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正編 第一章
第02話 乙女ゲームの始まり
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魔法道具を用いた映像機はまるで地球時代のテレビのようで、この異世界で重宝されているもののひとつである。日常のニュースからお買い物や料理の情報など、家にいながら情報が得られるのは嬉しいものだ。
その日、学校はテスト休みで身体が怠く思うように動かなかったルクリアは寝坊をしてしまった。自室に設置された異世界のテレビで社会情勢を把握してから、家族のいる居間へと向かうことに。
『まるで氷河期がやって来たかのような寒さに、思わず震えてしまいますね。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。学校が休みとなって自宅にいる学生さんも多いのでは?』
『もともと受験シーズンで、お休みとなっている学校も多いですからねぇ。この寒波の中、通学しなくても良いのはラッキーでしょう』
『受験生の皆さんは大変ですが、なんとか乗り切ってほしいものです』
(受験か、そういえばそろそろカルミアの合否通知が届くわよね。カルミア、せっかく今でもエスカレーター式のお嬢様学校にいるのだから、今回の受験を諦めてくれたら良かったのに)
ピンポーン!
『郵便でーす。カルミア・レグラス様宛に、王立メテオライト魔法学園からお手紙が届いてます』
二月上旬、レグラス邸に一通の速達便が届いた。
史上稀に見る寒波が続き、地面は凍結で危うく郵便物も宅配も数日遅れ……なんてことはザラなのに。何故かその手紙だけは、一切の遅れなく届いてしまった。
暖炉の前でくつろぐレグラス伯爵に、次女のカルミアが小躍りしながら速達便の中身を見せる。そこには、【合格】の文字がしっかりと書かれていた。
「ヤッタァ! 王立メテオライト魔法学園に合格したわ。お父様、褒めて褒めて!」
「おぉ可愛いカルミアや、良くやったな。推薦試験とはいえ、我が国トップクラスの魔法学園の試験、論文と面接だけでも難関だ。しかし、お前なら必ず合格すると信じていたよ。王立学園には先にルクリアが入学しているから、分からないことがあったら頼るといい。おや、ルクリアは何処だい?」
「お姉様は毎日の寒波でちょっぴり熱っぽいみたいで、まだお休みなのかなぁ。あっお寝坊のお姉様! 私ね、王立メテオライト魔法学園に合格したの。春から、お姉様の後輩になるから宜しくねっ」
散々陰で悪口を言っている癖に、親の前だと途端に良い子を演じる異母妹カルミアに嫌気がさしつつ。ルクリアは『良かったわね、おめでとう。これから宜しくね……』と無難に返事をしてその場をやり過ごす。
(ついに、この日が来てしまった。もうすぐ、乙女ゲームのシナリオが始まってしまう。いや、今日からスタートなのかしら。気が重い……)
人気乙女ゲーム『夢見の聖女と彗星の王子達』は、主人公カルミア・レグラスが王立メテオライト魔法学園高等部に合格するシーンから始まる。カルミアは伯爵令嬢であるものの、妾の子であったが故に超名門校を受験するには肩身が狭く、体裁の良いほどほどの学費のお嬢様学校で過ごしていた。聖女の資格を取得してようやく、国内随一の名門王立校に入学出来たのだ。
乙女ゲームのシナリオ通りなら、一学年先輩である異母姉ルクリアに厳しく躾けられながらも、健気に頑張るカルミアをみて次第に王太子ギベオンの心が姉から妹へと移り変わる……というのが大筋のシナリオ。
