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精霊候補編1

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 この物語は男爵令嬢イザベルが人間の身から精霊になるまでの七日間の生活を描くものである。


 * * *


 冷たい牢からワープして辿り着いた先は、天国と精霊界の境目である『ヤドリギのほとり』だった。サラサラと清らかな川が流れ、魂が最初に辿り着くヤドリギが遠くに見えた。昼でありながら流星が瞬き、虹と月が同刻に煌めく麗しい世界。
 まるで遠い遠い異次元に導かれてしまったような錯覚さえするが、イザベルが住む人間界とは天の柱で繋がっており行き来が可能である。イザベルはこのまま魂として天に向かうか、菩提樹の精霊ティエールに嫁ぎ自らも『精霊入り』するかを検討する時間をもらった。

 決断までの期間はおよそ七日間。
 人間の世界と同様、一つの時間の区切りとして七日という時間は、物事を見極めるのに程良い時間なのだろう。

「イザベル、早速だがキミが精霊界で暮らしていけるように、仮の手続きを済ませよう。婚約中という設定になるから、住まいは僕と同じになるけど……いいよね」
「えっうん。私、精霊様の世界のことって分からないことだらけだし、ティエールと一緒の方が安心だわ」
「よし、まずは長老様にキミを紹介しないと、ついておいで」

 ティエールは地上とは様子の違う精霊界に動揺するイザベルをエスコートするように、優しく手を繋いで精霊達の住まいへと案内する。
 見慣れない人間の娘イザベルは、すれ違う精霊達からも注目され、その都度ティエールは『僕のフィアンセです』と、にこやかに紹介していた。恥ずかしそうに微笑むイザベルは、美女など見慣れているはずの精霊達から見ても可愛いらしい。


 若い菩提樹の精霊が人間の娘を天界に連れてきたことは、すぐに精霊や妖精の間で噂になった。

「人間の娘イザベルが、菩提樹の跡取り息子に連れられて我が精霊界にやってきたらしい。上層部はイザベルを精霊候補として、受け入れたとか」
「ほう、もう百年以上人間から精霊入りする者なんて、見かけなかったが。そうか、地上も精霊界も変換期なのじゃろう」
「しかし、人間の娘なぞこの数十年天では見ていなかったけど、随分可愛いらしいわねぇ。初々しいというのかしら? 若いっていいわぁ」


 特に平和な生活に飽きている妖精の娘達にとっては、丁度良い話の種だ。ツリーハウスで行われる妖精女子会の席では、異種族カップルの話題で持ちきりとなっていた。身体のサイズこそ蝶々くらいの小さな彼女達だが、好奇心は人一倍旺盛なのである。

「ねぇ聞いた? 菩提樹の若息子さん、本当に地上から人間の女の子を連れて来ちゃったんですって。それってもしかして、駆け落ちってヤツかなぁ。いいな、憧れるぅ」
「もう、地上から天に上げられるというのは滅多にないことなのよ。きっとそのイザベルって娘の真面目なお祈りが、上層部にも評価されたんだわ」
「ふうん。人間から精霊になるなんて、珍しいものね。私達妖精は、ちょっと遠巻きからカップルの行く末を見守りますか」

 無邪気な妖精の声が響くツリーハウスは、今日も平和そのものである。はてさて、イザベルはこの優しくも多種族が揃う精霊界でどのように生きていくのだろうか。
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