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第1章

第13話 神々のギルドへようこそ!

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『拝啓、家神スグル様。この度は、神様デビューおめでとうございます! つきましては、ご加入可能となっているギルドのパンフレットと申し込み用紙を同封致します。詳しくは、異界神域の総合案内館まで!』

 ずいぶん砕けた雰囲気の文面だが、伝書ヤタガラスがパタパタ飛んで運んでくれた、れっきとした神々を仕切るギルド連盟からの案内状だ。
 手紙の用紙も小洒落た花の模様入りの和紙を使用しており、それなりにお金がかかってそうである。

「スイレン、もしかしてこのギルドってヤツに加入すれば、相手が神様でも戦えるようになるってこと?」
「うむ、例え相手が祟り神と言えどもその土地にとって重要な神であれば、退治などもっての他となる。だが、上の組織……つまり【神々のギルド】から、勅命のクエストとして討伐任務をこなす分には、なんら問題ない」
「結構、そういう形式が重要な業界なんだ、神様って……」
「うむ。まずは、今日中にどこかしらのギルドに加入して、凛堂ルリ子の復活とそれを目論む祟り神の暗躍を食い止めなくては……」

 スイレンと無事再会を果たしたオレは、息をつく暇もなく異界へ向かうことになった。さっそく、『神々のギルド』への登録手続きを済ませるため、ひいては滅亡の呪いを成就しようとする【何か】と戦う足がかりを作るためである。

「みゃあ、異界へとお出かけですかにゃ? 先ほどの伝書ヤタガラスさんからお話は伺いましたにゃ。微力ながら、このミミもおふたりのおチカラになるためご一緒しますのにゃ!」
「えっ? ミミちゃんも異界のギルドへ一緒に行ってくれるの?」
「おお、ミミちゃん。心強い、猫耳御庭番メイドは、猫神の中でも隠密行動が得意な職業でな。スグルどののサポートメンバーとしてギルドへ登録すれば、自由に偵察活動が出来るようになるぞ」

 そういえば、7代前の家神家にも猫耳御庭番がボディガードとして活躍していた。敵の素性もまだ分からない状態で、戦うわけだし小回りが利く御庭番の存在は貴重だろう。
「へぇ、ミミちゃんって結構、ハイスペックな神様だったんだ。じゃあ、よろしく頼むよ」
「にゃあっ、頑張りますにゃ」

 異界へと転移するメンバーは家の神である家神になりたてのオレ、婚約者である睡蓮の女神スイレン、そして我が家神一族お抱えの猫耳御庭番メイドのミミちゃんだ。

「バトル時の役割分担を考えると、オレが異界術攻撃と補助。スイレンが攻撃術と回復術。ミミちゃんが忍術と直接攻撃……なかなかバランスの取れたメンバー構成かも」
「そうじゃな、それにギルドに所属すれば他の神々からお守りやお札を授かって一時的に協力をしてもらう事も出来る。異界術師としてあやかしとだけ戦っていた時に比べると、臨機応変な攻撃方法が選べるようになるぞ」

 家神荘の再奥の部屋から、異界へワープする儀式台へと進む。転移希望先を記したお札を貼ってワープするのだが、ギルドの案内状には『神域(しんいき)』と記されていた。

「えっと……いつもだったら、人間が異界に入るための『通常門』を開くところだけど。今回から、いわゆる『神域門』にワープ出来るのか? オレ、最近まで人間だったのに……大丈夫かな」
 まだ、自分自身が神となっている実感が湧かないオレとしては、転移先が神々の所属区域であることに若干の緊張を覚える。

「自身を持って、スグルどの。もう、スグルどのは今日から立派な家の神……『家神』じゃ。それに、何より私の大切な夫なんだから……」
「おっ……と、えっとスイレン……」

 スイレンが優しく励ますようにオレの手をそっと握る。繋いだ手からは、体温が伝わってきて温かい。じかにスイレンの生きている証拠が伝わるようで、思わず胸がドキドキする。以前は、スイレンと手を繋いでも睡蓮鉢に手を入れたような冷たさがあった。
 きっと、当時はオレが人間でスイレンが女神様だから、種族間の見えない霊的な壁のようなものがあったのだろう。

 けれど、今はオレも神の端くれだ……。まだ神としてデビューしたてだが、スイレンと本当の意味で【対等】の存在としてやっていけるはず。
 お互いの気持ちを確かめるように、キュッと手を絡めあう。そうだ……オレは神として、スイレンと共に生きるんだ。

 オレの神として生きる決意を察知したように、ガランゴロンと大きな鈴の音が鳴り響き異界への到着を知らせる。

『家神荘よりお越しの神様、3名。神域門への入場を許可致します!」


 * * *


 初めて足を踏み入れる神域は、道行く人ならぬ道行く神様で大にぎわい。ちょうど、お祭り時期の神社仏閣の門前通りのように露店が立ち並び食事や買い物を楽しむ神様の姿も。

「はぁ……それにしても神様だらけだ。ミミちゃんみたいな猫神様だけじゃなく、キツネ耳のお稲荷様や白蛇様も……。オレ、本当に、神域に来ちゃったんだなぁ」
「ふふっスグルどのも、今日からはその『神様』の1人なのじゃがな。ではさっそく神域のギルド連盟本部へ申込書を提出しに行こう。この手続きさえ済ませれば取り敢えずは、クエスト受理が出来るようになるぞ」
「ああ、感心している場合じゃなかった。早く手続きをしないと……」

