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正編 第二章
第13話 生徒会長が手にするもの
しおりを挟む乗馬の練習をしている最中に頭を打ったカルミアは前世の記憶を思い出し、ここが乙女ゲームの異世界であることに気付いた。いずれ王立メテオライト魔法学園に入学すれば、自分は主人公になれると、それだけを生きがいに複雑な家庭環境を乗り切った。
だが、中学受験で王立メテオライト魔法学園を受けようとすると、父親から止められてしまう。
『ねぇお父様、どうして私は中学受験で王立メテオライト魔法学園を受けられないの。ルクリアお姉様は通っているのに』
『カルミアや、お前はまだ妾の子という設定で戸籍上ワシはお前を認知しているだけなんだ。戸籍上の今の養父はお前のお爺さんということになっている。だがワシとしてはお前を正式な娘として迎え入れたい。戸籍の調整が終わるまでは、王立メテオライト魔法学園の受験はちと難しいのだよ。先にルクリアが入学してるし、きちんと姉妹になってからじゃないと世間体がな』
『そういえば、そうだったわね。最初は妾でシングルマザーだとお母さんが可哀想だからって、お祖父さんが私を養子にしてくれたんだ』
『今は融通のきく隣町のお嬢様学校で我慢してくれんかね。あの学校も、良いところに嫁ぐためにはかなり有利だぞ。それまで偏差値も上げておかないとな』
『分かった……偏差値を気にするなら、聖女認定試験の勉強をして推薦枠を狙うわ。王立メテオライト魔法学園は、聖女受験枠があるはずだから。聖女認定試験に受かりさえすれば、即ち王立メテオライト魔法学園は合格したも同然よ。なんで今まで気づかなかったんだろう』
せっかく異世界に転生したのだから、他の学校の様子を見るのも良いだろうとカルミアは前向きに考えていた。お嬢様学校の生徒会なんて、きっとライトノベルのように輝いているに違いない……と。
だがお嬢様学校は至って普通の……ある意味良識のある健全な女子ばかりで。生徒会役員が絶対的な権力を持っている世界なんて、実はないものだとカルミア・レグラスは感じていた。
せっかく異世界に転生したのに、生徒会というシステムは地球時代となんら変わらないただの学級委員の全校版だった。中学時代の三年間はそれなりのお嬢様学校で特に面白くもない授業を虚無の心で聴くだけ。
高校受験にして、ついに入学することが出来たカルミアだったが、制服に袖を通すと自我が消えていくことに気づく。世間は異世界転生者の未亜ではなく、カルミア・レグラスを欲しているのだと言いたげだ。その証拠に主人公たるカルミアを待ってましたとばかりに、入学式そうそう生徒会長がスカウトしに来た。
「カルミア・レグラスさんだね、噂は以前から聴いているよ。私は高等部二年のオニキス・クロード、王立メテオライト魔法学園の生徒会長だ」
「初めまして、クロード会長。私、入学早々何かしましたか? 一応、姉の目もあるし馴染むようにしているつもりだったのだけど。何か気になることでも」
「いやいや……なんでも、聖女認定試験に優秀な成績で合格した才女だとか。聖女枠は先輩が卒業して空きがあってね、今はうちの生徒会役員に聖女認定試験合格者がいないんだ。キミさえ良ければ、ぜひ聖女として共に活動してみないか」
彼は【夢見の少女と彗星の王子達】にも登場する攻略対象の一人で、名をオニキス・クロードという。オニキス会長は黒髪黒目の眼鏡イケメンで、攻略対象の中ではビジュアルこそ地味寄りだが、静と動の二重人格めいた激しいキャラが一部の女子にウケていた。
「ルクリアお姉様の代わりは出来ないけど、聖女枠の穴埋めなら」
「そうか、それは良かった。カルミアさんが我が生徒会に加入してくれたら百人力だ。中学在学中に聖女認定試験にチャレンジした頑張り屋さんのキミなら、きっと生徒会のいろんな仕事もこなせるよ。では、お昼を食べ終わったら先生に許可を得て生徒会室に来てくれたまえ。午後のホームルームは役員決めだから、生徒会室で直接話し合おう」
だけど彼の目当てはプレイヤーの未亜ではなく、あくまでも乙女ゲームの主人公カルミアだ。プレイヤー時代は少しだけ生徒会長を気に入っていたため、本来の自分である未亜を認識してくれない生徒会長にガッカリしてしまう。
ピピピ!
『お知らせが一通あります』
通知音にそれとなくスマホを確認すると、【生徒会長とのフラグ発生】というお知らせがアプリ画面から来ていて、スマホの中のカルミアアバターは頬を赤く染めて嬉しそうにしていた。
すると連動するように、自分の頬も赤く染まっていることに気づく。
(嗚呼、私もこうしてだんだんとゲームの設定キャラクター通りに変化していくのね)
* * *
途中、異母姉のルクリアがまんざらでもなさそうな様子で、ネフライト君と中庭でランチをしているところを目撃し、カルミアは本当に王太子と異母姉は破局しそうだと確信する。
(今日から、私の人生が変わる。乙女ゲームの主人公になって、生徒会で聖女枠として活躍して、ギベオン王太子と婚約して……それから、それから……それからは、また一年生に戻るんだ。けど、それでもいい……! 私は輝きたい)
生徒会室のドアを開けると、乙女ゲームのスチルイラストそのままのポーズで乙女ゲームのキャラクター達が、カルミアを出迎えてくれた。だが、生徒会長のクロードだけは、スチルイラストには描かれていなはずの【禁書】を手にしていた。
(あれは……【夢見の聖女と彗星の王子達】の攻略本?)
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