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第十一章
第81話『みんなとこうして笑い、歩きながら』
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「こんなのっておかしいじゃないですか!」
学園長室にて、柄にもなく美咲は声を荒げる。
美咲だけじゃない。
桐吾、結月、彩夏、一樹、叶、一華も僕の制止を聞かずに強行を図った。
「でもねぇ、ルールはルールだからさ」
「それもおかしいと思います。だって、志信くんはこのパーティのリーダーなんですよ」
「うーん、でもねぇ」
明泰学園長は眉間に皺をよせ、扇子で肩を叩く。
「私、もう決めてます。学事祭で得られた報酬は受け取りません。辞退します」
「僕も同じです」
「俺だって願い下げです。こんな不平等を受け入れることなんてできません」
「みんな、僕のことは良いから。もう一度だけ考え直して」
僕はみんなと明泰学園長の間に割り込む。
あの後、無事に表彰式が執り行われ、三週間にもわたる学事祭は無事に幕を下ろした。
しかし、表彰式にて報酬に疑問を抱いた美咲が発端から、今の現状に繋がっている。
僕もつい今さっき聴いたんだけど、表彰台に上がっていないのに同じ職場体験先にするのはいかがなものか、という話らしい。
確かに、それは理不尽だと思う反面、この頂きに届かなかった生徒たちに示しがつかないというのも理解できる。
それに、みんなは猛反対しているけれど、僕だけ報酬がないというわけではなく、しっかりと全部受け取れるし、職場体験先も別途用意されているようだ。
だから、個人的には僕のことは気にせずにみんなで行ってほしいのだけれど……。
「そんなにみんなで一緒に行きたいのかい?」
「そんなの当たり前じゃないですか。私たちは7人で優勝したんじゃないんです、8人で優勝したんです。それに、私は断言します。このパーティは、志信くんが居なければここまで来れませんでした」
僕の制止する声には耳を貸してくれない。
あろうことか、美咲の言葉に頷いている。
「うーん……どうしたもんかねぇ」
両者とも一歩も引かない。
そんな平行線を辿っている最中、入り口の扉からノック音が三回。
「はーい、どうぞー」
明泰学園長の許可が下りて、西鳩先生が入室してきた。
「お取込み中のところ失礼します。つい先ほど、こちら宛に手紙が届きました」
「ほう、どれどれ」
僕たちを横切り、西鳩先生は明泰学園長に純白の手紙を手渡す。
「それにしても真っ白だな、表も裏も」
それを僕は身に覚えがある。
前回も今回も差出人は記入されていない。
だけど、不思議と何かが込み上げてきた。
「ふむ。これは誰かに向けられた手紙らしい。少なくとも自分宛てに書かれたものではない」
「どういうことでしょうか。では誰に、と?」
明泰学園長は僕に視線を送ってきた。
そして、手招きをされ、それに従って近づいて手紙を渡される。
「読んでみなさい」
「……はい」
僕は二つ折りになった紙を開く。
『まず初めに、学事祭お疲れ様。残念ながら僕は最後までキミの活躍をこの目で確認することは叶わなかったが、結果とそこに至るまでの活躍はちゃんと耳に届いた。そして、現在置かれている状況についても把握している。――そこで、だ。いろいろと口実を考えたが、やはりどうやっても無理らしい。が、面白い手を考えた。だから、大船に乗った気分で待っていてくれ。この手紙の後、追って知らせを送る。以上』
上木さんからの手紙だ。
憧れの人に祝ってもらえるなんて、これ以上のことはない。
それにしても、随分と大胆な人だ。
家に送ってくるならまだしも、誰の目に触れるかわからない場所に手紙を送ってくるなんて。
「それで志信君、誰からの手紙なんだい?」
「それは――」
「はっはっは。どこかの冒険馬鹿からのやつだよ。詮索するだけ無駄だ、知ったところで後悔するだけだ。ほら言うだろ、世の中には知らない方があるというのもあるということだ。みんなも、な」
僕は今にも飛び上がりそうになる感情をグッと堪える。
だけど、みんなは尚も不服そうな顔をしていた。
みんなにそうしてもらいたいのなら、ちゃんと僕が説得しないと。
僕はこの学事祭を通して、みんなで意見を出し合い、しっかりと言葉を交わしてきた。
だったら、今だってそうだ。
言葉で伝えなきゃ。
