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第七章

第50話『接戦の末、見えてくる課題』

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 スリーマンセル。

「たぶん次が最後になると思う」
「人数配分はどうするの?」
「ごめん、次にやるのは2人だけ見学になっちゃう。実は、僕側は既に決まってるんだ」

 みんなから興味津々な視線が注がれている。

「僕、叶、一華で組みたいと思ってるんだ」
「え?」

 美咲は目を点にして、口をポカンを開け固まってしまった。
 と同じく、みんなもほとんど変わらない反応を見せる。

「みんなが思ってることは、本当にその通りだと思う。だけど、叶と一華さえよければ僕のわがままに付き合って欲しいんだ」

 みんなの反応は理解できる。
 もしも僕が反対の立場であれば、全く同じ顔をしていたに違いない。

 だけど、逆に僕も驚くぐらいに早い返答があった。

「いいよ、私は。面白そうじゃん」

 叶は、澄ました顔で答えてくれた。
 いや、どこか楽しそうにしているようにも見える?

「あ、ありがとう叶」
「らしくない、志信から提案したのになんで動揺してるの」
「だって、普通に考えたら断られると思っていたから」
「そうだね、"普通"に考えたらね。だからこそ、面白そうなんじゃん。それにさっきの、私はああいうの好きだよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」

 正直、さっきのツーマンセルは心に棘となって刺さっていた。
 快く受け入れてもらえたものの、無茶振りも良いところ。
 急な提案に、説明不足な戦術。
 叶が不信感を抱いていても不思議ではないと思っていた。

 でも、今の感じから察するに予想外に楽しんでくれていたようだ。……と、勝手だと思うけれど合っているよね……?

 後は一華の了承を待つだけだけど、答えはすぐに返ってきた。

「わ、私も、やってみたい」
「一華……」
「大丈夫だよ叶ちゃん。――難しいことはわからないけれど、たぶん、大変なんだよね。でもね、だからこそやってみたいっていうか、だからこそやらなきゃいけないのかなって」
「わかった、一緒に頑張ろ」

 叶と一華は視線を合わせて、一度だけ頷く。

 なんという意気込みなのだろうか。
 僕から突発的にお願いしたのにもかかわらず、やる気十分ときた。
 そんなものを見せられたら、僕だって後れを取るわけにはいかない。

「叶、一華、ありがとう」
「それで、対戦相手は決まってるの?」
「うん、実はね」

 視線をみんなの方へ戻す。

「桐吾、美咲、結月にお願いしたい」
「お、俺っ――は見学かぁ。残念だぜ」
「ごめん、一樹と彩夏には見学してもらうことになる」
「いいよー、ちょーうどヘトヘトになってるところだから、逆にありがたい~」

 一樹のことだ、この流れで必ず駄々を捏ねられると思っていたんだけど、すんなりと受け入れてくれた。
 気のせいだろうか、今日は一樹と目線が合わない気さえする。
 勝手に抱く偏見なのだろうけれど、どうしたんだろう、今日は気分が乗らない日なのかな。

「ねえ一樹、体調不良だったりする?」
「ん? ……いや、そんなことはねえんだけど……なんていうか、なんか……わりい、ちょっと気分が乗らねえのかも。だから、次のやつは見学でちょうどいいぜ」
「わかった。本当に気分が悪くなり始めたらすぐに言ってね」
「ああ、気を遣わせてすまねえ」

 そういうことだったのか、聞いて良かった。
 とりあえず、床に大の字で寝ている彩夏の近くに戻って座っている。
 一樹の言う通り、休憩も兼ねて本当にちょうど良かった。

 そして、対戦相手のみんなはどうなんだろうかと、視線を戻す。

「僕は大丈夫だよ」
「うん、私も」
「リベンジーっ!」

 絵に描いたような快諾。


「じゃあ、早速始めようか」

 始まりの合図を彩夏が担当することになり、全員の位置取りが終わる。
 どちらも同じ、三角形の陣形。
 こちらは後方に僕、右に一華、左に叶。
 ありらは後方に美咲、右に桐吾、左に結月。