しかし、貴族としても学生としても常識のない馬鹿な主人公を厳しく躾けて逆恨みされ……。挙句追放されるという貧乏くじの異母姉ルクリアに転生した身からすれば、今日という日は運命の分岐点だ。
史上稀に見る寒波の影響で、カルミアの気が変わり、そのまま今所属している学校の高等部に進学くれたら……と願っていたが。そこは受験生の事を、王立メテオライト魔法学園側が配慮してくれたらしい。基本はエスカレーター式だが、他校からの受験者にも配慮して日程調整をしたそうだ。
むしろ、寒波ということで少し甘い採点だというインターネット上の噂もあり、馬鹿なはずの異母妹が面接と論文だけとはいえ試験に合格してしまった。
遠方の優秀生徒が泣く泣く受験を諦めて、入学者の人数に空きが出たという説もある。兎にも角にもこれから二年間、二重人格で性悪な異母妹カルミアと学園内でも顔を合わせなくてはならない。
(なんて事なの、まさかこの大寒波も聖女として転生したカルミアが試験に有利に行くように天候が味方した? いえ、考え過ぎよね)
「うぅ。頭が痛い……」
考えるだけで思わず頭痛がしてしまい、居間の真ん中でルクリアは頭を抑えながらしゃがみ込む。
「ルクリア! このめでたい日に本当に風邪なのか。可哀想に……いや、一月から狂ったように寒く風邪ひきも多いという。カルミアの合格パーティーは我々で行うとして、ルクリアにはゆっくり寝ててもらおう。万が一、風邪を拗らして未来の王妃のお前が、美人薄明……なんて事になったら大変だ」
「お姉様! そんな病弱じゃあ、将来ギベオン王太子様のお嫁さんになるなんて難しいわよ。け・れ・ど! 私が入学したら、もしかして王太子様の婚約者の座を奪っちゃうかも。ねぇお姉様がここでダウンしたら、異母姉妹で王太子様を奪い合う乙女ゲームのシナリオが出来なくなっちゃうわ。早く立ってよ」
難関校に合格してよっぽど気分が高揚しているのか、親の前でもシナリオ云々などの戯言を抜かし始めたカルミアにいよいよルクリアもキレそうになってしまう。
「うぅ。ごめんなさい、今は本当に具合が悪くて貴女の冗談に付き合ってあげられないの。また、今度ね……」
だが、立ち上がった反動で余計ふらふらとしてしまい、まともな会話が成り立たない。辛うじて体勢を立て直し、纏わりついてくるカルミアを遠ざける。
「あーん、本当に風邪なんだ。ちぇっ……つまんない」
「ほら、カルミア。合格したんだからこれからは学園でも、ルクリアに遊んでもらえるようになるんだぞ。今は我慢しなさい……って、おいルクリアッ。大丈夫かっルクリア!」
父と異母妹の会話がルクリアの頭にぐらぐらと響く。瞬間、何処からか冷たく突き刺すような視線を感じたが、ルクリアはその視線の主を確認出来ずにその場で倒れた。
その日、学校はテスト休みで身体が怠く思うように動かなかったルクリアは寝坊をしてしまった。自室に設置された異世界のテレビで社会情勢を把握してから、家族のいる居間へと向かうことに。
『まるで氷河期がやって来たかのような寒さに、思わず震えてしまいますね。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。学校が休みとなって自宅にいる学生さんも多いのでは?』
『もともと受験シーズンで、お休みとなっている学校も多いですからねぇ。この寒波の中、通学しなくても良いのはラッキーでしょう』
『受験生の皆さんは大変ですが、なんとか乗り切ってほしいものです』
(受験か、そういえばそろそろカルミアの合否通知が届くわよね。カルミア、せっかく今でもエスカレーター式のお嬢様学校にいるのだから、今回の受験を諦めてくれたら良かったのに)
ピンポーン!
