転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

文字の大きさ
上 下
122 / 129
第十章

第75話『この打ち合わせは、もしものため』

しおりを挟む
「ん? どうしたの?」
「な、なにか問題でも?」
「さっきの打ち合わせからの変更はないんだけれど、もしもの時に備えておこうかなって思って」

 こんな話題をいきなり切り出されれば、疑問を抱くよね。
 キョトンとした顔を向けられても仕方がない。

「本当にもしもの、例えば僕が一番最初に戦闘不能になったらの時のことをね」
「え、なんてことを言ってるの。そんなの絶対にあっちゃいけないことじゃない」
「そ、そうだよね。リーダーが戦闘不能になったら、指揮が……あ」
「そう、普通だったリーダーという指揮が居なくなってしまえば、防戦一方になって敗北までの時間を待つだけになりかねない。だけど、こちらには美咲が居る」
「……なるほど、そういうことね。理解できても、それだけは絶対に避けなきゃだけど」
「……この流れで言うのもあれなんだけど……美咲は僕に何があっても回復をしないでほしいんだ。一華も、僕が標的とされても守りに入らないでほしい」
「え、でも……」
「それは了承できない。でも、何か考えがあるんだよね」
「これは勝つための策なんだ。対人戦において、後方支援というのは厄介になる。それはこちらもあちらも一緒。それにリーダーともなれば、一番最初に狙われるのはまず間違いない。だけど、そこをあえて狙わせるんだ」

 美咲と一華は、言葉に出さなくても首を傾げて表情で「どういうこと?」と語っている。

「全て想定上の話だけれど、速攻で僕を潰しに来るとする。ともなれば、バフやスキルなどが集中するよね、そこで僕が耐えて時間を稼げばみんながどうにかしてくれる」
「本当に飛び込んで来れば、中衛の一樹くんと結月も加勢できる……ってことだよね」
「なるほど。そして、私は美咲ちゃんだけを集中して護れば良いんだね」
「そういうことだね」

 美咲は顎に手を当てて、考え始める。

「あ、あの。今思ったんだけど、相手の盾って美咲ちゃんにスキルを使ったりしないのかな」
「――確かに。その可能性は大いにあると思う」
「それでね、思ったんだ。私たちが使うスキル管理のスキルって、視界外の敵には効果が発動しないんだ」
「目をつぶってたり、何かしらで目線を封じられたりってこと?」
「そう。だとしたら、美咲ちゃんは常に私の後ろ、つまり盾の後ろに隠れていればスキルを発動できない。そして、私が相手の盾の人にスキルを使って拘束する」
「凄い、凄いよ一華」
「え、ひぇっ」
「相手の盾を封じつつ、美咲を護る。そして美咲はほぼ自由にみんなを回復させられる。もしも遠距離攻撃が飛んできたとしても、盾の後ろに居るから自動的に護れる…凄いよ、名案だ」
「あ、ありがとう!」

 一華は嬉しそうな声とは逆に目線を下げてしまった。

 でも、これは凄い。その手があったか。
 体とは少し不相応な大盾だからこそできること。
 戦闘中に簡易要塞を造り、回復砲台で回復し放題というわけだ
 もしかしたら、別の場所では彩夏のようなメイジでも運用できるんじゃないか。

「あ、それでなんだけど。もしも僕が戦闘不能になったらって続きで、掛け声を美咲にお願いしたいんだ」
「――いろいろとわかったよ、なんで志信くんだけ人数に入ってなかったのかを。こういうことだったんだね」
「美咲、ちょっと怒ってる……?」
「いいえ別に? 指揮の譲渡をお願いするとか、それが自分が戦闘不能になった時のことを想定しているとか、そういうのを含んで相談してくれなかったことかを怒ってるわけないじゃん? な・か・ま、なんだし」

 眉間に皺を寄せて、ジリジリと一歩ずつ近づいてくるの、怖いんですけど……。
 しかも、ゼロ距離まで来たと思ったら人差し指でグサグサと胸元を刺さないでください。怖いです。

「ご、ごめんって。勝つために何でもやるけれど、負けないために最悪を想定するのは必要なんだよ」
「はいはいわかってますよ。私なんかと相談しながら決めるより、志信くんなら独りで考えた方がいいのはわかってるし。あ、それとも? 一華みたいな名案が思い浮かぶんなら? 一華は居た方がいいのかな?」
「え! 私ならいいの!?」

 いや一華、そこで嬉しそうに反応をしてはいけない。

「ち、違うんだ。確かに考えていた時は独りだったよ。でも、こういうのって絶対に反対されると思って」
「それはそうでしょ。どこに仲間が戦闘不能になる前提で話を進められる人がいるの?」

 腕を組みながら鋭い目線を向けられた。

「だからごめんって」

 僕は頭を下げて、頭上で手を合わせる。

「でもわかってるよ。それがたぶん最善なんだよね」
「……うん」
「……本来なら、頼られる立場であるからこそ、代案の一つでも提案するべきだよね。でも、私はまだまだだから、こんな自分に腹が立つけれど理解したよ」
「ありがとう」
「理解はしたけれど、納得はしてないよ。これは最悪の状況ってだけで、そうならないのが一番良いんだから」
「うん、それでいいよ」

 僕は恐る恐る目線を上げた。

「ん~。で、でも、生徒会長のパーティってくらいだからそんな強引な策を実行するのかな? もっと的確で有効な攻撃とかしてきそう」
「イメージだけで言ったらそうだけど、一華もしかしてただの印象だけで話してない?」
「な、なぜそれをっ。美咲ちゃん、超能力の持ち主なの?!」
「そんなわけないでしょ。単純に、生徒会長がリーダーなんでしょ? 奇想天外な策が用意されているわよ」
「た、たしかに……」

 僕は心の内に秘めていた懸念を口に出す。

「これはただの不安なんだけれど、もしも光崎さんのパーティに兄貴が居た場合、この最悪な状況は現実になると思っている」
「そういえば、志信くんの家へお泊り会に行った時、挨拶だけした人だよね?」
「私も憶えてるよ。優しそうな人だったよね」
「でも、学園では『戦鬼』なんて呼ばれてたりもするよね。見た目では想像もでいないんだけど」
「うん。普段は優しくて面倒見の良い優しい兄貴なんだ。でも……やる気になった瞬間から、全てが変わる。優しそうな顔も、剣の扱い方も、攻撃方法もその全てが」
「そ、そんなになんだ」
「え……もしかして、志信くんってそのお兄さんと模擬戦とかしてたりしないよね」
「ん? 何回もしてるよ」
「「あっ」」

 美咲と一華は顔を合わせている。

「志信くんのその無尽蔵な体力とか、いろいろの意味がわかったような気がする」
「わ、私も」

 このやり取りで何が?
 僕はつい首を傾げてしまった。

「もしかしてだけど、志信くんのお兄さんが生徒会長のパーティに居たとしたら、さっきまでの懸念は本当に起きてしまうかもね。志信くんの実力を知っているからこそ、そういう情報も筒抜けってことだし」
「え、それズルいっ」
「でも一華。こっちはその本人が居るのだから、あっちからしたらこっちの方がズルいって思われてるかも」
「た、たしかに」
「あはは……」

 なんか僕、変な扱いをされていませんか?

「と、とりあえず。そんな感じでよろしくね」
「うん」
「うんっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話

亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...