上 下
6 / 13

06

しおりを挟む

 お互いが実は異世界転生者であることを告白しあった日から、数日が過ぎました。クライン公爵はお世辞として私を食事を誘ったわけではなく、本気で転生者同士の交流を深めるつもりだった様子。
 その証拠に私が住む辺境のお屋敷宛に、クライン邸への招待状が届けられて、両親公認の仲となったのです。

「マリッサお嬢様、クライン公爵から次のお休みの日に一緒に食事会をしましょうとのお誘いが来ております。これは……凄いお話ですよ、お嬢様! あぁ……苦境に立たされていたアンジュール家に、一筋の希望の光が差し込んできたようだわっ」

 それなりに大きなリビングで感極まって手紙の内容を確認してから涙をこぼし始めたのは、経済的に苦しい我が家でリストラされずに残った年長のメイドさんでした。若かりし日は美人だったことを窺わせる彼女も、苦労のせいか目の下にうっすらとクマがあり実年齢よりも老けて見えます。
 ですがもし、クライン家へと私が嫁げれば、経済的信用が上がることで返済の延長が決まり、領地のぶどう農園の借金もだいぶ楽になります。結果的に、使用人達の心労も和らぐでしょう。

 すると大人しく安い紅茶を嗜んでいたうちの両親が、うんうんと頷いてクライン公爵とのお付き合いについて語り始めました。

「ふむ、その手紙。お父さんも拝見させてもらったが、どうやらクライン公爵はお前のことを随分と気に入ったみたいだな。まずはお友達から交際したいとのことだが、ゆくゆくは恋仲となり結婚したい意向がチラ見えしておる。お前が美しく生まれてくれて、本当に良かったよ」
「ええ、本当に。私とお父さんは駆け落ち結婚だったけど、愛の力を信じて本当に良かったわ。赤毛の私と金髪のお父さん、二人の血が合わさることでストロベリーブロンドのお前が誕生したのよ。奇跡のピンク髪のチカラでイケメン公爵をゲットするなんて、さすがは我が娘だわ」

 要約すると、ピンク色の髪が珍しいから見初められた的なことを言っていて、両親からすれば私の良いところってこの珍しい髪色なんだと再認識。まぁクラインさんは、私が転生者だからお友達になりたがっているんですけどね。

「クライン家って昔は王族だったんだろう? マリッサ姉ちゃん、髪がピンクってだけでお姫様みたいな生活しちゃうのかぁ。あーあ、オレにもピンク髪の美少年ってことで、誰か逆玉に乗せてくれないかなぁ」
「ミカエル御坊ちゃまなら、きっと良いお話が幾つも来ますわ! まずはマリッサお嬢様に、ルートを確立して頂かなくては」

 弟のミカエルも私と同様のストロベリーブロンドヘアを活かして、奇跡の逆玉の輿を狙いたいみたい。メイド長がルート確立だのなんだの、乙女ゲーム紛いの用語を語っていて、実はこのお屋敷自体転生者達の集まりなんじゃ……と複雑な心境に。
 貴族同士とはいえ、あちらは物凄い名門の公爵家。私の家は、今にも没落しそうな辺境の貴族。格差のあるお付き合いですが、幸い女性である私が交通費などを払ってもらう分には不審がられず。
 むしろ『もうすぐ玉の輿結婚か』という印象すら与えているようで、密かなプレッシャーも。

(あれっ……いつの間にか我が家で玉の輿計画が進んでいる?)

 ノリノリでクライン公爵との交際を猛烈プッシュする家族と使用人に押されて、私はめいっぱいドレスアップした状態でクライン家の食事会に挑むことになったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

出来の悪い令嬢が婚約破棄を申し出たら、なぜか溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
 学術もダメ、ダンスも下手、何の取り柄もないリリィは、婚約相手の公爵子息のレオンに婚約破棄を申し出ることを決意する。  きっかけは、パーティーでの失態。  リリィはレオンの幼馴染みであり、幼い頃から好意を抱いていたためにこの婚約は嬉しかったが、こんな自分ではレオンにもっと恥をかかせてしまうと思ったからだ。  表だって婚約を発表する前に破棄を申し出た方がいいだろう。  リリィは勇気を出して婚約破棄を申し出たが、なぜかレオンに溺愛されてしまい!?

義妹が本物、私は偽物? 追放されたら幸せが待っていました。

みこと。
恋愛
 その国には、古くからの取り決めがあった。  "海の神女(みこ)は、最も高貴な者の妃とされるべし"  そして、数十年ぶりの"海神の大祭"前夜、王子の声が響き渡る。 「偽神女スザナを追放しろ! 本当の神女は、ここにいる彼女の妹レンゲだ」  神女として努めて来たスザナは、義妹にその地位を取って変わられ、罪人として国を追われる。彼女に従うのは、たった一人の従者。  過酷な夜の海に、スザナたちは放り出されるが、それは彼女にとって待ち望んだ展開だった──。  果たしてスザナの目的は。さらにスザナを不当に虐げた、王子と義妹に待ち受ける未来とは。  ドアマットからの"ざまぁ"を、うつ展開なしで書きたくて綴った短編。海洋ロマンス・ファンタジーをお楽しみください! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

【完結】なぜか悪役令嬢に転生していたので、推しの攻略対象を溺愛します

楠結衣
恋愛
魔獣に襲われたアリアは、前世の記憶を思い出す。 この世界は、前世でプレイした乙女ゲーム。しかも、私は攻略対象者にトラウマを与える悪役令嬢だと気づいてしまう。 攻略対象者で幼馴染のロベルトは、私の推し。 愛しい推しにひどいことをするなんて無理なので、シナリオを無視してロベルトを愛でまくることに。 その結果、ヒロインの好感度が上がると発生するイベントや、台詞が私に向けられていき── ルートを無視した二人の恋は大暴走! 天才魔術師でチートしまくりの幼馴染ロベルトと、推しに愛情を爆発させるアリアの、一途な恋のハッピーエンドストーリー。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...