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第十章

第74話『予想を想定した打ち合わせ』

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「もしかしてだけど、前回やったのを活用するの?」
「美咲が言ってるのって、あのスリー・ツーマンセルのこと?」
「そうそう、彩夏がバッテバテになってた」
「うぐっ、ががががが」

 壊れたおもちゃのように、顎をガクガクさせて自分の胸をわし掴む彩夏。

「そうだね。みんなの記憶にも新しい戦術になると思う。前回は試験的に、ほんの少しだけ僕の私欲混じりで試行したんだけど、今回こそ活かせるんじゃないかなって」
「あれはあれで、新鮮だったなぁ。パーティを組んじゃうと、全体のことばかり意識しちゃうからね。授業だと2人とか3人とかって当たり前なのにね」
「うん。そして、今回は対モンスターではなく対人戦。たぶん、個々の連携力が大事になってくると思うんだ」
「じゃあ、人数的にスリー・スリー・ツーになるのかな」

 通常はそうだ。
 だけど、今回は変則的かつ攻撃的でもあり防御的な編成をする。

「今回は、スリー・ツー・ツーでいこうと思う」
「え? それだと、1人だけ余っちゃわない?」
「うん。その一枠は僕にするつもりでいる」
「んんん? だって志信くんは後衛である以前にパーティリーダーなんだから、一華ちゃんとかに守ってもらった方が良いんじゃないの?」
「安全策をとるならば、それが一番得策なんだと思う。でも……確信があるわけじゃないけれど、光崎さんは僕を狙ってくるんじゃないかって思う」
「じゃあ尚更守ってもらった方が良いんじゃないの?」

 たった一つも確信があるわけじゃない。
 それにそもそも、指揮官であるリーダーを攻撃するというのは、対人戦において常套手段である。
 パーティ戦において指揮系統を潰してしまえれば、後は混戦となりただの力や個人の技術で勝敗を決められるからだ。
 そうなってしまえば、一学年上の先輩たちに勝てる確率はグッと下がってしまう。

「これは自分を過信しているだけなのかもしれない。通常の後方支援ならば、守ってもらわないと絶対にダメだってのはわかってる。しかもリーダーであり指揮官なら尚更ね」
「じゃあなんで?」
「たぶん僕は自分で動き回りながらの方が良いのかなって、そう思ってね」
「それ賛成っ」
「結月? でも、一華ちゃんが1人で大変なら、叶ちゃんだっているんだよ?」
「だってー、逆に訊くけど美咲なら知ってるんじゃないの?」
「……」

 結月からの質問は、『最初から組んでるんなら、わかってるでしょ』と美咲に突き付けているかのようだ。

「……わかってるよ。志信くんは前衛もできて後衛もできる。守ってもらうだけの人じゃないって。だけど、こうも知ってるよ。志信くんはできることが多すぎるからこそ、誰よりも頑張ろうとするって」
「それわかるーっ」
「あはは……」

 その痛恨の一言には苦笑いしか出ない。
 実際に、僕にはこれしかできないんだからって、物凄く頭を使ってがむしゃらに動き回っていた。
 それしか僕にはできないから、それしか僕はみんなの役に立てないからって。
 その結果は目も当てられない、失敗。
 みんなのためと思った行動が、自分を苦しめた。
 だからこそ、今度は失敗しないように立ち回る。

「それで、組み合わせなんだけど。スリーが桐吾・叶・彩夏。ツーの一つ目が一樹と結月。ツーの二つ目が美咲と一華でお願いしたい」
「へえ、私と一華はさっきの流れでわかったけれど、それ以外が予想外だね」
「俺と結月が組むってことは、なんとなく理解出来るな。突撃して、暴れまわれってことだろ?」
「それ最高じゃんっ」
「実は違うんだ」

 一樹と一華は目を点にしている。無理もない。

「一樹と一華の特技を活かすのであれば、そうした方が良いんだけれど、今回は遊撃のような立ち回りをしてもらいたい」
「なんでだ?」
「なんでなんで?」
「前衛の中でも高火力の2人をあえて中衛に配置することによって、もしも懐に飛び込んできた相手を抑圧もしくは撃破できる」
「かぁー。なるほどな、前衛を突破したーって孤立したやつを誘い込むってわけか」
「うわ、えぐー」
「そして、ここからはスリーマンセルの3人。これはカバーが得意なメンバーで構成されていて、相手の中枢に飛び込んで戦況をかき回せる」
「志信くん……それエグくない?」

 美咲は顔を引きつらせながらそう言う。

「なるほどね。僕と叶で突撃して、右に左に立ち回りながら、叶がヘイトスキルで相手の回復を防ぐってことかな」
「そうそう、そういうこと」
「うわ、やるのは私だけど、それ本当にエグくない?」
「マジでエグいよそれ。そんでもって私が、2人のカバーをしつつ進路妨害ってことね。自分で言っておいてエグいよ」
「僕から出せる策はこんな感じかな。対人戦において、油断は禁物であり勝つためには徹底的になんでもやる」

 経験値的にはあちらの方が圧倒的にある。
 それに、光崎さん以外の事前情報が何一つない。
 みんなはやり過ぎだと言うけれど、これぐらいやらなければ勝てないと思う。
 対人戦に絶対なんてない。
 人数的に不利になったとしても、そこから大逆転なんてこともありえる。

「あれ。でも思ったんだけど、この組み合わせって新鮮な感じがするんだけれど意外と」
「美咲と一華は話し合いだけで済むし、他の組み合わせもそこまで猛練習が必要ってこともない感じになっていると思う」
「だよね」
「で、でも、私たちが一番重要になるってことでもある、よね?」
「……プレッシャーをかけるようになって悪いんだけれど、隠さずに言うならそうなるね。でも、逆に言うなら、美咲と一華が絶対に崩されなければ正気はこちら側にあり続けると思う」
「ひょえー……」
「大丈夫だよ一華。私たちが耐えられれば、絶対にみんながどうにかしてくれるから」
「そ、そうだね!」
「じゃあ、まだまだ時間もあることだし、それぞれが打ち合わせなり、体を動かすなりし始めようか」

 事前に打ち合わせられるのはここまで。
 後は戦況に応じてそれぞれが臨機応変に対応してくれる。
 正直、不安はある。
 もしかしたらこの打ち合わせ自体が無駄になってしまうかもしれない。
 でも、こればっかりは考えても答えが出ないし、その答えはもうすぐわかる。

 あれ、そういえば兄貴ってこの会場にいるのだろうか。
 今思えば、光崎さんのパーティを全員見た覚えがない。
 昼食時も全員の顔が見えたわけでもないし、そもそも距離が離れていたし、背中を向けている人が数人居た。
 もしも……もしもの準備はしておくべきか。

「美咲、一華。ちょっとだけ時間をもらっても良いかな」
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