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正編 第二章

第10話 ひときわ目立つ新入生

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 ヒラヒラと舞い散る桜の花びらが、新学期の学園内を鮮やかに彩る。まるで日本の春の学校を彷彿とさせる風景だが、ここは異世界の西方大陸だ。

 異世界にも日本の文化に近しい倭国という国があり、桜の木はそこから友好の証に貰ったものだという。魔法都市国家メテオライトの学校は、倭国と同じく四月始まりを採用しているためちょうどよかったのだろう。

「おはようございます、中等部と高等部の始業式と入学式は総合ホールで行います。座席番号に従って移動してください!」

 他の学校と比べて珍しい光景をあげるとすれば、学園敷地内を歩く生徒達の制服デザインが新旧両方見受けられるところだ。女子の制服デザインは特に変更点が多く、旧デザインが典型的な白の襟元に細い赤リボンのグレーのブレザーなのに対して、新デザインはセーラー服風の襟元にベージュのブレザーという混合スタイルを採用している。
 旧タイプの制服はグレーを基調にしているせいか、リボンさえなければ修道女のシスターを彷彿させる。名門校らしいお堅いイメージが長く定着していたものの、今年度から随分と垢抜けた方向に変更されたと評判だ。
 だが、旧タイプの古風なデザインに愛着がある女子生徒も多く、結果として新旧入り混ざる光景が実現した。


「皆さん、今日から新学期です。数は僅かでありますが、他校から入学してきた新しい生徒もいます。制服のデザインも新しくなりましたし、気分を一新して頑張ってください」
「では、本日のホームルームは新しい生徒さんへの学内の紹介も兼ねて、各委員会の所属を決めますので、教室への移動をお願いします」


 制服の変更以外は極めて無難に特にこれといったところもなく、新学期が始まったことにマンネリを感じている生徒も多い。
 全てにおいて初等部から進学してきてそのまま大学までの付き合いとなる面々ばかりで、新しい学年への期待やときめきが薄れているのだ。

『委員会かぁ……今年は委員会どうしようかなぁ?』
『生徒会以外は、だいたいどこも一緒じゃない』
『今年も生徒会長は続投だろうし、こんな時に一貫校って刺激に欠けると思うよ』

 委員会に関しても生徒会長の続投年数が長くなりがちで、新しい風が校内に吹くことすらなかった。だが、そのマンネリは意外な形で打破されることになる。
 たった一人の生徒が入学してきたことで、この学園は彼女を中心に回るように変わる。

『刺激ねぇ……あっそういえば、今年の新入生って、ギベオン王太子の婚約者の異母妹がわざわざ他校から入学してきたらしいよ。みんな結構、注目してるんじゃない?』
『えっ……異母妹って妾の娘さんなんでしょ。よく一緒に暮らしているよね、でもお母さん達は両方亡くなっているんだっけ。わざわざ学校まで同じにする必要ないよなぁ』
『それがさ……ギベオン王太子とルクリアさん、もしかしたら婚約破棄するかも知れないんだって。けどもうレグラス家からお嫁さんを貰うって契約書にサインしちゃっているから、不履行にならないために異母妹に白羽の矢が当たっているらしいよ』

『あー……例の財閥ご子息誘拐事件があったしねぇ。ギベオン王太子とは破断の可能性が出てきたし、異母妹にフォローさせるのか』

 乙女ゲームのシナリオ通りに進んでいるのか、二年後の婚約破棄イベントに向けて早速ルクリアとギベオン王太子が別れる噂が流れていた。原因はやはりルクリアが氷魔法でジェダイト財閥のご子息に、一生額に傷が残る怪我をさせたことだ。とはいえ、氷魔法を使った理由は誘拐を目論んでいた男達からご子息を守るためであり、傷が残ったのも本来は誘拐事件が根本にある。
 さらに、ギベオン王太子がいる場所で誘拐事件と怪我が起きたのも理由の一つで。いくらギベオン王太子が王族とはいえ、巨大財閥と揉めるのは経済的にも不利である。

 ジェダイト財閥のご子息は命の恩人でありながら、傷の原因でもあるルクリアに憧れ以上の感情を抱いているらしい。ご子息の方が年下ではあるが、ルクリアは彼に対する責任を取る意味でも嫁ぐのではないかという話になっていた。

『はぁ? 何よそれ、それじゃあ二人が万が一ダメだった時に狙っていた女の子達にチャンスが回ってこないじゃない! 家同士の付き合いが優先ってこと? それにルクリアさんは超美人だけど、その異母妹って子の外見はどうなの』
『だから、その異母妹の顔をひと目でも見たくて、同じ委員会になろうって人が多いらしいよ』

 ルクリアの異母妹カルミア・レグラスは、自分で乙女ゲームの主人公を自称していたが、おそらく最も目立つ生徒になることは確実だった。その理由はルクリアの異母妹で、王太子の新たな婚約者になる人物というひときわ目立つ条件が揃っていたからである。

『けど委員会って言っても、生徒会長が彼女をスカウトする気らしいよ』

 そして、その最も目立つ人物を是非引き入れたいと考える生徒も少なからずいるのだ。
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