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正編 第三章

第10話 主人公の宿命には逆らえない

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 一説によると、未来というのは現在の時間軸から枝分かれしており、これをパラレルワールドと呼ぶ。誰かの選択の一つ一つが幾つかの種類の未来を作り出し、そして消える未来もあるという。
 今、カルミアの目の前で起きている現象は、確定していたはずの未来が、可能性として低くなったことを示していた。ルクリアとネフライトの娘レンカが、透明になり消えかけていている現実が、如実にそれを示している。

「うぅ……身体が変だよ。いやだ、私……消えちゃうの? まさか、未来が変わってしまった。助けて、カルミア叔母さま!」
「レンカ、落ち着いて。大丈夫よ、ルクリアお姉様が貴女を産むまで、まだ四年もあるわ。そうそう今の状態で、貴女が消えるなんて有り得ない。乙女ゲームと同じよ、自分が目指す攻略ルートを頭に浮かべて。そのシナリオを目指して。貴女の両親の名前は? 変化が起きたとしたら、その辺りよ」

 レンカがこの世に生を受けるのは今から四年後のはずだが、両親であるネフライトかルクリアの身に現時点で何かが起こればレンカが生まれる可能性は減る。
 怪我や病気など命の危険性だったら一大事だが、未来の予定を聞く限りでは両親二人の隕石衝突までは生存率は高く感じられていた。
 となると……結婚の可能性が減ったと考えるのが打倒で、ルクリアは今の段階ではギベオン王太子の婚約者だ。原因があるとしたら、ルクリアがギベオン王太子と婚約破棄しないルートを選ぶくらいしか、カルミアは思いつかなかった。

「私は、レンカ。お父さんはネフライト・ジェダイトで、お母さんはルクリア……ルクリア? ジェダイト、レグラス……メテオライト? あ、頭が痛いっ」

(メテオライトってギベオン王太子のファミリーネームでこの国の名前じゃない。やっぱり! ルクリアお姉様の結婚フラグが、何故かギベオン王太子で固定されつつあるわ。今日は、ネフライト君と一緒に帰宅していたはずなのに。ルクリアお姉様……何故?)

「仕方がないわ、貴女にこのカルミア・レグラス愛用設定の予備ピアスをあげる。まだ未使用で新しいから、付けても問題ないはずよ。貴女は乙女ゲームの主人公カルミアの色違いアバターになるの、いわば第二の主人公ね。それで延命出来るはずだわ」
「色違い……そうか。私、カルミア叔母さまに似ているんだ。乙女ゲームの主人公アバターという別の特性を使えば……」

 ピコン!
 レンカにカルミアの目印とも言える花デザインのピアスを装備させると、カルミアのスマホからピコピコとした電子特有の通知音が流れる。

『カルミア・レグラスにそっくりな謎の美少女レンカの情報を、アプリにダウンロードしました。本日の更新から、主人公の第二アバターとしてレンカを使用することが出来ます』

 すると、レンカの存在がこの世界線に認定されたのか、レンカの身体の透け具合が徐々に改善されていく。まるで、実装される予定だったゲームキャラが、開発途中の段階で削除かお蔵入りしてしまう状況をリアルに垣間見てしまったかのようだった。

「はぁはぁ。怖かったよ、カルミア叔母さま」
「ふう……私だって、肝が冷えたわよ。たまたま、私と貴女のビジュアルが似ていて良かったわね。よく見ると別の顔ではあるんだけど、パッと見た感じはそっくりだし。主人公カルミアの色違いキャラとして、認定されたと思うわ。金髪のカルミアと銀髪のレンカって感じね」

 今思えば制服購入会の試着室で無理矢理、カルミア本体に髪を断髪させられて良かったと中の人である『未亜』の部分が思った。おそらく、カルミアというキャラクターは内巻きボブヘアが重要なのだろう。そこに、キャラの目印としてカチューシャと花型ピアスをつければ、一応はカルミアなのだ。

「けど、叔母さまって。よく、こんなことにすぐ気づいたね」
「まぁいろんなゲームをプレイしていたら、ダウンロード特典とかで主人公の容姿が変わる! とか、見慣れているし。ただ、私って前世だと早く死んじゃっているから、この乙女ゲームのリメイク版については疎いのよ。だから、この先の展開の強いわけではないの」

 攻略本なしでリメイク版の先を見なくてはいけないのは、乙女ゲームマニアのカルミアでも結構なストレスだった。

「ううん、初代主人公ほど強いものはないと思うから。やっぱり、初代が原点にして最強っていうか。けどせっかくシュークリームを美味しく食べてたのに、まさかこんなふうに具合が悪くなるなんて……」
「シュークリームなら、また明日売店で買えるわよ。問題は、何故レンカが消えかけたかだけど、ルクリアお姉様の苗字が認識出来なくなったのだから、きっとネフライト君とのフラグが弱くなったのよね」

 本来のバージョンでは、絶対と言っていいほどルクリアとギベオン王太子は婚約破棄する。そのため、消去法で絶対にネフライトとルクリアが結婚すると思っていたのだが、リメイク版ではそうもいかないらしい。

「……お父さんとお母さん、結婚しなくなっちゃうの?」
「二人の恋がはっきりとは決まっていないのよ。今のネフライト君じゃ、まだ子供扱いされている部分があって、年上のギベオン王太子が有利になることが多いのかも。仕方がない……明日、お姉様の様子を探るか……それと乙女ゲームのシナリオ通り、ちょっと私の方からもギベオン王太子にモーションをかけてみる」

 まさか、姪っ子レンカの生存ルートという新たな目的のために、カルミア自らギベオン王太子にモーションをかけることになるとは思わず……。乙女ゲームのシナリオには逆らえないのだと、カルミアの中の人である『未亜』は主人公の宿命を感じるのだった。
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