ご令嬢は年下幼馴染みに求愛される〜保護者のつもりでいたのに、立場が逆転したみたいです〜

星里有乃

文字の大きさ
上 下
1 / 9

01

しおりを挟む

 私の目の前には、見目麗しい天使がいる。しかもすこぶる私に懐いていて、その愛くるしさときたら、世の中の『可愛い』をギュッと詰め込んだ宝石箱のような輝き。

「アリシアお姉ちゃん、見てみて、お花が綺麗だよっ」
「うふふっ。走っちゃダメだよ、リチャード君っ」

 お庭をかける天使は、無邪気に私へ笑顔を振りまいてくれる。掛け値なしの笑顔は、どんな大金を積んでも得られない超級の価値があるに違いない。両親同士が学生時代から親しく、俗に言う家族ぐるみの間柄。そんな美味しい設定の幼馴染みが天使だなんて、あぁ神様ありがとう!

「わわっ! うぅ転びそうになっちゃったけど……アリシアお姉ちゃんが守ってくれるから、怪我しなかったよ」
「ふふっ。私の方が一歳お姉さんだもの。大丈夫、あなたは私が守ってあげる」
「うわぁい。アリシアお姉ちゃん大好きっ」

 可愛い、可愛い、ほんと~に可愛いっ! 薄茶色のサラサラヘアにくりくりの大きな目の天使は、私の幼馴染みのリチャード君、五歳。まだ小学校に上がりたての私にとって、リチャード君は、守るべき大切な存在。

 ピンク色のお花を片手に、ニコッと微笑んで差し出す姿は、その辺の絵画も真っ青の天使ぶりで人類の宝と言えるだろう。

「はい、このお花……アリシアお姉ちゃんにあげるねっ。ボクのお嫁さんになる約束の証に」
「えっお嫁さん……うん! ありがとう、嬉しいよ。リチャード君」

 可愛い、可愛い、絶対可愛いっ! ピンク色のお花を手にしたリチャード君は、この世の美を全て内包した可愛らしさ。そんな可愛いリチャード君が、私のことをお嫁さんにしたいだなんて。あぁ神様、ほんと~にありがとう!

「えへへ、プロポーズ成功! あっ蝶々さんだっ。待ってよぉ」
「わっリチャード君、走ったら危ないよ」

 伯爵家である私の住むお屋敷の庭は、そんなに広くないものの小学生と幼稚園児が遊ぶには十分過ぎる広さ。庭の蝶を追いかけてリチャード君がとてとて走ると、思わずツルッと転んでしまう。急いでリチャード君を抱きかかえて、メイドさんの元へ。

「うぅアリシアお姉ちゃん、ごめんね。僕、アリシアお姉ちゃんを守らなきゃいけないのに。迷惑、かけて」
「いいのよ、リチャード君。あなた私が、守ってあげる」

 幼い頃に交わした約束は、ずっとずっと続けられて。リチャード君がハイスクール進学のためにこの辺境地を離れるまで、私は可愛くも内気なリチャード君を守ることに、全身全霊を捧げた。

 あの頃、私の口癖は、『あなたは私が、守ってあげる』だった。歳下の幼馴染みに向けた精一杯の愛情表現。

 ――まさか、十数年後に立場が逆転される日が来るなんて、夢にも思わずに。
しおりを挟む
 * 2020年4月22日、全9話で作品完結です。ありがとうございました。
感想 2

あなたにおすすめの小説

手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ
恋愛
幼なじみの王子様ジュードは天使のような容姿で文武両道の完璧な男性。ジュードと幼なじみの公爵令嬢エルフリーデはそんな完璧王子と婚約していて、二人は親公認の仲でもある。ちょっとおてんばなエルフリーデと大人なジュード、二人は幼い頃から仲良しでいつも傍にいるのが当たり前の大切な存在。けれど、エルフリーデにはある不満があって…… 結婚するまで手を出さない? なら手出しさせてやろうじゃないの!

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。 そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。 しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...