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精霊候補編1

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「あぁっ! 何とお礼を申し上げたらいいのか、まさか毒の治癒と同時に傷痕までこれほど綺麗に治して頂けるとは。申し遅れました私の名はロマリオ。精霊ギルド所属の剣士です。お嬢さんは見ない顔だけど、まさか人間……?」
「あっはい。今は精霊候補という状態です。けど回復魔法なんて久しぶりだから、どうなることかと思ったけれど、傷が癒えて安心しました」

 可愛いらしいイザベルに、頬を赤らめて栗色の髪をクシャリとかきあげて、何やらイザベルを意識した様子の剣士ロマリオ。命の恩人に思わず惹かれる展開は定番だが、そこは婚約者のティエールが焦って二人の間に入る。

「えっと、助かって良かったよ。彼女は僕の婚約者のイザベル、まだ完全な精霊ではなく候補生なんだ。でもいずれ、菩提樹の精霊入りする予定だ。しばらくは、干渉しすぎず見守って欲しい」

 ティエールのけん制は興味津々の観衆達にも向けられており、精霊候補という不安定なポジションのイザベルを守るための行動でもあった。

「……! こっ婚約者、そ、そうか。菩提樹の精霊は長老様ともルーツを同じくする祈りの種族。嫁ぎ先としては、最高レベルと言える。もう少し早く出会えていたら自分が……と思うところだが、先約がいるのでは仕方があるまい。いや、命を助けられただけでも幸運だ。これは謝礼金だが、お二人の結婚祝いも兼ねて改めてもう一度お礼をしたいと思うよ。では……仕事の続きをしなくてはいけないので」
「えぇ、気をつけてね。ご機嫌よう!」

 簡単な謝礼金をイザベルに手渡したのち、瀕死の重症だったことが嘘のように、ロマリオは自分の足で歩き颯爽と去っていった。それと同時に、奇跡の治癒魔法を目にして驚きの声をあげていた観衆も散り散りになっていく。

「何だか、人間の体の時は使いこなせなかった魔法が自在に操れるみたい。不思議だわ」
「おそらく精霊族特有のエーテル体になって、本領が発揮出来るようになったんだろう。けど油断は出来ない状態だからね、取り敢えず今日はオーバーワーク気味だ。魔法はもう使わないで、買い物もあるし新生活の準備をしなきゃ」
「そうね……新しい生活、私たちの家へ」

 喧騒も落ち着いたところで、再び手を繋き歩き始めるティエールとイザベル。自宅までの道のりの途中、ストリートでイザベルの新生活に必要最低限となる衣類や生活用品を揃える。

「イザベルが精霊の仕事を行うのに適した服を購入しよう。あとは、寝巻きや生活用品も必要だね」
「わぁ! 綺麗な布地のローブがたくさん。あら、自然派の化粧水や乳液も。ふふっ何だかワクワクしちゃう」

 仲睦まじい二人はどこから見ても似合いのカップルで、イザベルに想いを寄せようにも付け入る隙間すらない雰囲気だ。

(ティエールは、私のことを婚約者として大切にしてくれる。きっと七日間の精霊候補期間も、仲良くやっていけるわ)

 初恋の人と種族を超えて結婚出来る喜びが、気持ちの大半を占めているイザベル。まだ他の精霊達の平均的な魔力がどれくらいか把握できていないイザベルは、自分の持つ治癒能力がどれくらい高いものなのか認識出来ずにいたのだ。


 けれど、並外れた才能の持ち主であるイザベルを死の境目を彷徨っていた剣士が、イザベルの治癒魔法で生還したことは多くの精霊達の間で話題となった。

「菩提樹の精霊の婚約者、人間から精霊に転身するらしいんだが。それが見事な回復魔法を使えるらしい」
「流石は長老様の直系一族に嫁ぐだけはあるねぇ。それとも精霊候補に選ばれる人間は、特別な能力を持っているのかしら」

 本来ならば好奇心が勝って、アレコレと口を出したいお節介な精霊もいるのだが。滅多にない精霊候補という存在と長老の直系一族である菩提樹の若者ティエールに臆して、口出し出来ない状態なのであった。

 買い物をしてからの帰宅となったため、婚約者ティエールと過ごすロッジに辿り着く頃には、すっかり夕日が降りていた。
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