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四、その晩のこと
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「お兄ちゃんのせいで、すっごい不愉快になったんだけど!」
帰宅後憤然と兄に食ってかかれば、鼻で笑われた。
「碌々体動かしてないせいで、丸くなってたんだ。運動できて丁度よかったろ。むしろ感謝しろ」
東の空までとっぷりと暗くなり、夏の大三角が輝く時刻、無事家に着き晩ご飯にありついた。
テレビをつけながら兄と二人の夕食中も文句をひとしきり行った後、それで、とつっけんどんに言った。
「あいつ、だれ?」
「おっまえねぇ、ムカつくくらい顔の整ってるムカつくヤツって言われて個人特定できるか。もっと詳しく」
「......色白で、こう、病人一歩手前くらいの白? 身体も細めだったかな? 華奢の一歩手前みたいな? 黒髪で、あと、TシャツとGパンはアレ絶対ユニクロ! で、すっごい性格悪そうなヤツ!」
「う? んー...うん? ......なんとなくわかりそうなわからなそーな...」
兄は腕を組んで、うんうん唸った。もしかして、彼かな、とある人物を思い浮かべつつも、まさかなぁ、とその思いを打ち消したりしているようだった。
そしてふいに、ああ、そう言えば、と思い出したように手を打った。
「お前さ、バイトしない?」
「バイト?」
「そ。お得意さんから連絡あったんだよねー。俺たちにしかできないバイト」
意味深に笑う兄に嫌な予感がした。
「やだ」
「学校もどうせ行かないんだろう?」
「普段は学校行け行け言うくせに、そうゆうこと言うんだ? そんなんだから行かなくてもいいや、って思考に私がなるんでしょう」
「責任転換もいいところだね。理想として言えば? 学校に行きつつバイトして欲しいってことなんだけど。お前の高校はバイトオッケーだろ?」
冗談じゃない。
なんでそんな色々やんなきゃいけないんだ。
しかし兄は問答無用に言った。
「明日土曜だし、学校はそもそもないから、午前10時に行くっつっといた」
「はぁ? 何それ! おかしくない!? 本人に断りもなく!」
「明日は送ってやるから、二回目からは道覚えて一人でいけよ?」
「行かないって言ってんでしょ!」
兄は無視することに決めたらしい。
テレビチャンネルをまわし、強盗殺人事件のニュースを見ながら、物騒だなぁ、とかほざいてる。
こうなった兄は馬耳東風なので、諦めてご飯を平らげることにした。
皿洗いをし、お風呂に入って、ベッドインしたところで、そういえばバイト内容具体的には何も言ってなかったな、と思った。
「厄日ね...」
灯りを落として、寝た。
※ ※ ※
夢をみた。
珍しく夢の中の自分は夢を見ていると気づいた。
龍が空を飛んでるとか、天使が舞い降りてきたとか、そんなファンタジックな事は何もないけれど、ああ、これは夢だ、と気づいた。
見にくいな、とまず思った。
眼前の光景を見ているはずなのにひどく見にくく、大きく目を開けようとしている自分がいた。否、いた、というか、それが自分である。
紅葉のような小さな手が斜め前に伸ばされる。何かと思いほどなくして、あ、自分の手だと気づいた。
誰かを求めていた。
眩しくて遠いそれを、小さな自分は渇望しているようだった。
眩むほどの光を背に、逆光のその人の顔は見えない。光に浮き彫りにされた影だ。
その影に、おもいっきり手を伸ばしている。
ーー一体、何をそんなにも必死に求めているのだろう。
※ ※ ※
最悪の目覚めだった。
顔がパリパリになっていて、泣いていたことに気づいた。いや、本当は起きる前から気づいていた。
とにかく無性に懐かしくて切なくて、何かを求めていて。過去夢に違いないのに、何も思い出せなくて腹が立った。
起きろー、朝飯だぞー、と階下から声がしたので、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回し、大きく欠伸をして無理やり涙を流した。
