王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星里有乃

文字の大きさ
上 下
2 / 79
正編

02

しおりを挟む

 金髪碧眼の麗しい令嬢イザベルが、無実の罪で婚約破棄に追い込まれるのも時間の問題だろう。そんな噂が囁かれるようになった頃、タイミング悪くイザベルが通う学園で卒業ダンスパーティーが開催された。

 それは作為的にイザベルを嵌めるのに、うってつけのシチュエーションだった。

「きゃあっ! やめて下さいな、イザベル様。わたくしの大切なネックレスをどうしてこんな風に引きちぎるのです? なんで、なんで、なんでなのっ。そこまでしてわたくしに嫉妬しているのですかっ? きっとわたくしに嫉妬するあまり、首を絞めて殺そうとしたのねっ」

 ダンス会場でドリンクを配るお手伝いをして欲しい、そう頼まれてイザベルがミーアスと二人っきりになったのが運の尽き。突然ミーアスは給湯室から駆け出して、自らネックレスを大声をあげながら突然引きちぎった。そして、その行為は自作自演であるにも関わらず、全てイザベルが行ったと騒ぎ始める。
 さらに虚言はエスカレートしていき、ミーアスを殺そうとしたという罪を捏造し出した。

「えっ……言い掛かりはやめて下さいな。あなたが興奮して、自らネックレスを引きちぎったのでしょう」
「違うもん、全部ぜんぶ、あんたが悪いんだもの。ねえ、皆様聞いて! 男爵令嬢イザベルは、小癪な手を使ってお告げを操作しているのよっ。自分がアル様の妻になれるように、裏で神殿と繋がっているのっ。ねぇ早く殺してよ、この女を殺してよぉっ」

 癇癪を起こし泣き叫ぶミーアスに『またか』と呆れる者もいたが、王太子の命の恩人である聖女ミーアスに逆える者など誰もいない。

「ミーアス様、お言葉ですが。ミーアス様がご自分で、ネックレスをちぎったように見えたと証言する者が……」
「はぁああっ? わたくしが嘘をついていると仰るの。早くイザベルを……殺して殺して、殺して、殺して、殺して、殺してぇえええええっ……! でないと、アンタ達も全員死ぬように呪うわよっ。わたくしは命を司る聖女なんだからぁあああっ」
「誰かぁあっ、ミーアス様を医務室へ。イザベル嬢の罪は、必ずや国家の権威をもって裁きますから」

 やがて虚偽の発言は『真実』となり、イザベルは暗殺未遂の容疑をかけられてしまう。

(ミーアスの精神状態はあまりにも酷くて、異常を通り越して……ただの悪魔だわ。なのに何故、みんな彼女の言いなりなの?)

 良識のある人間が一人でもこの場いれば、イザベルを多少なりとも庇ったかも知れない。あいにく、ほとんどの民衆が良識を捨てて、ミーアス側についていた。
 同窓生達が見守るパーティー会場で、イザベルは婚約破棄を言い渡される。それは王太子アルディアスが、イザベルを裏切りミーアスを選んだ瞬間だった。

「今日をもってイザベル・カエラートとの婚約は破棄とし、イザベルを聖女暗殺未遂の疑いで魔女裁判にかけるっ」
「そ、そんな……! 私、聖女ミーアスに対して、何もしておりませんわっ」

 その婚約破棄宣言はイザベルの命さえ奪いかねない、非情な宣告なのであった。
しおりを挟む
* 初期投稿の正編は、全10話構成で隙間時間に読める文字数となっています。* 2022年03月05日、長編版完結しました。お読み下さった皆様、ありがとうございました!
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

処理中です...