 キョロキョロと辺りを見渡すが、なんせ道も四方八方に分かれており神様も多く、なかなかギルド本部の館が見つからない。
 すると、ミミちゃんが猫耳忍法でギルド本部の場所を探り始めた。

「猫耳忍法、ナビゲートの術! みゃあ、あっちがギルドの本部みたいですにゃっ!」
 これが、猫耳御庭番メイドの偵察スキルか。まるでカーナビかルート案内アプリのごとく、的確にルートを弾き出すミミちゃん。ナビゲートの術のおかげで、無事に本部へ到着。

 本部は、明治時代初期の文明開化を彷彿とさせる巨大な西洋風のお屋敷。そして、敷地の奥には小高い丘があり、五重の塔がそびえ立っている。おそらく、あの五重塔がこのギルドの霊力の基礎なのだろう。

 神社仏閣へ参拝する時と同じように、門の前で頭を下げ一礼をしてから、敷地内へ。神の霊力が強い空間なのかピリッとしたオーラが肌で感じ取られる。屋敷のドアは来客者が多いためか、最初から解放されており新人神様向けの案内ボードも準備されていた。

【新人神様はこちらへ……本日来訪予定者……家神スグル様】

「あれっなんかすでに、案内ボードにオレの名前が書いてあるぞ。今日、来るってなんで分かったんだろう。神域に入った時点で情報がキャッチされているのかな?」
「ふふっおそらく、ここには見通しの神様がおる様子。歓迎されていて良かったな、スグルどの」
「えっ? ああ、うん。そういうことなのかも。よし、受付はあっちだな……」

 キツネ耳巫女の受付嬢のカウンターには、新人受付窓口のボードが。おそらく、あのカウンターで申し込み手続きを済ませるのだろう。

「すいません……今日から神様デビューしたものなんですが……。申し込み書の受付はここでいいんですよね?」
「コンっ家神スグル様ですね。お待ちしておりました。パートナーの方やサポートメンバーの方もご一緒に椅子へ……」
 まるで、不動産かスマホの契約かといった雰囲気で、書類をどんどん書かされてみるみる手続きが進む。

「家神傑(いえがみすぐる)様の申し込み書、確認。メンバーリーダー家神スグル様、パートナー女神スイレン様、サポートメンバーミミ様、全員登録。確かに申し込みを受理しました。今日は仮登録になりますので、仮のメンバーズカードの発行となります……コンッ。正式所属となるギルドが決定次第、所属ギルドの公式メンバーズカードを発行致しますので……」
「あっはい、ありがとうございます。ところで、所属ギルドって基本的には自分で選ぶんですか?」

 随分とたくさんのギルドがこの神域に点在しているようだが、今日中にすべてを回ることは難しいだろう。明日に備えて、出来れば仮所属先を早めに決めたいところだ。

「ええ、ですが神様の能力や目的に合わせた特性によって大まかな派閥は決まっています。金運や財運のご利益系の神様なら金運財運系ギルド、縁結びの神様なら縁結び系ギルドと言った風に……。例えば、私のようなキツネ族ですと、いくつかあるお稲荷様系のギルドの1つに所属しながら受付の仕事をする……といった活動方法ですコン」

 キツネの神様であるお稲荷様は、生まれつき種族がはっきりしているので所属先を決めやすそうなイメージだ。それでも、キツネ系の神様の派閥間から選択しなくてはいけないらしい。神様の世界は奥が深いのだと実感する。

「はぁ……凄い。リストを見るだけでも100以上派閥があるな。まるで、神社仏閣に参拝するときにどんなご利益があるかで参拝先が決まるみたいな……」
「そういう捉え方でも、構わないと思いますコン。家神様の場合は、家の神として繁栄をもたらすためのご利益も期待できますし、一族の災い除けを行うことも可能です」

「ふむ、スグルどの。ここは、明日の対策で災い除けを専門とするギルドを紹介してもらうのはどうじゃ?」
 一緒にギルドのリストを閲覧していたスイレンが、いくつかある災い除けの神様が所属するギルドをピックアップし始めた。
「ああ、それじゃあここの候補から絞って……」


【家神スグル……こっちに来い】


 まるで、頭に直接働きかけるような低い声が響き渡る。男の声ではあるが、オレの遠いご先祖様である天の声とも違う。

「……えっ誰か、なんか言ったか?」
「いや……スグルどの。もしや誰かに、呼ばれて……」


【祟り神と遣り合いたいんだろう? 他のギルドじゃ無理だぜ……こっちに来いよ……家神スグル】


 ふと、足下を見るとコロコロと糸巻きが何処かへと案内するかのごとく、転がってきた。

 頭の中に呼びかけてくる謎の声……そして糸が導く先にあるものとは?
 それは、オレの運命を変えるギルドからのメッセージなのであった。

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