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第十章
第70話『互いの清算を経て』
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試験が終了し、昼食までの残り時間に一樹と一華は2人だけで話し合っていた。
「急に呼び出して悪い」
「う、ううん。大丈夫だよ。特にやることもなかったし」
ここは先ほど話題に上がった、沢山の花々が広がる裏庭。辺りには誰も居ない。
「単刀直入に言う。一華、本当にすまない」
「えっ、どどどうしたの?」
脚も姿勢もビシッと真っ直ぐに、一樹は深々と頭を下げる。
「さっきの試験は、志信くんも言ってたけどみんなで合格したんだから、気にしなくていいんじゃないかな」
「……一華は、クリアしたんだよな……?」
「う、うん」
「なら、尚更だ。俺が謝りたいのはもう一つの意味もある」
「え?」
「以前、俺は一華に自分本位な言葉をぶつけた」
「……」
一華もそのことには思い当たりがあるようで、口をギュッと結ぶ。
「あの言葉は、一華を傷つけた。こんな謝罪一つで許されるはずがないっていうのも重々承知している」
「……うん。私ね、あの時一樹くんに言われた言葉は、凄く深く心に突き刺さった。とっても痛くて、私なんて必要とされてないんだって――そこまでは言われてないけど、自分を自分で責めちゃったりもした」
「本当にごめん!」
「でもね、私も私をわかってるから、それが本当のことなんだって、しっかりと受け止めた。私ね、前にも同じ経験をしてて、その時は言葉で伝えてもらえなかったんだ」
「……そんなことがあったのか」
一樹は顔を上げて、一華へ真っ直ぐ向く。
「だから、一樹くんにああ言われて、ちょっと助かったのもあるんだよ。ずっと、どこに刺さっているのかわからない棘が抜けた感じがして。なんて言えばいいのかな、言われて逆にスッキリしたっていうのかな。――なんだか、変だね」
「……」
「だから気にしてないのかって言われるとそうじゃないんだけど。でも、あそこから何かが変わった気がするんだ。それに、憧れの人ができて、一歩前へ踏み出す勇気をくれた人が居て、だから。だから、私は変われたんだと、思う」
一華は握った拳を胸に当てる。
「言った言葉は取り消せないし、言葉で負った傷はずっと残るかもしれない。だから、一樹くんはそのことを忘れちゃいけないと思う」
「うん、その通りだ。一生忘れちゃいけない」
「そして、たぶんだけど一樹くんはなんでかわからないんだけど、焦っちゃってるんだよね」
「……なんでそれを」
「私もね、ずっとそうだったから。弱い自分が情けなくて、何もできない自分が不甲斐なくて。いつも何かしようって、何かできなきゃいけないって、ずっと」
一華は膝を曲げて腰を下ろし、近くにある花に触る。
「私から見える景色は、この子たちと一緒だったんだと思う。自分は地面に根が張って動けないのに、みんなはどんどん前に行っちゃうの。しかも、みんな私より大きいの。本当に毎日が辛かった」
「そう……だな」
「でもね、逆に考えてみるとそれって凄いことなんじゃないかなって。大切な人を守りたいって時に、地面に根を張ってる花のように踏ん張って耐えられるんじゃないかなって」
「突拍子もないけど、ナイトの一華らしい考え方だな」
「だよね、普通はそうならないよね。だからってわけじゃないんだけど、一樹くんも何か視点を変えて物事を見てみれば良いんじゃないかな。それに、一樹くんが私にあの言葉をぶつけて来た時、私は直感的に思ったんだけど叶えたい夢や目標があるんだよね?」
「……ああ、ある。人に言って胸を張れるものじゃねえ、がな」
一樹は一華から目線を外してしまう。
「言えばいいじゃん、なんて無責任なことは言えない。だけど、どんな夢や目標であっても、それがあるって凄いことで誇って良いと思うんだよね。――私にはずっと何もなかったから」
「……」
一樹は何かから解放されたかのように、涙が込み上げてきてしまう。
「……俺、頑張って良いのかな。こんな俺でも、みんなの役に立てるのかな」
「うん。誰にだって何かしらは絶対にできる。何もできない人間なんて居ない。――って、え!? 一樹くん大丈夫?!」
「あ、あ……ああ。だ、大丈夫だ」
一樹は右手で目を拭い、左手で目を拭い、それでも止まらず右の腕、左の腕で涙を拭う。
「なあ一華。俺、もっと頑張るよ。誰かに責任を押し付けず、自分自身とちゃんと向き合って」
