうしよう。つい最近、婚約があやふやになったばかりなのに」
「今回ばかりは、気まずくても会わなければ仕方がないだろう。向こうだって、国の一大事だしそこまで私情は挟まないさ。それから、探索に役立ちそうな幻獣を一匹連れて来てくれとのことだが、お前のミンク幻獣は役立ちそうか?」
「えぇっ。モフ君のこと? モフ君って、幻獣とは名ばかりで、可愛くて暖かくて癒されるだけのか弱い存在よ。毛皮のコートとしての需要が高いせいで、密輸入業者に狙われやすいし。この子に探索なんか出来るのかしら」
ルクリアがモフ君のケージにまで行き、抱き上げて様子を見るとおやつをモキュモキュと食べている最中だった。
「もきゅん!」
つぶらな瞳が愛くるしいモフ君はカワウソのような、フェレットのような、要はイタチ系の生き物のビジュアルである。
「モフ君、この国の命運は貴方の探索能力にかかっているのよ。出来そう?」
「もきゅん、もきゅもきゅ!」
なお、幻獣の数あれどミンク幻獣を連れ歩いている魔法使いには滅多に会わない。何故なら、極寒の中でも大丈夫なコートとしてミンク系幻獣族が重宝されているからだ。そういう特色がなければ、もっと他所でもミンク幻獣を見かけていたことだろう。
「おぉっ。僕に任せろ、相棒! と言った気がするぞ。良かったな、ルクリア。これで明日の探索は安泰だ」
「えぇっ? そんなこと言ってない気がするけど。一応、この子しかうちには幻獣はいないし……まぁいいか。頑張りましょう」
抱っこして暖をとる以外は殆ど役に立たなそうなモフ君だが、レグラス伯爵は無理矢理でもモフ君が役立つ設定にしたい様子。元から期待しないつもりで、ミンク幻獣モフ君を連れていくことになったルクリア。
――ミンク幻獣モフ君のつぶらな瞳の先に、ルクリアを介して既に氷の精霊ベイラが映っているとは……この時点ではまだ気づかなかった。
国土の地盤に詳しい風水師や、古代文明を研究する考古学者などを王宮に招いて、会議が行われた。
「しかし、困りましたな。氷魔法の使い手はルクリア嬢という人材が確保出来ているものの、肝心の入り口が分からないのでは調査が出来ぬままだ」
「何か、氷とゆかりのある土地を重点的に調べてみては如何でしょう。我がメテオライト国は国土こそ、それなりにあるものの。雪や氷で閉ざされている地域も多く、居住区域は限られている。しかし、地下都市となれば話しは別だ」
「ふむ、確かに。この地図の大きさから察するに、ちょうど地上では閉ざされている地域の下が該当するのかも知れません。そもそも、地上の居住区域と場所が被っていたら、水道工事や電気工事で穴を掘った際に何かしら気づいているでしょうし」
話し合っていくうちに、次第に地下都市がありそうな場所が絞られていく。隕石衝突予定まで二年あるが、地下都市を整備して住めるようにすることを考えると本当にギリギリのスケジュールだ。
「もし、地下都市が見つかった暁には早めに住民を移住させて、住みながら整備していく方が効率が良いでしょう」
「拠点となる王宮の第二宮殿も検討しなくてはいけませんね。それと、整備仕事を行う人員の確保も必要だが、人のチカラだけではとても……。古代人はゴーレム技術で都市を急速に発展させたとされている。我々もゴーレム造りを行なって、彼らに手伝わせれば……」
「しかし、暴走の可能性のあるゴーレム造りの許可は、王族のみに許されている。現場に時折国王陛下や王太子に立ち会ってもらわなくてはなりませんな」
今後の効率を考えて移住しながらの整備、人員不足とスピードを補うためのゴーレム製造、王族にも現場に来てもらうことに。
特に、ギベオン王太子はゴーレムなどの土や鉱物を用いた魔導人造物が得意で、今回の計画にはピッタリな人物だった。
「ギベオン名付けられた王太子が現れる時は、隕石衝突の時代が来るとされていますが。意外と、ギベオン王太子が得意とするゴーレム技術を持ちいれば隕石が墜ちるよりもよりも早く、移住が済むのでは? ともかく、すぐにやれるところから実行しましょう」
「うむ。時間がない、急がねば!」
* * *
「王宮からの直接要望でな、ルクリアに明日の朝から古代都市の入り口を探す作業に参加して欲しいそうだ。地図と実際の土地を照らし合わせて、大体の場所は目処がついているらしい」
「地下都市の土地調査に私も、学校の課外授業扱いとして認定するから……って、随分と急ね」
「移住までの時間を踏まえるとスケジュールはギリギリらしい。だから、入り口を早く見つけるには氷の使い手がすぐに必要なのだよ。何せ、氷の精霊ベイラが封印をした古代地下都市だからな。それと、ゴーレム使いとしてギベオン王太子も同行するそうだ」
一歩間違えれば都市を滅ぼしかねないとされているゴーレムを起用するにあたっては、王族の許可が必要だということはルクリアにも分かっている。けれど、つい最近にギベオン王太子と電話で口論になり、挙句周辺の希望もあってそろそろ婚約破棄となりそうなタイミングでの共同作業。現場で、気まずくなる予感がしてならない。
「えっ……どうしよう。つい最近、婚約があやふやになったばかりなのに」
「今回ばかりは、気まずくても会わなければ仕方がないだろう。向こうだって、国の一大事だしそこまで私情は挟まないさ。それから、探索に役立ちそうな幻獣を一匹連れて来てくれとのことだが、お前のミンク幻獣は役立ちそうか?」
「えぇっ。モフ君のこと? モフ君って、幻獣とは名ばかりで、可愛くて暖かくて癒されるだけのか弱い存在よ。毛皮のコートとしての需要が高いせいで、密輸入業者に狙われやすいし。この子に探索なんか出来るのかしら」
ルクリアがモフ君のケージにまで行き、抱き上げて様子を見るとおやつをモキュモキュと食べている最中だった。
「もきゅん!」
つぶらな瞳が愛くるしいモフ君はカワウソのような、フェレットのような、要はイタチ系の生き物のビジュアルである。
「モフ君、この国の命運は貴方の探索能力にかかっているのよ。出来そう?」
「もきゅん、もきゅもきゅ!」
なお、幻獣の数あれどミンク幻獣を連れ歩いている魔法使いには滅多に会わない。何故なら、極寒の中でも大丈夫なコートとしてミンク系幻獣族が重宝されているからだ。そういう特色がなければ、もっと他所でもミンク幻獣を見かけていたことだろう。
「おぉっ。僕に任せろ、相棒! と言った気がするぞ。良かったな、ルクリア。これで明日の探索は安泰だ」
「えぇっ? そんなこと言ってない気がするけど。一応、この子しかうちには幻獣はいないし……まぁいいか。頑張りましょう」
抱っこして暖をとる以外は殆ど役に立たなそうなモフ君だが、レグラス伯爵は無理矢理でもモフ君が役立つ設定にしたい様子。元から期待しないつもりで、ミンク幻獣モフ君を連れていくことになったルクリア。
――ミンク幻獣モフ君のつぶらな瞳の先に、ルクリアを介して既に氷の精霊ベイラが映っているとは……この時点ではまだ気づかなかった。
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