「みんな。ここまで来られたのは、みんなが居たからだ。僕だけでも、誰かが欠けてしまっても成し遂げることはできなかった。たぶん、みんなもそう思ってるはずだよね。――みんなの気持ちはとても嬉しい。だけど、ふざけているように聞こえるかもしれないけれど、ここで永遠の別れになるわけじゃない、って気楽に考えるのも良いんじゃないかなって思うんだ」
こんな状況で何を言い出すかと思えば、とみんなは思っているはず。
だけど、そう気の抜けたことを言ったせいか、みんなの顔から怒気が抜けた気がする。
「まあ確かに、普通は夏休みになったら合わないのが普通だしな」
「一樹の言う通りだね」
一樹と桐吾はヤレヤレと頬を緩めた。
「うん。だから難しく考えないで、夏休みの間だけ別行動ってことで良いんじゃないかなって」
「なるほどねっ、これは座布団一枚っ」
「結月ちゃん、ここには座布団ないよ」
「一華の盾を出して座布団にしたり?」
緊張の糸が解けたのか、冗談が飛び始めた。
当然、一華は「そんなのに大事な盾を使わないで!」と叶に反論している。
ついでにそのやりとりを彩夏が腹を抱えて笑い始めた。
「もうみんな、ふざけないでよ。でも、冷静さを欠いていたのは確かだね。私もまだまだだ。これじゃあ、まだまだ志信くんが居ないと全然ダメみたい。だから、私も、みんなも短い期間だけど、志信くんに頼り過ぎないような努力をしないといけないね」
「まあ、そんな感じにね」
良かった、みんな納得してくれたみたいだ。
「良かった良かった。終わり良ければ総て良し、ってな」
明泰学園長は大きく手を叩き始める。
ついでに大笑いも。
「それでは解散ということで。夏休みまで後数日あるし、その間に全員へちゃんとした通達を送る。ちゃんと、したね」
この場に居る全員、その強調された言葉に苦笑いをする。
たぶん、この場に居ないハチャメチャな人はくしゃみをしているだろう。
謝罪と一礼を終え、僕たちは部屋を後にした。
急遽始まった学事祭は、本当に全てが終わった。
長いようで短く、みんなと切磋琢磨した記憶が鮮明に残っている。
全てが順調に行っていたようで、どこかで歯車が噛み合っていない時もあった。
だけど、その度にみんなで乗り越えた。
だから今はもう少しだけ、みんなで掴んだこの頂きの余韻に浸ろうかな。
みんなとこうして笑い、歩きながら。
学園長室にて、柄にもなく美咲は声を荒げる。
美咲だけじゃない。
桐吾、結月、彩夏、一樹、叶、一華も僕の制止を聞かずに強行を図った。
「でもねぇ、ルールはルールだからさ」
「それもおかしいと思います。だって、志信くんはこのパーティのリーダーなんですよ」
「うーん、でもねぇ」
明泰学園長は眉間に皺をよせ、扇子で肩を叩く。
「私、もう決めてます。学事祭で得られた報酬は受け取りません。辞退します」
「僕も同じです」
「俺だって願い下げです。こんな不平等を受け入れることなんてできません」
「みんな、僕のことは良いから。もう一度だけ考え直して」
僕はみんなと明泰学園長の間に割り込む。
あの後、無事に表彰式が執り行われ、三週間にもわたる学事祭は無事に幕を下ろした。
しかし、表彰式にて報酬に疑問を抱いた美咲が発端から、今の現状に繋がっている。
僕もつい今さっき聴いたんだけど、表彰台に上がっていないのに同じ職場体験先にするのはいかがなものか、という話らしい。
確かに、それは理不尽だと思う反面、この頂きに届かなかった生徒たちに示しがつかないというのも理解できる。
それに、みんなは猛反対しているけれど、僕だけ報酬がないというわけではなく、しっかりと全部受け取れるし、職場体験先も別途用意されているようだ。
だから、個人的には僕のことは気にせずにみんなで行ってほしいのだけれど……。
「そんなにみんなで一緒に行きたいのかい?」
「そんなの当たり前じゃないですか。私たちは7人で優勝したんじゃないんです、8人で優勝したんです。それに、私は断言します。このパーティは、志信くんが居なければここまで来れませんでした」
僕の制止する声には耳を貸してくれない。
あろうことか、美咲の言葉に頷いている。
「うーん……どうしたもんかねぇ」
両者とも一歩も引かない。
そんな平行線を辿っている最中、入り口の扉からノック音が三回。
「はーい、どうぞー」
明泰学園長の許可が下りて、西鳩先生が入室してきた。
「お取込み中のところ失礼します。つい先ほど、こちら宛に手紙が届きました」