「うん。お互いに、頑張ろうね」
その後、一樹は顔を洗いに戻り、一華はもう少しだけ花を見ていた。
「急に呼び出して悪い」
「う、ううん。大丈夫だよ。特にやることもなかったし」
ここは先ほど話題に上がった、沢山の花々が広がる裏庭。辺りには誰も居ない。
「単刀直入に言う。一華、本当にすまない」
「えっ、どどどうしたの?」
脚も姿勢もビシッと真っ直ぐに、一樹は深々と頭を下げる。
「さっきの試験は、志信くんも言ってたけどみんなで合格したんだから、気にしなくていいんじゃないかな」
「……一華は、クリアしたんだよな……?」
「う、うん」
「なら、尚更だ。俺が謝りたいのはもう一つの意味もある」
「え?」
「以前、俺は一華に自分本位な言葉をぶつけた」
「……」
一華もそのことには思い当たりがあるようで、口をギュッと結ぶ。
「あの言葉は、一華を傷つけた。こんな謝罪一つで許されるはずがないっていうのも重々承知している」
「……うん。私ね、あの時一樹くんに言われた言葉は、凄く深く心に突き刺さった。とっても痛くて、私なんて必要とされてないんだって――そこまでは言われてないけど、自分を自分で責めちゃったりもした」
「本当にごめん!」
「でもね、私も私をわかってるから、それが本当のことなんだって、しっかりと受け止めた。私ね、前にも同じ経験をしてて、その時は言葉で伝えてもらえなかったんだ」
「……そんなことがあったのか」
一樹は顔を上げて、一華へ真っ直ぐ向く。
「だから、一樹くんにああ言われて、ちょっと助かったのもあるんだよ。ずっと、どこに刺さっているのかわからない棘が抜けた感じがして。なんて言えばいいのかな、言われて逆にスッキリしたっていうのかな。――なんだか、変だね」
「……」
「だから気にしてないのかって言われるとそうじゃないんだけど。でも、あそこから何かが変わった気がするんだ。それに、憧れの人ができて、一歩前へ踏み出す勇気をくれた人が居て、だから。だから、私は変われたんだと、思う」
一華は握った拳を胸に当てる。
「言った言葉は取り消せないし、言葉で負った傷はずっと残るかもしれない。だから、一樹くんはそのことを忘れちゃいけないと思う」
「うん、その通りだ。一生忘れちゃいけない」
「そして、たぶんだけど一樹くんはなんでかわからないんだけど、焦っちゃってるんだよね」
「……なんでそれを」
「私もね、ずっとそうだったから。弱い自分が情けなくて、何もできない自分が不甲斐なくて。いつも何かしようって、何かできなきゃいけないって、ずっと」
一華は膝を曲げて腰を下ろし、近くにある花に触る。
「私から見える景色は、この子たちと一緒だったんだと思う。自分は地面に根が張って動けないのに、みんなはどんどん前に行っちゃうの。しかも、みんな私より大きいの。本当に毎日が辛かった」
「そう……だな」
「でもね、逆に考えてみるとそれって凄いことなんじゃないかなって。大切な人を守りたいって時に、地面に根を張ってる花のように踏ん張って耐えられるんじゃないかなって」
「突拍子もないけど、ナイトの一華らしい考え方だな」
「だよね、普通はそうならないよね。だからってわけじゃないんだけど、一樹くんも何か視点を変えて物事を見てみれば良いんじゃないかな。それに、一樹くんが私にあの言葉をぶつけて来た時、私は直感的に思ったんだけど叶えたい夢や目標があるんだよね?」
「……ああ、ある。人に言って胸を張れるものじゃねえ、がな」
一樹は一華から目線を外してしまう。
「言えばいいじゃん、なんて無責任なことは言えない。だけど、どんな夢や目標であっても、それがあるって凄いことで誇って良いと思うんだよね。――私にはずっと何もなかったから」
「……」
一樹は何かから解放されたかのように、涙が込み上げてきてしまう。
「……俺、頑張って良いのかな。こんな俺でも、みんなの役に立てるのかな」
「うん。誰にだって何かしらは絶対にできる。何もできない人間なんて居ない。――って、え!? 一樹くん大丈夫?!」
「あ、あ……ああ。だ、大丈夫だ」
一樹は右手で目を拭い、左手で目を拭い、それでも止まらず右の腕、左の腕で涙を拭う。
「なあ一華。俺、もっと頑張るよ。誰かに責任を押し付けず、自分自身とちゃんと向き合って」
「うん。お互いに、頑張ろうね」
その後、一樹は顔を洗いに戻り、一華はもう少しだけ花を見ていた。
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