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正編
03
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パーティー会場に居合わせた殆ど全員がイザベルが無実であり、暗殺未遂疑惑も聖女ミーアスの虚言であることに気づいていた。
けれど聖女ミーアスは不思議な術で怪我を治癒し、他者の命を操ることが出来る選ばれた存在。そのミーアスに呪いでもかけられたら、自分だけではなく家族の命さえ危うい。イザベルを助けようとする勇気のある者など、この国にいるはずもない。
「衛兵よ、男爵令嬢イザベルを封印の牢獄へと連れて行けっ! 大切な聖女ミーアスを傷つけようとした罪は万死に値する。死をもって償うか、もしくは地獄の苦しみを味合わせるか、魔女裁判にて決めるとしようっ」
「はっ王太子アルディアス様の仰せの通りにっ」
男爵令嬢イザベルは聖女ミーアスの癇癪を治めるため、人身供儀の如く無実の罪で投獄されたのだ。
「きゃあっ。お願い、誰か助けて……どうしてこんな酷いことを。精霊様、精霊様……どうか御加護をっ」
悲痛な祈りを唯一聞き届けたのは、遠い天からいつもイザベルを見守る精霊の若者だけだった。
* * *
イザベルが連行されたのち、王太子アルディアスは被害に遭ったと主張するミーアスの様子を伺いに医務室へと立ち寄った。
泣きじゃくりながらアルディアスに抱きつくミーアスは、いかにも可愛いらしく純粋で。とても虚言症には見えなかった……いや、彼女の証言が嘘であっても『真実』に変えなくてはいけないのだ。
「お願いですわアル様、早くわたくしの目の前から男爵令嬢イザベルを消してくださいなっ。うぅ……このままではわたくし魔法が使えなくなってしまう」
「それは大変なことだ……安心しろ、ミーアス。僕がついているぞ」
「アル様ぁ……」
抵抗虚しく連れ去られるイザベルを嵌めた張本人である聖女ミーアスは、王太子の胸の中で嘘泣きしながらも内心は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「ねぇ……このままではわたくし、辛くて苦しくて魔力が尽きちゃうの。イザベルとはもう婚約破棄したのでしょう? 今こそ、わたくしに愛を誓ってよ」
最後の一押しにと、ミーアスは涙を拭いながら、アルディアスに口付けを迫り始めた。
「し、しかし……今日イザベルを婚約破棄したばかりで、そんな大胆な」
イザベルを投獄したばかりで、すぐさまミーアスに乗り換えるのは抵抗があるのか、抱きつくミーアスを止める。
「ねぇアル様。あくまでもこれは、わたくしの魔力を取り戻すための治療ですのよ。あぁ……早く、抱きしめて口付けをしてくださらないと、本当に魔法が使えなくなってしまうわっ」
ギシ、ギシッと並んで座るベッドが軋んで、二人分の体重を受け止めた。
「待って、ミーアスッ」
「お願いっ早く。口付けて」
短気なミーアスは早く早くと急かしながら、アルディアスに詰め寄る。色っぽい声を出して、甘えるように柔らかな胸をグイグイと押し当てるミーアスは、聖女というよりも娼婦である。
いや……その正体は娼婦どころか『人ですら無い』かも知れぬ。聖女であったはずのミーアスの魂は、とっくの昔にその肉体から消えていて。その聖女の皮の中には、悪魔が宿っているのだから。
そして行われる行為は男女の口付けではなく、悪魔による『魂の捕食』であった。
「分かったよ、ミーアス。ゆっくり、落ち着いて……急かさないで」
「アル様ぁ、今すぐ私に魂を頂戴。ちゃあんと味わってあげるから。ねっ……あぁ久しぶりのイキのいい王家の魂だわぁ。頂きまぁすっ」
「ミーアス? うぅ……はっはっ。ぐ、あぁぁあああああっ」
人払いされた医務室に、若い男の断末魔が鳴り響く。
