王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星里有乃

文字の大きさ
上 下
65 / 79
終幕編1〜ララベル視点〜

01

しおりを挟む

「地上は聖女ミーアスの支配でどんどん変わってしまっているけど、でも、まだ間に合うよね」
 小妖精リリアは自らの羽根をたたみ、ララベルの肩に乗ってからポツリと不安を漏らした。その言葉には、過去でさえ操れる可能性を持つ聖女ミーアスに、恐怖を覚えている様が感じ取られた。

「幸い、私は未来の情報を持って過去に帰還することが出来るわ。聖女ミーアスの力の源を探し出して、悲劇を回避するの」

 震える小鳥のような仕草のリリアを宥めるように、優しく落ち着いた声でララベルは過去修復の計画を語る。

「うん……ありがとうララベル。きっと過去の世界で頑張っているイザベルも、同じことを言うと思うよ。やっぱり、二人は同じ生命の樹の系譜を持つ魂なんだね」

 怯えた様相を見せていたリリアに、僅かながら笑顔が戻った。本来ならば、リリアが肩に乗るべき人物は、ララベルの子孫イザベルであったはずだ。逆行転生という魂の入れ替わり現象によって、不可抗力で未来の情報を得てしまったララベル。だが、彼女は驚くほど冷静だった。

 そしてその冷静さは、イザベルとも共通するものがあり、やはり二人は同じ生命の系譜であるとリリアの心に確信させる。だからといってその生命の系譜に、まさか精霊官吏のティエールも含まれているとは……リリアには想像出来ていなかった。双子の姉妹の生命の枝が過去に分かれて、ティエールとイザベルという二人の男女を結びつける未来を導くとは、因縁とは不思議なものである。

 ――その時までは、双子の生命の枝は再び結ばれるはずだったのだ。

 きっと、全てが上手くいく。
 遠い遠い未来の血縁であるティエールが、笑顔で出迎えてくれる。時の旅人ララベルは、地上から精霊界に戻るワープゲートの波に身を任せながら、そんな風に考えていた。それはもう、至極当然のように。しかしながら現実というものは、時として無情なものである。


 * * *


「おかえりなさいっ。ララベル、リリアッ!」

 長閑な田園風景、全ての魂を迎え入れる精霊界の修道院は、ララベルにとってもホームとして機能していた。
 しかしながら、出迎えてくれたメンバー構成は思っていたものではなかった。まとめ役である精霊神官長、無口ながら気遣いが出来る騎士ロマリオ、魔法使いの見習いである少女ミンファ。ララベルと顔見知りとなった精霊達が皆、出迎えに訪れたがティエールの姿だけがない。それどころか、ティエールという存在そのものの気配が無い。
 言い知れぬ違和感を覚えながらも、ララベルは平常心を心掛けながら報告を進めるため事務室へ。

「これが大まかな報告内容です……」
「お勤めご苦労、小妖精リリア、時の旅人ララベル。ふむ……どうやら顔色が優れぬのう……地上との行き来は精霊力を消耗するからな。今日はハーブティーでも飲んで、魂の回復に励みなさい」
「はい、精霊神官長様。ところで、ティエールさんの姿が見えないのですが、今は用事で?」

 ティエールの気配が、精霊力そのものが消え失せたことを意を決して尋ねる。

「はて、ティエール……とな。聞いたことのない名前じゃのう」
「えっ……聞いたことが、無い? でも、ティエールさんは確か、この修道院で幼少期を過ごされたって……」
「ははは……もしかして、記憶違いを起こしていませんかな。ティエールという名の精霊は、ワシの精霊名簿には存在しておりませぬ。うむ……時を渡った影響で、よほど疲れが溜まっていると見える。報告書はこれ以上いいから、とにかく休むように」

 バタン。
 事務室の扉が閉じる音が、最後通告の合図のように聞こえてしまう。

(嘘でしょう。まさか、既に過去がすり替えられた? ティエールの存在が消えているということは、先祖のレイチェルの身に何かが?)

 彼女が親しみを覚えていた同じ生命の系譜であるティエールは、精霊界から存在そのものが消されていた。ショックで立ちくらみのような状態になり、廊下にペタンと座り込む。

「ララベル、しっかり……! 過去に戻れば、レイチェルさんやイザベルと合流すればきっと……」
「ええ、分かってる。早く、早く、過去に戻らないと……! もう一度、逆行転生の儀式を……!」
しおりを挟む
* 初期投稿の正編は、全10話構成で隙間時間に読める文字数となっています。* 2022年03月05日、長編版完結しました。お読み下さった皆様、ありがとうございました!
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...