上 下
117 / 129
第十章

第70話『互いの清算を経て』

しおりを挟む
 試験が終了し、昼食までの残り時間に一樹と一華は2人だけで話し合っていた。

「急に呼び出して悪い」
「う、ううん。大丈夫だよ。特にやることもなかったし」

 ここは先ほど話題に上がった、沢山の花々が広がる裏庭。辺りには誰も居ない。

「単刀直入に言う。一華、本当にすまない」
「えっ、どどどうしたの?」

 脚も姿勢もビシッと真っ直ぐに、一樹は深々と頭を下げる。

「さっきの試験は、志信くんも言ってたけどみんなで合格したんだから、気にしなくていいんじゃないかな」
「……一華は、クリアしたんだよな……?」
「う、うん」
「なら、尚更だ。俺が謝りたいのはもう一つの意味もある」
「え?」
「以前、俺は一華に自分本位な言葉をぶつけた」
「……」

 一華もそのことには思い当たりがあるようで、口をギュッと結ぶ。

「あの言葉は、一華を傷つけた。こんな謝罪一つで許されるはずがないっていうのも重々承知している」
「……うん。私ね、あの時一樹くんに言われた言葉は、凄く深く心に突き刺さった。とっても痛くて、私なんて必要とされてないんだって――そこまでは言われてないけど、自分を自分で責めちゃったりもした」
「本当にごめん!」
「でもね、私も私をわかってるから、それが本当のことなんだって、しっかりと受け止めた。私ね、前にも同じ経験をしてて、その時は言葉で伝えてもらえなかったんだ」
「……そんなことがあったのか」

 一樹は顔を上げて、一華へ真っ直ぐ向く。

「だから、一樹くんにああ言われて、ちょっと助かったのもあるんだよ。ずっと、どこに刺さっているのかわからない棘が抜けた感じがして。なんて言えばいいのかな、言われて逆にスッキリしたっていうのかな。――なんだか、変だね」
「……」
「だから気にしてないのかって言われるとそうじゃないんだけど。でも、あそこから何かが変わった気がするんだ。それに、憧れの人ができて、一歩前へ踏み出す勇気をくれた人が居て、だから。だから、私は変われたんだと、思う」

 一華は握った拳を胸に当てる。

「言った言葉は取り消せないし、言葉で負った傷はずっと残るかもしれない。だから、一樹くんはそのことを忘れちゃいけないと思う」
「うん、その通りだ。一生忘れちゃいけない」
「そして、たぶんだけど一樹くんはなんでかわからないんだけど、焦っちゃってるんだよね」
「……なんでそれを」
「私もね、ずっとそうだったから。弱い自分が情けなくて、何もできない自分が不甲斐なくて。いつも何かしようって、何かできなきゃいけないって、ずっと」

 一華は膝を曲げて腰を下ろし、近くにある花に触る。

「私から見える景色は、この子たちと一緒だったんだと思う。自分は地面に根が張って動けないのに、みんなはどんどん前に行っちゃうの。しかも、みんな私より大きいの。本当に毎日が辛かった」
「そう……だな」
「でもね、逆に考えてみるとそれって凄いことなんじゃないかなって。大切な人を守りたいって時に、地面に根を張ってる花のように踏ん張って耐えられるんじゃないかなって」
「突拍子もないけど、ナイトの一華らしい考え方だな」
「だよね、普通はそうならないよね。だからってわけじゃないんだけど、一樹くんも何か視点を変えて物事を見てみれば良いんじゃないかな。それに、一樹くんが私にあの言葉をぶつけて来た時、私は直感的に思ったんだけど叶えたい夢や目標があるんだよね?」
「……ああ、ある。人に言って胸を張れるものじゃねえ、がな」

 一樹は一華から目線を外してしまう。

「言えばいいじゃん、なんて無責任なことは言えない。だけど、どんな夢や目標であっても、それがあるって凄いことで誇って良いと思うんだよね。――私にはずっと何もなかったから」
「……」

 一樹は何かから解放されたかのように、涙が込み上げてきてしまう。

「……俺、頑張って良いのかな。こんな俺でも、みんなの役に立てるのかな」
「うん。誰にだって何かしらは絶対にできる。何もできない人間なんて居ない。――って、え!? 一樹くん大丈夫?!」
「あ、あ……ああ。だ、大丈夫だ」

 一樹は右手で目を拭い、左手で目を拭い、それでも止まらず右の腕、左の腕で涙を拭う。

「なあ一華。俺、もっと頑張るよ。誰かに責任を押し付けず、自分自身とちゃんと向き合って」
「うん。お互いに、頑張ろうね」

 その後、一樹は顔を洗いに戻り、一華はもう少しだけ花を見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

World End

nao
ファンタジー
 法術という異能によって成り立った世界で、無能力者の少年ジンは狂った神が人間の魂に刻み込んだ魔物化の呪いによって姉や友人、彼を包んでいた世界の全てを失う。  失意のドン底にあった彼は善神と自称する神ラグナから世界の真実を伝えられる。彼は狂った神への復讐を誓い、ラグナの庇護の下で力を蓄えて狂神を打倒するために力を蓄える。やがて新たな旅に出た彼は仲間と出会い、そして運命の出会いを遂げる。   大切な仲間達と出会い、別れ、人間世界に仇なす者となっても彼は旅を続ける。強大な力の前に、数多くの仲間を失い、傷つきながらも最後まで戦い抜いた末に彼が辿り着いたのは世界の終焉と安息だった。  これは人々から怨まれ、多くを失いながらも最後まで戦い続けた男の物語である。

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...