 それぞれが武器を構える。

「じゃあ、行くよー。よーい――始めっ!」

 その合図後、誰もが予想できた通りに桐吾と結月が突進で攻撃を仕掛けてくる。

 ではこちらは。
 このままいけば、どちらかがどちらかを止める展開となる。
 でもごめん、そうはならないんだ。

「一華! 叶!」
「うんっ!」
「うん」
「えっ!?」
「なっ!?」

 僕の掛け声後、一華と桐吾は驚愕を露にする。
 なぜなら、僕自らが最前線へ駆け出し、それにぴったりと背後に隠れ前進したからだ。

 2人からすれば、目から鱗。
 どうにか立ち回って倒さないといけない守られる側の人間が、まさか、と。

「でも、好都合だよねっ」

 当然、標的が目の前に姿を現したのだ、息の合った2人は迷いなく僕へ剣を突き刺しに来た。

 だけど、それは逆。

「うわっ、ずっるぅ!」
「くっ」
「ごめんね」

 結月の剣撃は、間違いなく僕に届いた。
 だけど、届いただけ。
 そう、易々とこの身を捧げるはずはない。
 開始早々、一華と叶に隠れた状態で【フィジックバリア】を自信に発動させていた。
 赤光するバリアは粉々に砕け落ち無効化。
 桐吾の攻撃は二枚の盾でなんとか防いだ。

「今!」
「【プロボーク】【インサイト】」

 最高峰に位置取る一華が、ヘイト管理のスキルを発動し、結月と桐吾はそちらから目を離せなくなる。
 そして僕たちは。

「行くよ!」
「任せて」

 2人の間をそのまま通過し、美咲へ直進。

「それは強すぎるよ……」
「美咲、ごめんね」

 叶は容赦のない剣撃と突進を美咲へとぶち当てる。

「がはっ――」

 当然、美咲に反撃の手段はない。
 そのまま後方へかなり吹き飛びんだ。
 やりすぎでは、と、心配するほどには背中からの着地後、数回ほど体を転がす。

 気を失わせるほどではなかったのであろう、美咲は嗚咽を漏らしながらなんとか立ち上がろうと試みようとしているものの、あれでは無理だ。
 そして、反転。

 一華が、自慢の強固な防御で2人の攻撃を耐えている。

「叶、行くよ」
「手早くいくよ。【インサイト】」

 叶のヘイト管理スキルにより、桐吾と結月の手が止まり、視線が叶へと引き寄せられる。

「あーもうっ!」

 結月の苛立ちが伝わってくる。
 僕も逆の立場であれば、同じ気持ちを抱いていただろう。
 自分の思い通りに攻撃相手を決められないのだから。

「一華!」

 短くも空いている距離を桐吾と結月が詰め寄ってくる。
 当然、この繰り返しをしていえれば、体力を根こそぎ削ぎ落せるだろう。
 目線や立場が変われば、「ズルい」の一言に尽きるだろうけど、そんな時間稼ぎだけをするわけではない。

 一華へ合図を出すと、僕も前へ出る。
 標的を桐吾へ定め、挟み打つ。

「そういうことね」

 桐吾は一連の流れから察したのであろう。

「ごめんね」
「簡単にはやられるつもりはないよ」

 簡単にはやられてくれるはずがない。
 ヘイト管理スキルは対人戦において協力ではあるものの、万能というわけではない。
 なぜなら、対人戦においては、使用者と相手に依存するからだ。

 つまり、今の桐吾は既に解除済みというわけ、か。

 桐吾は剣で攻め、僕は盾で防ぐ。
 剣の軌道は正確で、その速度は凄まじい。
 間違いなく、盾が一枚であったのならば、即敗北もあっただろう。

 だけど――。

「悪いね」

 全身全霊、全集中で戦いを挑んでくれていた戦士に対して、随分な無礼を働く。

 ……だけど、僕は、いや、僕たちは今スリーマンセルだ。

「おりゃーっ!」
「ぐっはっ」

 桐吾の後頭部を大盾が襲う。
 当然、それは一華のもの。
 強烈な不意打ちを食らった桐吾は、前のめりに、僕の足元へと顔を沈めた。

 視線を移す。

 目論み通りと言ったところだろうか、叶と結月は猛烈な打ち合いを繰り広げている。
 このまま横やりを入れるのは、無礼に無礼を上書きするような行為だと理解しているものの、勝利を掴むためには仕方がない。

「一華、行くよ」
「う、うん」

 と、意気込むものの、結月が後方へ飛んで距離をとった。

「あーあー、まいりましたー、降参でーす」

 武器を落とし、両手を上げ始める。

「そ、そこまでー!」

 この光景を見た彩夏によって、演習は終了となった。
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