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少年の手紙が運命をみちびく
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「カエサル君が写本として同封してくれたこの記述に出てくる【悪魔の魂】は、私達一族が巫女の使命として保管している魔の産物の一つですわ。確か、邸宅の地下室で封印されているはずだけど、この数百年の間でホーネット家からは喪われたのかしら?」
「現代では所在不明の悪魔の魂……ってことらしいし、きっとララベルの代から現在に至るまでの間にホーネットの手を離れたのだと思うよ」
子孫であるカエサル・ホーネットからの手紙は、ララベルにとって実に興味深い内容である。ホーネット家が保管していたことは極秘としている【悪魔の魂】を当然のように記しており、秘密事項をいくつも網羅しているようだった。ララベルが巻き込まれている逆行転生という現象すら、後の世で起こることが確定していたのだから。
「けれど、これ以上未来について知りすぎるのも良くないですわね。私の新たな使命は再び過去に戻り、悪魔の魂に魔法陣を仕掛けて紐付けすること。悪魔の魂は、私の時代では人間に取り憑いていないはずだけど、きっと未来の世の中では……」
「イザベルを苦しめた原因が悪魔の魂だとすると、聖女ミーアスの正体は悪魔の魂に操られた傀儡ってこと? っていうか、悪魔の魂って一体どういうものなんだろう」
精霊界の事情には詳しいはずのリリアだが、小妖精達の中では悪魔の魂の存在はそれほど有名ではないらしい。もしくは作為的に、悪魔が天の世界に情報を与えないように情報調整していたのか……。良い機会なのでララベルがリリアに分かりやすく、悪魔の魂について説明する。
「元々は、人間を生命の樹から引き離した悪魔に宿っていたもの……と、言い伝えられています。宿主を転々として、古代の時代より生き延びているそうです。我が邸宅で預かっているものは、封印の小箱に収められていて、残念ながら中身を確認することが叶いません」
「箱の中にある何かが、悪魔の魂ってことだよね。けど、開けられないんじゃ中身は分からず……。それで魔法で中の魂に印をつけるしか、紐付け方法がないのか」
禁断の箱の中身を確認することは、その時代において悪魔を解放することを意味する。逆行転生の果てに、本来ならば過去の時代には起こり得なかった解放を行なっては、それこそ悪魔の魂の思うツボだ。
「この世を悪魔が支配する時は、必ずと言っていいほど悪魔の魂を埋め込まれた人間が裏にいるのだとか。聖女ミーアスという女性にも、悪魔の魂を移植しているのであれば、既に人ではなくなっているはずです」
「人ではない……ね。聖女ミーアスの異様なカリスマ性は当人のものというより、悪魔の魂によるものなのかも」
雲の上から地上の様子を目を凝らしてジッと見つめると、各地で聖女ミーアスへの狂信的な誓いの儀式が行われている。これ以上ここにいても、進展することはないと判断し、祈り聞きの任務を終えて精霊界へ帰還をすることにした。
* * *
ララベル達が精霊界へと戻った後も、恐ろしいほど順調に悪夢の支配が進んでいく地上。バルディア国内の各地の教会を統括する聖堂では、伝説を意のままに操る聖女ミーアスが古代の星に祈りを捧げていた。
「私の祈りで、人々は救われる。私の無限の魔法力は枯れることはありません。さあ……バルディアの民よ、救いの手を取って……!」
彼女の祈りは、胸元の【古代のネックレス】を通じて、そして聖堂中心に座す逆さ十字を通じて、バルディア中の信者達の心に浸透するのだ。
『素晴らしい、素晴らしいぞっ! この世が終わる時に現れた救世主こそ聖女ミーアス様だ』
『あぁ……一時は言い知れぬ不安で死ぬかと思ったが、聖女ミーアス様の声が何処からともなく聞こえて来て、我々を救ってくださる』
『バルディアは小国だが、西方の各地と貿易の拠点を持つ重要な土地。何としてでも守り抜かなければ、大陸全土が危うい。でも大丈夫、聖女ミーアス様さえいれば安心だ』
――恐怖、絶望、苦しみの果てに思い縋るときに聖女ミーアスへの信仰が完成する。まさか、人々の暮らしを陥れる悪霊を操るのが聖女ミーアス自身とは気づかずに、深い深い信仰が彼らに根付く。
聖女ミーアスは……いや、彼女に取り憑く【悪魔の魂】は地上の人々が心まで闇に覆われて自らに傾倒していく様子に、至上の喜びを感じていた。王太子に片想いする馬鹿な娘ミーアスの心の隙を突き、恋敵イザベルを追放するきっかけを与えた美しい古代のネックレス……それこそが、悪魔の魂の正体であった。
(もう少し、もう少しで完成するわ。だから、私の宿主となる【聖女ミーアスのハリボテの肉体】を持たせなくては。だからこれ以上肉体の意思は要らない……完全に操るの。あの生命の樹から追放した人間どもが息絶えるまで、そしてあの忌々しい生命の樹の系譜を引き継ぐ菩提樹の精霊達を枯木にするまで……!)
