王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星里有乃

文字の大きさ
上 下
12 / 79
精霊候補編1

02

しおりを挟む

 ティエールに連れられてやって来た精霊界を束ねる長老様のお屋敷は、白亜の邸宅と呼ぶにふさわしい豪邸だった。敷地も広く季節の花の庭園の中心には噴水が優雅に輝き、用事で長老宅を訪問している他の精霊の姿もチラホラ。

「長老様のお屋敷はただの住まいと言うよりも、人間の世界で言う役場として使われているんだ。市長の家でそのまま住民の手続きを行なっているという感覚かな?」
「へぇ、どうりで他の精霊のおうちとはテイストが違うと思ったわ。民間の精霊が住むロッジもお洒落で素敵だったけど、白亜の邸宅は人間界の豪邸を彷彿とさせるわね」
「遥か昔は天の柱から人間が定期的に商談に来て、長老宅で取引なんかもしていたそうだから。当時の名残で長老の住まいだけは、人間界に馴染みのある造りなんだと思う」

 他の精霊達が住む住宅は大樹で造られたロッジが多かったが、どうやら長老様は人間の感覚と近しい暮らしをしているようだ。ロビーで受付を済ませて、長老様と面会をするまでソファで待機。
 確かに人間の世界で例えると市役所を思い出させるシステムではあるが、住民になるために長老と面接が必須なあたり、やはり人間と風習が異なるのだろうとイザベルは思った。

「けどティエール、突然人間の私が精霊候補になるなんて、出来るのかしら?」
「キミを精霊候補に選んだのは、絶対的な決定権を持つ上層部だからね。異議を唱えるものなんて、そうそういないさ。ただこの辺りの地域は長老様が仕切っているから、挨拶だけはきちんとしておかないと。大丈夫、僕がついているよ」
「うん、そうよね。ありがとうティエール」

 勢いで駆け落ち紛いの脱出劇を果たしたイザベルだったが、次の段階である精霊入りの面接がこんなにも早いとは思わなかったため、緊張が止まないのだ。なんせ牢獄から逃げてきたそのままの状態で、長老宅を訪問しているのだから。

(普段だったら、もっと髪型や服装を整えて外出していたのだけど。ううん、あの牢獄から抜け出せただけでも奇跡なのに贅沢言っちゃダメよね)

 ふと自分の身なりが気になってしまうイザベルだが、すでに肉体は天使や精霊に近い『エーテル体』になっているため、肌や髪は地上にいる時よりも綺麗な状態だった。パーティーに出席していた関係でそのまま牢に入れられた流れから、洋服だけはお洒落でありそこだけはホッとしている。
 しばらくするとメイドに呼ばれて、長老様が待つ執務室へと移動。重厚なドアをノックして、部屋に通されると想定外の美青年がイザベルを出迎えてくれた。

「失礼します長老様、いえ……この場合は婚約者に合わせるのだからおじいさまと呼んだ方がいいのでしょうか」
「はははっ。よくいらっしゃいましたねティエール、そしてイザベル。そんなに緊張しなくてもよいですよ、私がこの精霊界の長老です。菩提樹の若息子ティエールからすると、曾祖父という関係になります。さあ、ゆっくりお茶を飲みながら今後について話し合いましょう」
「はっはい、長老様。えっ……ティエールのひいお祖父様?」

 優しくイザベルとティエールにお茶を勧める長老は、婚約者となる菩提樹の若者ティエールの実の曾祖父だという。だが目の前の長老を名乗る金髪緑眼の美形の男は、どんなに年齢を重ねていたとしても三十代半ばと言ったところで、イザベルが驚くのも無理はない。

 ――年齢を超越した麗しい長老との不思議な面接が始まった。
しおりを挟む
* 初期投稿の正編は、全10話構成で隙間時間に読める文字数となっています。* 2022年03月05日、長編版完結しました。お読み下さった皆様、ありがとうございました!
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...