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 思い起こせば今から半年ほど前、私がとある夜会で苦手なダンスを懸命に踊っていた時のことです。貧血なのか別の理由なのか、フラッとついつい立ちくらみを起こしてパッタリとその場で倒れ込んでしまいました。
 他の裕福なご令嬢とは違って、平日の昼間は畑仕事のお手伝い、夜間はお針子仕事や内職のアルバイトに精を出していたため、かなり疲労が溜まっていたのです。

 仕方がないよね、我が一族の家計は火の車なんだから。

「だっ大丈夫ですか、マリッサ嬢? 大変だ、早く彼女を医務室に」
「うぅ……」
「これは大変だ! こう見えても救命の勉強をしているんです。ここは僕が彼女を運びましょう!」

 顔面蒼白でパッタリきゅう、な私をヒョイっとすくい上げてお姫様抱っこで運んでくださった紳士こそが、例の契約結婚のお相手となるジュリアス・クライン公爵でした。

「どっどうして、ジュリアス様があんな田舎娘をお姫様抱っこ? 何かの罠に違いないわ」
「きぃいいっ。あんなの演技よ、ああやってジュリアス様の気を引いているのねっ。なんて小賢しい女なの!」
「ふんっ。しかもわざとしらしい、ピンク色の髪だし。あんな女、このまま死んで仕舞えばいいわっ」

 遠ざかる意識の中で、罵詈雑言やあまりにも酷い誹謗中傷が次々と聞こえてきましたが、そんなことを構う余裕はこれっぽっちもありません。

(うぅ具合が悪い、早く休みたい)

 みんなの憧れの的であるジュリアス・クライン公爵と辺境令嬢の私には、まったくと言っていいほど縁もゆかりもなく。
 この日の夜会だって、私は他のご令嬢に威圧されてクラインさんと踊る機会すら与えられておりません。ですが、すかさず私を助けてくれたのはダンスのお相手ではなく、みんなの憧れクラインさんその人でした。

 その後、パーティー主催者が用意してくれた臨時の医務室で目を覚ますと、私を見守るようにクライン公爵がずっと看病してくれていました。


「あれっここは、どこ? 私、どうしたんだっけ。夢でもみてたのかなぁ……あぁそうだ、今日は新作ハンバーガーの発売日だから買いに行かなきゃ」
「おやまぁ、あなたも転生者ですか? 残念ながら、この異世界にはハンバーガーショップはありませんよ。文明は発達しているのに、文化の違いですかねぇ」
「ふぇっ? あぁそうか。私、学校の帰りに交通事故で死んじゃったから、今は異世界転生して辺境の令嬢に……って。えぇっ? あなたは一体……」


 まったく縁とは不思議なもので、立ちくらみ事件をきっかけに私とクラインさんはいわゆる『異世界転生者仲間』となるのです。
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