転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

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第八章

第60話『割り振られた部屋で、情報共有』

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 西鳩先生は「それではごゆっくり」とだけ言い残して行ってしまった。

 僕たちは入室後、驚く。
 部屋を見渡した結果、部屋の大きさに驚いたのもあるけれど、見渡している最中に扉のノック音に出てみれば荷物を渡されたからだ。
 荷物は計六つ。
 開けてみれば中には体操着と制服が収まっていた。
 今更ながら着替えのことをすっぽりと抜けて落ちていたのだけど、これを全部用意してくれた学園側の用意周到さは凄すぎる。
 しかも、サイズや丈までピッタリ。

 1人一台のベッドを決めて、その近くに服も置いた。

「それにしてもよ、至れり尽くせりって感じだよな。まあ、ありがてえんだけど」
「そうだね。学校行事とはいえ、参加する学生全員の費用を学園が全額負担っていうのは、正直驚くしかないよね」
「なんか、少しだけ悪い気がするけど」
「俺もそうなんだよな。嬉しい気持ち半分、申し訳なさ半分って感じでさ」

 僕もその気持ちは十分にわかる。
 せめて学園の資金で支払ってくれるなら、学生の僕たちはあまり実感が湧かないまま感謝するだけでよかったけれど……海原先生の肩を落してどこかやつれたような表情をされてしまっては、誰でも気が引けてしまう。
 ほんの少しだけの救いがあるとすれば、参加している生徒の人数がそこまで? 多くないことだろうか。

 それでも、先ほど全体集合したパーティ数を見た感じ、八パーティは居たような気がする。
 一人当たり2万Sシャールだとすると……うわあ、うわあ……先生方、本当にありがとうございます。
 この行事に備えて、ある程度の積み立てはあっただろうけれど、それにしても大そうな金額だ。

 部屋に備え付けであった、四角いテーブルを囲む椅子に腰を下ろす。

「こんなところまで来て言うのもなんだけど、あんまり実感が湧かねえなあ」
「そうだね、この場に及んでって感じだよね」

 一樹と桐吾の会話に、少しだけ安堵する。
 僕も同じで、未だ実感が沸かない。
 移動時間やホテルに着いてから何から何まで、あっという間に過ぎてしまった。
 だからこうして休息していることに違和感を覚えながら、どこか他人事。

「これも今更なんだけどさ、最優秀賞を受賞した報酬の中にあった職場体験、つまりはどこかのクランが俺たちを面倒みてくれるってことだよな?」
「そういえばあったね」
「冒険者を目指しているからには、物凄く魅力的ではあるが、どこに入るかとかって決まってるのかな。それとも、全員がバラバラとか、自分の希望が通るって感じなのかな?」
「確かに、言われてみればそれって結構大事だよね」
「そうそう。みんなが居るのと、1人で飛び込むのは大分気持ちの持ちようが違うしな」
「全員で同じところじゃない限りは、僕は親戚のところへ行くことになると思う」
「おー、それはすげえや。俺には知り合いとか居ないしな、どうなるんだろ」

 一樹が言っていることは確かにそうだ。
 その候補の中でどれになるか、それはかなり重要。しかも、僕に届いた手紙の内容を思い出すと、個々人の可能性が高い。もしくは、全員がクラン【大成の木】へ行くことに。
 それはそれで面白そうだけれど、どうなんだろう。

 ……それはそれで。
 一樹は桐吾が話した内容を理解しているのだろうか。
 桐吾は"刀"一族の人間であり、いろいろな意味で有名なクラン【戦迅の刀】なんだけど。
 別に悪名高いというわけではない。
 クランの構成員全てが前衛であり、その使用する武器が全員剣であること。即席でパーティを組むにしても、攻略でパーティを組むとしてもその趣旨は崩さないことが有名なのだ。
 しかもその攻撃力と速さは、数あるクランの中でも随一とされている。