「今行くー」
寝起きの揺れる声で、返事をして、ベッドから降りた。
帰宅後憤然と兄に食ってかかれば、鼻で笑われた。
「碌々体動かしてないせいで、丸くなってたんだ。運動できて丁度よかったろ。むしろ感謝しろ」
東の空までとっぷりと暗くなり、夏の大三角が輝く時刻、無事家に着き晩ご飯にありついた。
テレビをつけながら兄と二人の夕食中も文句をひとしきり行った後、それで、とつっけんどんに言った。
「あいつ、だれ?」
「おっまえねぇ、ムカつくくらい顔の整ってるムカつくヤツって言われて個人特定できるか。もっと詳しく」
「......色白で、こう、病人一歩手前くらいの白? 身体も細めだったかな? 華奢の一歩手前みたいな? 黒髪で、あと、TシャツとGパンはアレ絶対ユニクロ! で、すっごい性格悪そうなヤツ!」
「う? んー...うん? ......なんとなくわかりそうなわからなそーな...」
兄は腕を組んで、うんうん唸った。もしかして、彼かな、とある人物を思い浮かべつつも、まさかなぁ、とその思いを打ち消したりしているようだった。
そしてふいに、ああ、そう言えば、と思い出したように手を打った。
「お前さ、バイトしない?」
「バイト?」
「そ。お得意さんから連絡あったんだよねー。俺たちにしかできないバイト」
意味深に笑う兄に嫌な予感がした。
「やだ」
「学校もどうせ行かないんだろう?」
「普段は学校行け行け言うくせに、そうゆうこと言うんだ? そんなんだから行かなくてもいいや、って思考に私がなるんでしょう」
「責任転換もいいところだね。理想として言えば? 学校に行きつつバイトして欲しいってことなんだけど。お前の高校はバイトオッケーだろ?」
冗談じゃない。
なんでそんな色々やんなきゃいけないんだ。
しかし兄は問答無用に言った。
「明日土曜だし、学校はそもそもないから、午前10時に行くっつっといた」
「はぁ? 何それ! おかしくない!? 本人に断りもなく!」
「明日は送ってやるから、二回目からは道覚えて一人でいけよ?」
「行かないって言ってんでしょ!」
兄は無視することに決めたらしい。
テレビチャンネルをまわし、強盗殺人事件のニュースを見ながら、物騒だなぁ、とかほざいてる。
こうなった兄は馬耳東風なので、諦めてご飯を平らげることにした。
皿洗いをし、お風呂に入って、ベッドインしたところで、そういえばバイト内容具体的には何も言ってなかったな、と思った。
「厄日ね...」
灯りを落として、寝た。
※ ※ ※
夢をみた。
珍しく夢の中の自分は夢を見ていると気づいた。
龍が空を飛んでるとか、天使が舞い降りてきたとか、そんなファンタジックな事は何もないけれど、ああ、これは夢だ、と気づいた。
見にくいな、とまず思った。
眼前の光景を見ているはずなのにひどく見にくく、大きく目を開けようとしている自分がいた。否、いた、というか、それが自分である。
紅葉のような小さな手が斜め前に伸ばされる。何かと思いほどなくして、あ、自分の手だと気づいた。
誰かを求めていた。
眩しくて遠いそれを、小さな自分は渇望しているようだった。
眩むほどの光を背に、逆光のその人の顔は見えない。光に浮き彫りにされた影だ。
その影に、おもいっきり手を伸ばしている。
ーー一体、何をそんなにも必死に求めているのだろう。
※ ※ ※
最悪の目覚めだった。
顔がパリパリになっていて、泣いていたことに気づいた。いや、本当は起きる前から気づいていた。
とにかく無性に懐かしくて切なくて、何かを求めていて。過去夢に違いないのに、何も思い出せなくて腹が立った。
起きろー、朝飯だぞー、と階下から声がしたので、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回し、大きく欠伸をして無理やり涙を流した。
「今行くー」
寝起きの揺れる声で、返事をして、ベッドから降りた。
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