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精霊候補編2
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「ようこそお越し下さいました。聖女ミーアス様、ささっこちらへ」
王宮から豪華な馬車で、ミーアスの代わりに大聖堂を訪れた悪魔サキュバス。まさか麗しい娘が身代わりの悪魔像が化けた姿だとは、司祭達にも見抜くことは出来なかった。
いや、司祭達にとってはミーアスの正体が誰であろうと『儀式』さえ行うことが出来れば、どうでも良いことなのだろう。身代わりが到着後、大聖堂では会議がすぐに行われた。
「ふんっ。何が精霊神様だ! 菩提樹信仰は、古い民族が生み出した自然崇拝の一つに過ぎない。今の時代に合った信仰の形は、聖女ミーアス様のように目に見えて手に取って分かることが、重要なのだっ!」
「その通りっ! アルディアス王太子が亡くなり、聖女ミーアス様の地位を剥奪しようとする馬鹿どもは、処刑の対象にするべきであるっ」
天に上ったイザベルが、精霊神候補として人々のために与えた加護。それをあろうことか、聖女ミーアスの御加護だと主張する司祭まで現れた。
実のところ、この国で一番の美人と評判だったイザベルや、若く美しい聖女ミーアスを独占していた王太子アルディアスが亡くなり、スッキリしたという司祭もいるのだろう。
「本当に? 本当に司祭様達は、私をこの国の新たな信仰対象に認めてくれるの? 昨夜のお願い、ちゃんと聞いてもらえることになったの」
「ええ! 当然ですとも、ミーアス様。貴女は聖女だけで収まる器ではない……この世に現れた新たな女神なのです。そこで約束通り早速、我々の絆をより深める儀式を行おうと思うのですが……」
中年の司祭がいやらしい目つきで、胸の開いた黒いドレス姿の聖女ミーアスをジロジロと見つめる。
「うん……。絆を深める儀式は、一人ずつじゃないと出来ないから、順番に……ねっ。決まりに従ってまずは一番若い司祭様から……ベッドへ」
そう……聖女ミーアスが司祭達と特別な契約を交わせることになった理由は、『絆を深める儀式』を司祭それぞれと結ぶことを持ちかけたからだ。ただし、結びつきを持つのは実のところ、彼女の身代わりである悪魔だが。
体裁上、女に触れることも妻を持つことも許されない司祭達にとって、『儀式』という名目で若い娘と触れ合えるのは喜ばしいことだった。
「ふふっお香も焚いたし、後は儀式を進めるだけね。んっ……」
「み、ミーアス様……」
ちゅっ……と悪魔サキュバスから、唇を吸い取るように口付けが落とされる。すると若い司祭はそれだけで、ウットリとしてしまう。
本来ならば、神に捧げるための【魔法の香】が焚かれた神聖なベッドルーム。今回は悪魔契約に近い、儀式を行うために使用される。普段は嗅ぐことのない異国の香りに、若い司祭はすっかり魂まで惑わされている様子。
ギシッっと音を鳴らして悪魔サキュバスはベッドに腰掛けると、若い司祭を抱きしめるために大きく腕を広げる。
「ふふっおいで……私の愛し子」
「おぉっ美しい。まるで絵画の女神、天から舞い降りた奇跡のようだ」
胸に若い司祭を導き包み込むように甘えさせながら、赤子をあやすように宥めた。
秘密の儀式など許されるはずのない部屋で、甘い声とベッドの軋む音が鳴り響く。
――だがその実態が、他所の部屋で待つ別の司祭達の期待通りのものなのか。それとも悪魔に魔法をかけられているだけなのか、皆目見当もつかない状態が続いた。
「あっあっ」
「……ミーアス様ッ。はぁミーアスッ!」
男を適度に狂わせていく偽物の聖女ミーアスが、甘い声の元が【悪魔サキュバス像】とも知らずに、若い司祭は夢中になった。
(あぁっ最高だっ! こんないい女を隔てるもの何一つなく、抱きしめることができるとは。夢のようだ……もしかするとこのまま)
「行こう……一緒に天国でも地獄でも。はぁ……最後のひとときを」
「熱い、魂がぁ蕩けるぅ。えっ私は一体? あっ悪魔、サキュバス像? そんな馬鹿なっ。ひっひぃいいいいっ。ぎゃああああああああっ」
ブツッッッ!
