転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

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第九章

第62話『悪夢は続く』

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 ここは……?

「うっ」

 ズキン、と頭が痛む。
 直近で頭をぶつけた記憶はない。
 
 だけど、その痛みの正体をすぐに思い出した。
 ダンジョン内でみんなとはぐれてしまい、別の人たちと組んでいる。
 幸か不幸か、ダンジョン内で人に出会えたというのは運に味方されている、と感謝しきることはできない。

 なぜなら、相手が相手だからだ。
 人数は、自分以外に7人。

 その誰もが今の学園に居る生徒ではなく、だけど誰1人として鮮明・・に憶えている。
 顔に黒い靄が掛かった彼ら彼女ら。

「そういやさ、アコライトって何ができんだろうな」

 そのような内容で話し合う声が聞こえてきた。

「荷物持ち以外にあるの?」
「さあな」

 少しの間、そんな内容で話をする彼らからは少し距離を置いて、僕は居る。
 話が終わったようで、僕に向かったありえない提案が飛んできた。

「おい、モンスターの釣りってできるよな?」
「後、モンスターのタゲ取りもできるんじゃない?」
「え……?」

 そんなのできるはずがない。
 後方支援のアコライトが、最前線に出てそのようなことができると、誰が思いつくんだ。
 どうやったらその結論が導き出されるんだ。

 回復とバフしかできないのに、どうして。

「返事はねえけど、まあやってみたらわかるだろ」
「だねだねっ。早速やってみよー!」
「でも……」
「あ? なんか言ったか?」
「それマジ?」
「いや、何も」

 その一対複数という圧力は、全身にのしかかる。

 何を言っても、何を言おうとしても、それ以上口が動かない。
 だから従うしかない、これ以外の選択肢がない。

「じゃあよろしく、な」

 僕は独り歩き出した。
 
 選択肢、それなら他にも沢山あるのかもしれない。
 ここがダンジョンならば、ここから逃げ出してしまえば、金輪際顔を合わせず生きていくことはできるだろう。
 だけど、それは僕がアコライトでなければ、の話だ。
 モンスターと戦闘する手段を満ち合わせていないまま闇雲に走り出せば、その末路なんて誰にだってわかる――死。
 だから、どれだけ罵られようと、どれだけ蔑まれようと、従うしかない。

 少しだけ歩くと、モンスターはすぐに発見できた。
 後はこのまま数体引き連れて、彼らのところまで行けばいい。
 そう考えれば、そう難しくない役だ。

 よし、やろう。

 地面に落ちていた小石を拾い上げ、四足歩行の犬型モンスターへ投げる。
 直撃はしなかったものの、近場に落ち、狙い通りに振り向いた。
 すぐに二体がこちらに駆け出す、追いつかれる前に駆け出さなければ。
 僕はすぐさまに、みんなのところへ駆け出した。
 そこまで距離はなかったはず、後はこのまま……――居ない。

 どういうことだ。
 どうして、居ないんだ。

 思わず足を止めてしまう。

「……は……?」

 すると、棒立ちしている僕の背にモンスターはタックルをしてきた。
 完全に無防備で体から力が抜けていたため、僕はそのまま地面へと膝と腕を突く。
 
 次に脇腹。

「うぐっ」

 攻撃の威力そのままに、半転。
 背中を地面に、仰向けになってしまう。
 当然、モンスターは追い打ちをかけてくる。
 僕は反撃することができない、なんとか盾と腕で払おうとするけれど、腕に噛みつかれた。

「やめろ、やめろっ」

 必死に抗う。
 だけど、それではモンスターを倒すことはできない。
 体の至る所から血が滲み出始める。

 最悪な状況は加速。

 あろうことかモンスターの数が増えていた。
 絶体絶命、脳裏に過るのは"死"。
 
 くそっ、くそっ――くそ!
 なんで、なんでだよ。
 僕が何をしたっていうんだ、何だって言うんだ!
 死ぬのか、僕が? なんで?
 こんなところで? なんで?
 死にたくない、死にたくない、死にたくない。

 ――このまま、僕は死ぬのか。みんな、ごめん…………――――

(はっ)

 僕は急激な覚醒で体を起こす。
 額には汗が滲み、首元を伝う汗。

 これはいつも通り、そう、いつも通り……ではなかった。

「おはよう」
「……おはよう」
「大丈夫? うなされてたみたいだけど」
「ちょっとね、悪夢を見ていたんだ」

 不注意だった。
 新鮮な場所に少しだけ浮かれてしまっていたのかもしれない。
 前回のお泊り会の時は、しっかりと注意していたのに。

「桐吾は随分と起きるのが早いんだね」
「なんだか、ね」
 
 桐吾は既にジャージへと着替えていた。

 少しだけ見渡すと、一樹は気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。
 そして、窓から射し込む上りはじめの陽の光りに目を細めた。
 だけど、それは桐吾の配慮なのだろう、僕と一樹には当たらないようになっている。
 
「そっか。せっかくだし、志信も行く?」
「そうだね、行こうかな」

 この状況でこのまま話をしていては、配慮の意味がなくなってしまう。

 僕は配給された体操着を取り出し、桐吾と一緒に早朝ランニングへと向かった。
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