『郵便でーす。カルミア・レグラス様宛に、王立メテオライト魔法学園からお手紙が届いてます』
二月上旬、レグラス邸に一通の速達便が届いた。
史上稀に見る寒波が続き、地面は凍結で危うく郵便物も宅配も数日遅れ……なんてことはザラなのに。何故かその手紙だけは、一切の遅れなく届いてしまった。
暖炉の前でくつろぐレグラス伯爵に、次女のカルミアが小躍りしながら速達便の中身を見せる。そこには、【合格】の文字がしっかりと書かれていた。
「ヤッタァ! 王立メテオライト魔法学園に合格したわ。お父様、褒めて褒めて!」
「おぉ可愛いカルミアや、良くやったな。推薦試験とはいえ、我が国トップクラスの魔法学園の試験、論文と面接だけでも難関だ。しかし、お前なら必ず合格すると信じていたよ。王立学園には先にルクリアが入学しているから、分からないことがあったら頼るといい。おや、ルクリアは何処だい?」
「お姉様は毎日の寒波でちょっぴり熱っぽいみたいで、まだお休みなのかなぁ。あっお寝坊のお姉様! 私ね、王立メテオライト魔法学園に合格したの。春から、お姉様の後輩になるから宜しくねっ」
散々陰で悪口を言っている癖に、親の前だと途端に良い子を演じる異母妹カルミアに嫌気がさしつつ。ルクリアは『良かったわね、おめでとう。これから宜しくね……』と無難に返事をしてその場をやり過ごす。
(ついに、この日が来てしまった。もうすぐ、乙女ゲームのシナリオが始まってしまう。いや、今日からスタートなのかしら。気が重い……)
人気乙女ゲーム『夢見の聖女と彗星の王子達』は、主人公カルミア・レグラスが王立メテオライト魔法学園高等部に合格するシーンから始まる。カルミアは伯爵令嬢であるものの、妾の子であったが故に超名門校を受験するには肩身が狭く、体裁の良いほどほどの学費のお嬢様学校で過ごしていた。聖女の資格を取得してようやく、国内随一の名門王立校に入学出来たのだ。
乙女ゲームのシナリオ通りなら、一学年先輩である異母姉ルクリアに厳しく躾けられながらも、健気に頑張るカルミアをみて次第に王太子ギベオンの心が姉から妹へと移り変わる……というのが大筋のシナリオ。
しかし、貴族としても学生としても常識のない馬鹿な主人公を厳しく躾けて逆恨みされ……。挙句追放されるという貧乏くじの異母姉ルクリアに転生した身からすれば、今日という日は運命の分岐点だ。
史上稀に見る寒波の影響で、カルミアの気が変わり、そのまま今所属している学校の高等部に進学くれたら……と願っていたが。そこは受験生の事を、王立メテオライト魔法学園側が配慮してくれたらしい。基本はエスカレーター式だが、他校からの受験者にも配慮して日程調整をしたそうだ。
むしろ、寒波ということで少し甘い採点だというインターネット上の噂もあり、馬鹿なはずの異母妹が面接と論文だけとはいえ試験に合格してしまった。
遠方の優秀生徒が泣く泣く受験を諦めて、入学者の人数に空きが出たという説もある。兎にも角にもこれから二年間、二重人格で性悪な異母妹カルミアと学園内でも顔を合わせなくてはならない。
(なんて事なの、まさかこの大寒波も聖女として転生したカルミアが試験に有利に行くように天候が味方した? いえ、考え過ぎよね)
「うぅ。頭が痛い……」
考えるだけで思わず頭痛がしてしまい、居間の真ん中でルクリアは頭を抑えながらしゃがみ込む。
「ルクリア! このめでたい日に本当に風邪なのか。可哀想に……いや、一月から狂ったように寒く風邪ひきも多いという。カルミアの合格パーティーは我々で行うとして、ルクリアにはゆっくり寝ててもらおう。万が一、風邪を拗らして未来の王妃のお前が、美人薄明……なんて事になったら大変だ」
「お姉様! そんな病弱じゃあ、将来ギベオン王太子様のお嫁さんになるなんて難しいわよ。け・れ・ど! 私が入学したら、もしかして王太子様の婚約者の座を奪っちゃうかも。ねぇお姉様がここでダウンしたら、異母姉妹で王太子様を奪い合う乙女ゲームのシナリオが出来なくなっちゃうわ。早く立ってよ」
難関校に合格してよっぽど気分が高揚しているのか、親の前でもシナリオ云々などの戯言を抜かし始めたカルミアにいよいよルクリアもキレそうになってしまう。
「うぅ。ごめんなさい、今は本当に具合が悪くて貴女の冗談に付き合ってあげられないの。また、今度ね……」
だが、立ち上がった反動で余計ふらふらとしてしまい、まともな会話が成り立たない。辛うじて体勢を立て直し、纏わりついてくるカルミアを遠ざける。
「あーん、本当に風邪なんだ。ちぇっ……つまんない」
「ほら、カルミア。合格したんだからこれからは学園でも、ルクリアに遊んでもらえるようになるんだぞ。今は我慢しなさい……って、おいルクリアッ。大丈夫かっルクリア!」
父と異母妹の会話がルクリアの頭にぐらぐらと響く。瞬間、何処からか冷たく突き刺すような視線を感じたが、ルクリアはその視線の主を確認出来ずにその場で倒れた。
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