* * *
その夜、サキュバスの悪魔像を胸に抱いて絶命している若い司祭の遺体が、大聖堂のベッドルームで発見された。本物の聖女ミーアスは、同時刻に王宮で祈りを捧げていたにも関わらず、司祭達は『聖女ミーアスに会った』と証言。
結局、欲に目が眩んだ司祭が聖女ミーアスに化けた【悪魔サキュバス像】に惑わされて、幻覚を見ながら死んだのだと推定される。
『聖職者が闇に堕ちて……死んだッッッ。若い魂、ご馳走様……!』
王宮でほくそ笑む聖女ミーアスを黒幕として疑うものなど、誰一人としていなかった。
王宮から豪華な馬車で、ミーアスの代わりに大聖堂を訪れた悪魔サキュバス。まさか麗しい娘が身代わりの悪魔像が化けた姿だとは、司祭達にも見抜くことは出来なかった。
いや、司祭達にとってはミーアスの正体が誰であろうと『儀式』さえ行うことが出来れば、どうでも良いことなのだろう。身代わりが到着後、大聖堂では会議がすぐに行われた。
「ふんっ。何が精霊神様だ! 菩提樹信仰は、古い民族が生み出した自然崇拝の一つに過ぎない。今の時代に合った信仰の形は、聖女ミーアス様のように目に見えて手に取って分かることが、重要なのだっ!」
「その通りっ! アルディアス王太子が亡くなり、聖女ミーアス様の地位を剥奪しようとする馬鹿どもは、処刑の対象にするべきであるっ」
天に上ったイザベルが、精霊神候補として人々のために与えた加護。それをあろうことか、聖女ミーアスの御加護だと主張する司祭まで現れた。
実のところ、この国で一番の美人と評判だったイザベルや、若く美しい聖女ミーアスを独占していた王太子アルディアスが亡くなり、スッキリしたという司祭もいるのだろう。
「本当に? 本当に司祭様達は、私をこの国の新たな信仰対象に認めてくれるの? 昨夜のお願い、ちゃんと聞いてもらえることになったの」
「ええ! 当然ですとも、ミーアス様。貴女は聖女だけで収まる器ではない……この世に現れた新たな女神なのです。そこで約束通り早速、我々の絆をより深める儀式を行おうと思うのですが……」
中年の司祭がいやらしい目つきで、胸の開いた黒いドレス姿の聖女ミーアスをジロジロと見つめる。
「うん……。絆を深める儀式は、一人ずつじゃないと出来ないから、順番に……ねっ。決まりに従ってまずは一番若い司祭様から……ベッドへ」
そう……聖女ミーアスが司祭達と特別な契約を交わせることになった理由は、『絆を深める儀式』を司祭それぞれと結ぶことを持ちかけたからだ。ただし、結びつきを持つのは実のところ、彼女の身代わりである悪魔だが。
体裁上、女に触れることも妻を持つことも許されない司祭達にとって、『儀式』という名目で若い娘と触れ合えるのは喜ばしいことだった。
「ふふっお香も焚いたし、後は儀式を進めるだけね。んっ……」
「み、ミーアス様……」
ちゅっ……と悪魔サキュバスから、唇を吸い取るように口付けが落とされる。すると若い司祭はそれだけで、ウットリとしてしまう。
本来ならば、神に捧げるための【魔法の香】が焚かれた神聖なベッドルーム。今回は悪魔契約に近い、儀式を行うために使用される。普段は嗅ぐことのない異国の香りに、若い司祭はすっかり魂まで惑わされている様子。
ギシッっと音を鳴らして悪魔サキュバスはベッドに腰掛けると、若い司祭を抱きしめるために大きく腕を広げる。
「ふふっおいで……私の愛し子」
「おぉっ美しい。まるで絵画の女神、天から舞い降りた奇跡のようだ」
胸に若い司祭を導き包み込むように甘えさせながら、赤子をあやすように宥めた。
秘密の儀式など許されるはずのない部屋で、甘い声とベッドの軋む音が鳴り響く。
――だがその実態が、他所の部屋で待つ別の司祭達の期待通りのものなのか。それとも悪魔に魔法をかけられているだけなのか、皆目見当もつかない状態が続いた。
「あっあっ」
「……ミーアス様ッ。はぁミーアスッ!」
男を適度に狂わせていく偽物の聖女ミーアスが、甘い声の元が【悪魔サキュバス像】とも知らずに、若い司祭は夢中になった。
(あぁっ最高だっ! こんないい女を隔てるもの何一つなく、抱きしめることができるとは。夢のようだ……もしかするとこのまま)
「行こう……一緒に天国でも地獄でも。はぁ……最後のひとときを」
「熱い、魂がぁ蕩けるぅ。えっ私は一体? あっ悪魔、サキュバス像? そんな馬鹿なっ。ひっひぃいいいいっ。ぎゃああああああああっ」
ブツッッッ!
* * *
その夜、サキュバスの悪魔像を胸に抱いて絶命している若い司祭の遺体が、大聖堂のベッドルームで発見された。本物の聖女ミーアスは、同時刻に王宮で祈りを捧げていたにも関わらず、司祭達は『聖女ミーアスに会った』と証言。
結局、欲に目が眩んだ司祭が聖女ミーアスに化けた【悪魔サキュバス像】に惑わされて、幻覚を見ながら死んだのだと推定される。
『聖職者が闇に堕ちて……死んだッッッ。若い魂、ご馳走様……!』
王宮でほくそ笑む聖女ミーアスを黒幕として疑うものなど、誰一人としていなかった。
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* 初期投稿の正編は、全10話構成で隙間時間に読める文字数となっています。* 2022年03月05日、長編版完結しました。お読み下さった皆様、ありがとうございました!
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