 という場所に学生ながら参加する、事の重大さを理解しているのかしていないのか。

「志信はどうなんだ? やっぱり、【大成の木】に行きたいんだよな」
「そう――だね。出来る事なら、だけど」
「そうだよね。【大成の木】っていえば、ダンジョンの攻略者、とか言われている途轍もない実績まで残しているところだし。希望がそのまま通るっていうのは考えにくいよね」
「うん。本当にその通り」

 そう、手紙ではああ言ってくれていたけれど、本当にそれが叶うかどうかはわからない。
 個人の希望が、というのもあるけれど、この学事祭で頂点に立たなければならない。

 だとすれば、今のうちに情報の共有をしておこう。

「話を切り替えちゃってごめん。少しだけ仕入れた情報を共有したい」
「お、なんだなんだ」
「全然良いよ、まだ時間があるし」
「デバフについて、なんだけど。デバフといっても幻覚系のやつ」
「俺にはあんまり聞き馴染みのない単語だな」
「うん、基本的にはモンスターを相手に使用し、モンスター同士を戦闘させるスキルだからね。それに、ダークメイジをクラスとして選択する人は少なく、対人経験がないって言うのは僕も同じ。だからこそ」
「だからこその、傾向と対策ってことだね」

 桐吾は冷静にそう返してくれる。
 予想でしかないけれど、桐吾は対人戦の練習で戦ったことがあるのであろう。

「基本的には対策をしていない場合、高確率で幻覚スキルをくらってしまう。だけど、モンスターのようにはコントロールできるものではないらしい。まあ、本で得た情報だから正確なものではないかもしれないけれど」
「幻覚かぁ。何を見せられるんだろうな」
「それは……」

 僕は、言葉が詰まってしまった。
 あれをどう説明しよう。あれは自分だけのものなのか、次も同じなのか。
 前回は、自分の中に眠る負の感情、苦い思い、消えてほしい記憶が押し寄せてきた。
 だけどそれを、すんなりと誰かに話せるほど明るいものではない。

 それを見兼ねてか、タイミング良く桐吾が話を繋いでくれた。

「幻覚の類は人それぞれって言われているね。嬉しい楽しい記憶を思い出させたり、その逆を煽ったり。スキルを発動させる人が操作できるものではないみたい。一応、学生のような人たちが使うならばの話だけど」
「ははぁ。俺もちゃんと勉強しねえとな」
「難しい話、何度もくらっていれば耐性が付きそうな感じはするんだけど、記憶は常に更新されるからね」
「マジかよ。でも、それはそうだよな」
「うん。だから、大事なのはどうくらわないかっていうより、どう破るかになるかな」

 僕は思い出す。
 桐吾の言う通り、スキルをスキルと判断する前にくらってしまっていた。
 そして、あの幻覚。
 体が震え、心が絞めつけられた。強制的に記憶が引っ張り出されたみたいに。

 でも、乗り越えられた。
 それを裏付けるように、光崎さんは「想定以上に早かった」とも。

「なるほどな。でも、くらってみないとわからないっていうのは、なんとも歯痒いな」
「そうだね」
「だけど、弱点もある」
「だね」
「幻覚のスキルは、対象者依存というのもあるし、対象人数が1人だけ」
「志信、それってどこで情報を手に入れたの? そこまでは実戦経験がないとわからないはずだけど」
「あ……あれだよ、予想して辿り着いた答えだよ」
「はは、志信らしいや」
「くぁー、話に混ざりてえ」
「でも、僕が持っている情報はここまで。桐吾からは何かある?」
「いいや、隣に同じく」
「じゃあ一旦、この話はここまでだね。後はもうそろそろ……時間だね」

 向かって天井付近の壁に飾られている時計に目を移す。
 移動中に説明があった、時間に近づいていた。

「じゃあ、光崎さんの言っていた通りに、まずはご飯を楽しみに行こうっか」
「だな」
「だね」
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