転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

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第十章

第72話『与えられた猶予の中で』

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 昼食後、本日の予定は全てが空きの時間となった。

 昼食の最中、今まであった景色がそこにはなくて驚きを隠せなかった。
 なぜなら、朝食まであんなに沢山の人が居たのに、昼食時はたったの16人だったからだ。
 その様子から、朝食後に行われた試験後からの空き時間で、不合格となってしまったパーティは荷造りをしていたのだろう。
 自意識過剰なのかもしれないけれど、合格した僕たち、いや、僕は勝手に責任を感じてしまっている。

 そして今、せっかくの空き時間なのだからと広間の一角に集まっていた。

「なんだかさっきの光景を見ちゃうと、嫌でも現実味が出てくるよね」
「ね。次が最後の試験……か」
「い、今からドキドキしてきちゃった」
「一華、そんなんでどうすんのよ今日は何もないって言われてるのに、それで明日までもつの?」

 美咲の意見には僕も同意見だ。

「それにしてもー。もう最後ってことは、大体予想が付いちゃうよね。最終試験の内容」
「うん。とんでもない変化球がない限りは、一パーティ対一パーティの対戦だろうね」
「やっぱりそうなるんだね」

 光崎さんのことだから、もしかしたら度肝を抜かすものを用意してきそうだけれど……学事祭の最後を飾るならば、これ以外にありえないだろう。

「上級生との勝負ってか。分が悪いよな」
「リーダーがこんなことを言ってはダメなんだろうけど、正直なところ一樹が言う通りだと思う」
「どれくらい経験値の差があるかわからないけれど、ここまで残る人たちが無駄な一年間を過ごしてきているはずがない。ってことだよね」
「うん。美咲の言う通り、メンバーが誰かはわからないけれど、簡単に突破できるような相手ではない」

 そういえば、西鳩先生が昼食後に教えてくれたことがある。

「これから特別実習場ってところに行ってみようかと思うんだけど、みんなはどうする?」
「こんな状況で、お部屋で読書なんてできるわけないよね」
「え、美咲ってこんなところに来てまで読書してたの?」
「別にそれは関係ないでしょ」
「まあそっか。私も行く行くー」
「もっちろん私もーっ」
「わ、私も行くよっ!」
「まあ、じっとしてる方が大変だしね」
「僕も賛成だよ」
「俺も行くぜ」



 従業員の方に場所を聞いて着いた特別実習場。
 使用可能時間は夕食までらしい。
 壁・床・天井の配色はどこも同じなのだろうか、灰色一色。
 見渡しても装飾の一つもなく、あるのは天井の魔灯のみ。
 操作盤のようなものが見当たらないことから、ここは自宅にある演習場と一緒の造りになっているのだろう。

 でもそれで十分だ。

 みんなはここに来る前、部屋に立ち寄って着替えてきた体操着で準備運動をしている。

「そういえばさ、今更なんだけど志信くんって理不尽さあるよね」
「唐突にどうしたの。でもそれわかる」
「え? 僕からしたら美咲と彩夏の方が理不尽なんだけど?」
「だってさ、良い方が悪いかもしれないけれど、言ってしまえば一番体を動かさなくて良いじゃない? だったら自然と体力も少ないよね」
「そういう面で言ったら、本当にそう思う。明らかに私と志信じゃあ体力の差が歴然すぎるし」
「それなら面白い情報があるよ」

 いろいろと美咲と彩夏には言いたいけれど、まさかの桐吾が会話に入ってくる。

「初めて一緒にジョギングしたんだけど、最初から最後まで僕と同じペースだったよ」
「え」
「ほらね」
「なんだか、僕を人間じゃないみたいに言うのはやめてくれないかな」
「だっておかしいでしょ。あんなに動き回る前衛のみんなと同じぐらいの体力って」
「そうだそうだ」
「別に……僕は地道なことをただ積み重ねているだけだよ」

 そう、僕は特別なことを何かやっているわけではない。
 他人から見れば、泥臭く地道な派手さの欠片もない努力。

「俺も気になる。何をやってんだ?」
「勉強・イメージトレーニング・実戦・修正。ジョギング・トレーニングだよ」
「そ、それを毎日……?」
「そうだよ。誰かに誇れるようなことをやっているわけじゃない」

 みんなからの反応は薄かった。
 それもそうだ、自分でも言った通りためになることがないのだから。

「んなの、俺には絶対に真似なんかできねえ」
「そうだね。僕にも無理だ。できても半分ぐらい」
「す、凄い……私も絶対に真似できない」
「うっひょーっ、流石志信~っ」
「良い意味で、おかしいよマジで」
「志信には悪いけど、彩夏が言ってることには同意見」
「そんなにやっているならそれもそうか。だけど……ごめん。そんなに毎日頑張ってるんだね」

 あまりの予想外な反応に、僕は言葉が詰まった。

「そして、気軽にリーダーをお願いをした責任。それはみんなの責任でもあるって、私たちはちゃんと自覚しないといけない、よね」
「い、いや。別にそんな責任をみんなが感じる必要はないよ」
「ううん、違うんだよ。もうみんなもわかってる。前回から一緒のメンバーなら前々から、今回からのメンバーももう、わかってる」

 みんなに視線を向けると、頷いている。

「私たちはパーティだけれど、ここまで来られたのはそのほとんどが志信くんのおかげであり、志信くんの功績。だからこそ、リーダーの候補を募った時、志信くんを推薦した。今度も助けてくれるって、今回も勝利に導いてくれるって、そう思って」
「……」
「だけど、その時はたぶん誰もその苦労と努力をわかっていなかった。だよね?」

 みんなはただ首を縦に振った。

「だから、もうみんなわかってる。1人1人がもっと頑張らないとダメなんだって」
「……みんな、ありがとう」

 そんなことを言われたのは初めてだ。
 そんな風に思ってもらえたのは初めてだ。
 そんな嬉しい言葉を言われたのは初めてだ。
 そんな熱い眼差しを向けられたのは初めてだ。

「おっ? もしかして、志信こんなところで泣いちゃう? 泣いちゃう~?」
「――そんなわけがないだろ」
「え~~~、絶対に後もう少しだったよっ。美咲~もっと攻撃して~」
「私はそんなつもりで言ってないよ」
「美咲の顔が怖いー」

 たぶん、結月が入ってこなかったら泣いていたさ。
 こんなにも、今はみんなのためなら頑張れるって、みんなを絶対に勝利へ導くってそう思っているんだから。

 僕は大きく息を吸って――吐く。

「じゃあそろそろ体を動かそう」
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