「ほう、どれどれ」
僕たちを横切り、西鳩先生は明泰学園長に純白の手紙を手渡す。
「それにしても真っ白だな、表も裏も」
それを僕は身に覚えがある。
前回も今回も差出人は記入されていない。
だけど、不思議と何かが込み上げてきた。
「ふむ。これは誰かに向けられた手紙らしい。少なくとも自分宛てに書かれたものではない」
「どういうことでしょうか。では誰に、と?」
明泰学園長は僕に視線を送ってきた。
そして、手招きをされ、それに従って近づいて手紙を渡される。
「読んでみなさい」
「……はい」
僕は二つ折りになった紙を開く。
『まず初めに、学事祭お疲れ様。残念ながら僕は最後までキミの活躍をこの目で確認することは叶わなかったが、結果とそこに至るまでの活躍はちゃんと耳に届いた。そして、現在置かれている状況についても把握している。――そこで、だ。いろいろと口実を考えたが、やはりどうやっても無理らしい。が、面白い手を考えた。だから、大船に乗った気分で待っていてくれ。この手紙の後、追って知らせを送る。以上』
上木さんからの手紙だ。
憧れの人に祝ってもらえるなんて、これ以上のことはない。
それにしても、随分と大胆な人だ。
家に送ってくるならまだしも、誰の目に触れるかわからない場所に手紙を送ってくるなんて。
「それで志信君、誰からの手紙なんだい?」
「それは――」
「はっはっは。どこかの冒険馬鹿からのやつだよ。詮索するだけ無駄だ、知ったところで後悔するだけだ。ほら言うだろ、世の中には知らない方があるというのもあるということだ。みんなも、な」
僕は今にも飛び上がりそうになる感情をグッと堪える。
だけど、みんなは尚も不服そうな顔をしていた。
みんなにそうしてもらいたいのなら、ちゃんと僕が説得しないと。
僕はこの学事祭を通して、みんなで意見を出し合い、しっかりと言葉を交わしてきた。
だったら、今だってそうだ。
言葉で伝えなきゃ。
「みんな。ここまで来られたのは、みんなが居たからだ。僕だけでも、誰かが欠けてしまっても成し遂げることはできなかった。たぶん、みんなもそう思ってるはずだよね。――みんなの気持ちはとても嬉しい。だけど、ふざけているように聞こえるかもしれないけれど、ここで永遠の別れになるわけじゃない、って気楽に考えるのも良いんじゃないかなって思うんだ」
こんな状況で何を言い出すかと思えば、とみんなは思っているはず。
だけど、そう気の抜けたことを言ったせいか、みんなの顔から怒気が抜けた気がする。
「まあ確かに、普通は夏休みになったら合わないのが普通だしな」
「一樹の言う通りだね」
一樹と桐吾はヤレヤレと頬を緩めた。
「うん。だから難しく考えないで、夏休みの間だけ別行動ってことで良いんじゃないかなって」
「なるほどねっ、これは座布団一枚っ」
「結月ちゃん、ここには座布団ないよ」
「一華の盾を出して座布団にしたり?」
緊張の糸が解けたのか、冗談が飛び始めた。
当然、一華は「そんなのに大事な盾を使わないで!」と叶に反論している。
ついでにそのやりとりを彩夏が腹を抱えて笑い始めた。
「もうみんな、ふざけないでよ。でも、冷静さを欠いていたのは確かだね。私もまだまだだ。これじゃあ、まだまだ志信くんが居ないと全然ダメみたい。だから、私も、みんなも短い期間だけど、志信くんに頼り過ぎないような努力をしないといけないね」
「まあ、そんな感じにね」
良かった、みんな納得してくれたみたいだ。
「良かった良かった。終わり良ければ総て良し、ってな」
明泰学園長は大きく手を叩き始める。
ついでに大笑いも。
「それでは解散ということで。夏休みまで後数日あるし、その間に全員へちゃんとした通達を送る。ちゃんと、したね」
この場に居る全員、その強調された言葉に苦笑いをする。
たぶん、この場に居ないハチャメチャな人はくしゃみをしているだろう。
謝罪と一礼を終え、僕たちは部屋を後にした。
急遽始まった学事祭は、本当に全てが終わった。
長いようで短く、みんなと切磋琢磨した記憶が鮮明に残っている。
全てが順調に行っていたようで、どこかで歯車が噛み合っていない時もあった。
だけど、その度にみんなで乗り越えた。
だから今はもう少しだけ、みんなで掴んだこの頂きの余韻に浸ろうかな。
みんなとこうして笑い、歩きながら。
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