「現代では所在不明の悪魔の魂……ってことらしいし、きっとララベルの代から現在に至るまでの間にホーネットの手を離れたのだと思うよ」
子孫であるカエサル・ホーネットからの手紙は、ララベルにとって実に興味深い内容である。ホーネット家が保管していたことは極秘としている【悪魔の魂】を当然のように記しており、秘密事項をいくつも網羅しているようだった。ララベルが巻き込まれている逆行転生という現象すら、後の世で起こることが確定していたのだから。
「けれど、これ以上未来について知りすぎるのも良くないですわね。私の新たな使命は再び過去に戻り、悪魔の魂に魔法陣を仕掛けて紐付けすること。悪魔の魂は、私の時代では人間に取り憑いていないはずだけど、きっと未来の世の中では……」
「イザベルを苦しめた原因が悪魔の魂だとすると、聖女ミーアスの正体は悪魔の魂に操られた傀儡ってこと? っていうか、悪魔の魂って一体どういうものなんだろう」
精霊界の事情には詳しいはずのリリアだが、小妖精達の中では悪魔の魂の存在はそれほど有名ではないらしい。もしくは作為的に、悪魔が天の世界に情報を与えないように情報調整していたのか……。良い機会なのでララベルがリリアに分かりやすく、悪魔の魂について説明する。
「元々は、人間を生命の樹から引き離した悪魔に宿っていたもの……と、言い伝えられています。宿主を転々として、古代の時代より生き延びているそうです。我が邸宅で預かっているものは、封印の小箱に収められていて、残念ながら中身を確認することが叶いません」
「箱の中にある何かが、悪魔の魂ってことだよね。けど、開けられないんじゃ中身は分からず……。それで魔法で中の魂に印をつけるしか、紐付け方法がないのか」
禁断の箱の中身を確認することは、その時代において悪魔を解放することを意味する。逆行転生の果てに、本来ならば過去の時代には起こり得なかった解放を行なっては、それこそ悪魔の魂の思うツボだ。
「この世を悪魔が支配する時は、必ずと言っていいほど悪魔の魂を埋め込まれた人間が裏にいるのだとか。聖女ミーアスという女性にも、悪魔の魂を移植しているのであれば、既に人ではなくなっているはずです」
「人ではない……ね。聖女ミーアスの異様なカリスマ性は当人のものというより、悪魔の魂によるものなのかも」
雲の上から地上の様子を目を凝らしてジッと見つめると、各地で聖女ミーアスへの狂信的な誓いの儀式が行われている。これ以上ここにいても、進展することはないと判断し、祈り聞きの任務を終えて精霊界へ帰還をすることにした。
* * *
ララベル達が精霊界へと戻った後も、恐ろしいほど順調に悪夢の支配が進んでいく地上。バルディア国内の各地の教会を統括する聖堂では、伝説を意のままに操る聖女ミーアスが古代の星に祈りを捧げていた。
「私の祈りで、人々は救われる。私の無限の魔法力は枯れることはありません。さあ……バルディアの民よ、救いの手を取って……!」
彼女の祈りは、胸元の【古代のネックレス】を通じて、そして聖堂中心に座す逆さ十字を通じて、バルディア中の信者達の心に浸透するのだ。
『素晴らしい、素晴らしいぞっ! この世が終わる時に現れた救世主こそ聖女ミーアス様だ』
『あぁ……一時は言い知れぬ不安で死ぬかと思ったが、聖女ミーアス様の声が何処からともなく聞こえて来て、我々を救ってくださる』
『バルディアは小国だが、西方の各地と貿易の拠点を持つ重要な土地。何としてでも守り抜かなければ、大陸全土が危うい。でも大丈夫、聖女ミーアス様さえいれば安心だ』
――恐怖、絶望、苦しみの果てに思い縋るときに聖女ミーアスへの信仰が完成する。まさか、人々の暮らしを陥れる悪霊を操るのが聖女ミーアス自身とは気づかずに、深い深い信仰が彼らに根付く。
聖女ミーアスは……いや、彼女に取り憑く【悪魔の魂】は地上の人々が心まで闇に覆われて自らに傾倒していく様子に、至上の喜びを感じていた。王太子に片想いする馬鹿な娘ミーアスの心の隙を突き、恋敵イザベルを追放するきっかけを与えた美しい古代のネックレス……それこそが、悪魔の魂の正体であった。
(もう少し、もう少しで完成するわ。だから、私の宿主となる【聖女ミーアスのハリボテの肉体】を持たせなくては。だからこれ以上肉体の意思は要らない……完全に操るの。あの生命の樹から追放した人間どもが息絶えるまで、そしてあの忌々しい生命の樹の系譜を引き継ぐ菩提樹の精霊達を枯木にするまで……!)
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* 初期投稿の正編は、全10話構成で隙間時間に読める文字数となっています。* 2022年03月05日、長編版完結しました。お読み下さった皆様、ありがとうございました!
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