転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

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第七章

第48話『自由時間に実践』

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 実技の授業が始まった。
 学事祭の最中ということもあって、実技と自習の頻度は相変わらず。
 発表にも会った通り、パーティを組んでいない人たちに猶予はなく、先生もそちらへ付きっきりになっている。

 せっかくの機会を活かすにはもってこいだ。

「今日はいろいろと試したいことがあるんだけど」
「なにかななにかなっ」

 物凄く食い気味な結月へ応えるように話を続ける。

「やってみたいことっていうのは、対人の練習なんだ」
「なるほど、それは前回の件があってのことだよね」
「うん。美咲が事細かく報告してくれたおかげで状況が理解できた。――それに、仲間内でやる内戦っていうのは、互いの理解度を深め合ってのにも有効だからね。だから今後の試験で、もしも対人戦がなくなっても無駄にはならないって感じ」

 美咲に視線を配り、意図を伝える。

「たしかに、私は全体を見て判断できるけれど、前衛のみんなは後衛を見渡せるわけじゃないもんね」
「なるほどー。美咲の言う通り、逆の立場になってとかあんまり考えたことがなかった」
「彩夏もそう感じてるってことは、みんなもそうなんじゃないかな」
「そうだね、僕も前衛組で連携するのが精一杯ってところはあるね」

 桐吾もそう思っていたらしい。
 だとすれば今回の練習は、きっと充実したものになりそうだ。

「でも、対人戦って何をするの? 前回みたいに一対一で総当たりするみたいな?」

 叶の問いに答える。

「それも選択肢の一つだね。でも、今回はスリー・ツーマンセルっていうのをやってみようと思うんだ」

 みんなの顔が一瞬にしてキョロンとなってしまった。

「いや、これといって難しいものじゃなくて。言い方を変えれば、2人組、3人組で戦ってみるってこと」

 みんなは「ああ~」と首を縦に振って納得してくれたようだ。

「そしてここで重要なのは、前回は剣が下った僕と美咲もそれに加わるってことなんだ」
「え、私も!?」
「い、いや、強制じゃないから、いやなら断ってくれて大丈夫だよ。たぶん痛い思いもするだろうし」

 本当にこれは強制ではない。
 言ってしまえば、僕が独断で試行してみたいことなのだから。
 忠告にも添えた通り、対人戦になるからには後衛は真っ先に狙われてもおかしくはない。
 いや、反撃の手段をほとんど持ち合わせていないからこそ、先手必勝で集中砲火を浴びる可能性だってある。
 後衛――さらには回復クラスであれば、1人だけでも残っていれば仲間が再起可能になってしまうのだから。

 僕の懸念はなんのその、一瞬にして突破われることになった。

「ごめん、急に話を振られたから少しだけ驚いちゃっただけ。――大丈夫、私、やるよ」

 その目には迷いはなく、これ以上の心配は何も必要ないと感じさせる。

「――わかった。じゃあ、早速組み合わせを発表したいところなんだけど……せっかくの機会なんだし全組み合わせで総当たりしたいところなんだけど、そこまで時間がない。限られた時間の中でやるには、必然的に対戦できるのは一度になってしまう」

 みんなからは快い返事があり、無事に許諾を得られた。

「じゃあまずはツーマンセルの組み合わせを。一組目、僕と叶。二組目、桐吾と美咲。三組目、彩夏と結月。四番目、一華と一樹。こんな感じかな」

 直後、叶が体を乗り出してくる。

「ねえ、文句があるってわけじゃないだけど、私と志信って大丈夫なの? どっちも攻撃手段は少ないと思うんだけど。それに、他のみんなの組み合わせは均等だと思うけど、彩夏と結月ってどっちも攻撃系じゃない? それとも、埋め合わせ的な組み合わせだったりする?」
「えー? 私は志信と叶の組み合わせが一番強いと思うんだけどー。てかズルくない?」

 叶のもっともな疑問に対して、結月が反論。
 僕も欠かさず、言葉を付け加える。

「組み合わせだけ見れば、叶の疑問はもっともだと僕も思う。だけど、こればっかりはやってみないとわからないこともあるからね。それに――」
「それに?」
「対人戦の勝敗って言うのは、倒した倒されただけではないってのも忘れちゃいけないと思うんだ」
「うーん……納得はできないけれど、理解はした。たしかに、何事もやってみないとわからないこともあるよね。それに、考え無しってわけじゃないと思うし」
「ありがとう。じゃあ、少しだけ打ち合わせもしたいだろうから、時間を作って各々作戦会議に移ろうか」

 この場での話は一旦終了、組になったみんなは間隔を取って集まった。

「それで、さっきの口ぶりだと何か作戦でもあるってことだよね?」
「残念ながら、これといって得策があるわけじゃないんだ」
「えぇ……」
「だけど、一応考えているのはある。動きを合わせてほしいんだ」
「え、私は前だし、志信の動きに合わせるって相当難しいと思うよ?」
「そう、だからこそ試したいことがあるんだ」

 叶の言う通り、相手の攻撃を回避しながら後方の動きを読み取るというのは至難の業。
 声で合図を送ってしまえば、モンスターとは違い、相手へヒントを上げることになってしまう。

 だからこそ。

「ここが、僕と叶を組み合わせにした意味があるんだ」
「まあたしかに、それを試したいのならうってつけではあるよね。でも、どうやるの?」
「合図を決めておきたいんだ」
「え? でもそんなことをしたら、相手に気づかれちゃわない?」
「声を出せば、その通り。丸わかりになっちゃうから、他のにしたいね」
「それはいいかもね。でも、声はダメで、わかりやすい動きもダメで……」
「音、なんてどうかな」
「音?」
「例えば、盾を叩く音、武器で床を擦る音とか」
「いいね、音、か。それなら、未だしてくれたものをそのまま採用しちゃおうよ。私、結構耳には自信あるよ」

 そうだ、僕と叶は盾を装備できる。
 しかも、僕は右と左の両手に盾を持てるし、装備が擦れるなんて珍しいことではない。

「じゃあ、これでいこう」
「よーし、やる気出てきた。でも、意外だったよ」
「なにが?」
「いやさ、こういうのってやっぱり連携力がものをいうじゃない? だったら、私みたいに初めて組む人じゃなくて、前からパーティを組んでた人たちとやったほうがいいんじゃないかなーって」
「ああ、たしかにそうだね。叶の言う通りだと思う。でも、それじゃあダメなんだ」
「そうなの?」
「流れで僕がリーダーになってしまったけど、僕はしっかりとこの役をやりきりたい。みんなで上に行きたい。みんなで勝利を掴み取りたいんだ」

 そう、今回だけだったとしても、僕たちは"パーティ"なのだから。

「へぇ、なるほどね。志信ってそういう人だったね」
「ん?」
「なんでそこは無自覚なんだかねぇ」

 叶の言葉の意味は理解できなかったけど、初の試みとなる今回。
 誰が相手でも、やれることをただ全力でやるだけだ。
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