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精霊候補編1
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ティエールの兄と言われても納得してしまいそうな若さを保つ長老は、すでに齢数百年のベテラン精霊だった。長老の菩提樹の花によく似た金色の髪は三つ編みに結われ、軽く後ろに流されていて麗しい。
優雅なティーセットが準備されて、一般的な面接とは程遠いゆったりした空気が流れる。
「それにしてもつい最近までまだ若い芽吹きだった菩提樹の若息子が、婚約者を連れてくる年齢になるとは。月日というものは、あっという間に過ぎていきますね。ところで初めての精霊界はどうですか、イザベルさん」
「あっはい。地上よりも自然が豊かで、空も太陽もとても近く感じます。住む世界が違いすぎて、人間である私がここの精霊になるなんて、夢を見ているのではないかと思うくらいです」
まだ夢の中にいるような感覚すら拭えないイザベルだったが、今座っているオリーブグリーンの上等なソファも、シックな木製のテーブルも、全て現実的なものだ。そして婚約者となるティエールは、顔立ちが端正すぎること以外は生身の人間と変わらない等身大の若者だった。
「ふふっ夢ではありません、じきに慣れますよ。さて、精霊界に慣れてもらうには実際に暮らして頂くのが一番早いのですが、その前にここの住人になるための基礎知識を覚えて貰わなくてはいけない。精霊候補に必要な知識を簡単にご説明しますね」
淹れたての紅茶とクッキーを愉しみながら、長老が精霊界に住む住人の種類と習わしについて教えてくれた。
精霊には大まかに分けて二種族あり、樹木や花々に宿る植物系の精霊と、風や雨などの自然現象とリンクする現象系精霊が主な種族だ。ティエールの妻となるイザベルは、植物系の精霊に嫁入りすることになる。
他にも精霊達の命はデリケートなため、精霊界では許可なく花々を無闇に切ってはいけないなど基本的なルールを教わる。一通りの説明が済んだところでふと思い出したように、ティエールがイザベルの精霊候補としての暮らしの制限について語りだした。
「精霊候補は完全な精霊ではないから、お目付役がつけられるんだ。キミの場合は小妖精をつけてもらえるように頼んでおこう」
「そう……やっぱり、お目付役が必要になるのね。けど小妖精なんて、まるで絵本か御伽噺のようだわ。仲良くなれるかしら」
「あの子達は悪戯好きだけど、本当に困るようなことはしないから。別の精霊がキミに接触するよりは、何倍もマシ……」
と、何かを言いかけてティエールが口籠った。何故イザベルのお目付役に他の精霊が付くのは不安なのだろうか、と不思議に思っていると長老がからかうように笑う。
「ティエールはあなたが他の精霊に取られてしまうのではないかと、焼きもちを妬いているんですよ。原則として精霊候補のうちは、婚約者のティエールとでさえいわゆる男女の契りを結ぶことが出来ませんから」
「ちょ、長老様……!」
図星で恥ずかしいのかティエールは、頬を赤らめてこれ以上この話題が続かないように長老を止める。だが長老としては真面目に忠告したいらしく、今までにない真剣な眼差しで改めてティエールとイザベルの二人に向き直った。
「いいですか、ティエール、イザベル……契りを結ぶのは七日目の夜。どんなに好き同士でもこれだけは守ってくださいね」
「は……はいっ」
「……肝に銘じておきます」
返事をするのと同時にティエールは隣に座るイザベルの細くしなやかな手をキュッと握って、『大事にするよ』と約束を交わす。イザベルは、優しいティエールの手の温もりに『自分はやはり、この人の妻になりたい』と恋心が高まるのであった。
優雅なティーセットが準備されて、一般的な面接とは程遠いゆったりした空気が流れる。
「それにしてもつい最近までまだ若い芽吹きだった菩提樹の若息子が、婚約者を連れてくる年齢になるとは。月日というものは、あっという間に過ぎていきますね。ところで初めての精霊界はどうですか、イザベルさん」
「あっはい。地上よりも自然が豊かで、空も太陽もとても近く感じます。住む世界が違いすぎて、人間である私がここの精霊になるなんて、夢を見ているのではないかと思うくらいです」
まだ夢の中にいるような感覚すら拭えないイザベルだったが、今座っているオリーブグリーンの上等なソファも、シックな木製のテーブルも、全て現実的なものだ。そして婚約者となるティエールは、顔立ちが端正すぎること以外は生身の人間と変わらない等身大の若者だった。
「ふふっ夢ではありません、じきに慣れますよ。さて、精霊界に慣れてもらうには実際に暮らして頂くのが一番早いのですが、その前にここの住人になるための基礎知識を覚えて貰わなくてはいけない。精霊候補に必要な知識を簡単にご説明しますね」
淹れたての紅茶とクッキーを愉しみながら、長老が精霊界に住む住人の種類と習わしについて教えてくれた。
精霊には大まかに分けて二種族あり、樹木や花々に宿る植物系の精霊と、風や雨などの自然現象とリンクする現象系精霊が主な種族だ。ティエールの妻となるイザベルは、植物系の精霊に嫁入りすることになる。
他にも精霊達の命はデリケートなため、精霊界では許可なく花々を無闇に切ってはいけないなど基本的なルールを教わる。一通りの説明が済んだところでふと思い出したように、ティエールがイザベルの精霊候補としての暮らしの制限について語りだした。
「精霊候補は完全な精霊ではないから、お目付役がつけられるんだ。キミの場合は小妖精をつけてもらえるように頼んでおこう」
「そう……やっぱり、お目付役が必要になるのね。けど小妖精なんて、まるで絵本か御伽噺のようだわ。仲良くなれるかしら」
「あの子達は悪戯好きだけど、本当に困るようなことはしないから。別の精霊がキミに接触するよりは、何倍もマシ……」
と、何かを言いかけてティエールが口籠った。何故イザベルのお目付役に他の精霊が付くのは不安なのだろうか、と不思議に思っていると長老がからかうように笑う。
「ティエールはあなたが他の精霊に取られてしまうのではないかと、焼きもちを妬いているんですよ。原則として精霊候補のうちは、婚約者のティエールとでさえいわゆる男女の契りを結ぶことが出来ませんから」
「ちょ、長老様……!」
図星で恥ずかしいのかティエールは、頬を赤らめてこれ以上この話題が続かないように長老を止める。だが長老としては真面目に忠告したいらしく、今までにない真剣な眼差しで改めてティエールとイザベルの二人に向き直った。
「いいですか、ティエール、イザベル……契りを結ぶのは七日目の夜。どんなに好き同士でもこれだけは守ってくださいね」
「は……はいっ」
「……肝に銘じておきます」
返事をするのと同時にティエールは隣に座るイザベルの細くしなやかな手をキュッと握って、『大事にするよ』と約束を交わす。イザベルは、優しいティエールの手の温もりに『自分はやはり、この人の妻になりたい』と恋心が高まるのであった。
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* 初期投稿の正編は、全10話構成で隙間時間に読める文字数となっています。* 2022年03月05日、長編版完結しました。お読み下さった皆様、ありがとうございました!
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