為されるがままのアルディアスは、やがて死の恐怖にも似た情熱をミーアスから与えられて……人としての心を完全に失くした。
けれど聖女ミーアスは不思議な術で怪我を治癒し、他者の命を操ることが出来る選ばれた存在。そのミーアスに呪いでもかけられたら、自分だけではなく家族の命さえ危うい。イザベルを助けようとする勇気のある者など、この国にいるはずもない。
「衛兵よ、男爵令嬢イザベルを封印の牢獄へと連れて行けっ! 大切な聖女ミーアスを傷つけようとした罪は万死に値する。死をもって償うか、もしくは地獄の苦しみを味合わせるか、魔女裁判にて決めるとしようっ」
「はっ王太子アルディアス様の仰せの通りにっ」
男爵令嬢イザベルは聖女ミーアスの癇癪を治めるため、人身供儀の如く無実の罪で投獄されたのだ。
「きゃあっ。お願い、誰か助けて……どうしてこんな酷いことを。精霊様、精霊様……どうか御加護をっ」
悲痛な祈りを唯一聞き届けたのは、遠い天からいつもイザベルを見守る精霊の若者だけだった。
* * *
イザベルが連行されたのち、王太子アルディアスは被害に遭ったと主張するミーアスの様子を伺いに医務室へと立ち寄った。
泣きじゃくりながらアルディアスに抱きつくミーアスは、いかにも可愛いらしく純粋で。とても虚言症には見えなかった……いや、彼女の証言が嘘であっても『真実』に変えなくてはいけないのだ。
「お願いですわアル様、早くわたくしの目の前から男爵令嬢イザベルを消してくださいなっ。うぅ……このままではわたくし魔法が使えなくなってしまう」
「それは大変なことだ……安心しろ、ミーアス。僕がついているぞ」
「アル様ぁ……」
抵抗虚しく連れ去られるイザベルを嵌めた張本人である聖女ミーアスは、王太子の胸の中で嘘泣きしながらも内心は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「ねぇ……このままではわたくし、辛くて苦しくて魔力が尽きちゃうの。イザベルとはもう婚約破棄したのでしょう? 今こそ、わたくしに愛を誓ってよ」
最後の一押しにと、ミーアスは涙を拭いながら、アルディアスに口付けを迫り始めた。
「し、しかし……今日イザベルを婚約破棄したばかりで、そんな大胆な」
イザベルを投獄したばかりで、すぐさまミーアスに乗り換えるのは抵抗があるのか、抱きつくミーアスを止める。
「ねぇアル様。あくまでもこれは、わたくしの魔力を取り戻すための治療ですのよ。あぁ……早く、抱きしめて口付けをしてくださらないと、本当に魔法が使えなくなってしまうわっ」
ギシ、ギシッと並んで座るベッドが軋んで、二人分の体重を受け止めた。
「待って、ミーアスッ」
「お願いっ早く。口付けて」
短気なミーアスは早く早くと急かしながら、アルディアスに詰め寄る。色っぽい声を出して、甘えるように柔らかな胸をグイグイと押し当てるミーアスは、聖女というよりも娼婦である。
いや……その正体は娼婦どころか『人ですら無い』かも知れぬ。聖女であったはずのミーアスの魂は、とっくの昔にその肉体から消えていて。その聖女の皮の中には、悪魔が宿っているのだから。
そして行われる行為は男女の口付けではなく、悪魔による『魂の捕食』であった。
「分かったよ、ミーアス。ゆっくり、落ち着いて……急かさないで」
「アル様ぁ、今すぐ私に魂を頂戴。ちゃあんと味わってあげるから。ねっ……あぁ久しぶりのイキのいい王家の魂だわぁ。頂きまぁすっ」
「ミーアス? うぅ……はっはっ。ぐ、あぁぁあああああっ」
人払いされた医務室に、若い男の断末魔が鳴り響く。
為されるがままのアルディアスは、やがて死の恐怖にも似た情熱をミーアスから与えられて……人としての心を完全に失くした。
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