上 下
73 / 129
第四章

第26話『源藤宰治と上木道徳』

しおりを挟む
「やあやあ、今日は僕の要請に応じてくれてありがとう」

 カザルミリア学園の応接室にて、源藤さんはある人物を呼び出していた。

「上木道徳くん」
「まあ偶然、今日は仲間の1人がどうしても買い物に行きたいって駄々を捏ねてきたから空いていただけだ。そうでもなかったら、どんな要件だったとしてもお前とこうして一対一で話すことは・」
「ええ! なにそれ、かなり辛辣ぅ!」
「どの口が言うんだか」

 何一つ悪びれる素振りを見せない源藤さんに、上木さんは鋭い目線を向ける。

「まあね。この歳にしてギルド総括理事長という立場まで上り詰めた僕は、ありとあらゆることをやったさ。人からは惨忍な人間と陰で散々言われたさ」
「だろうな」
「でもさ、ちゃんと変わったろ? いろいろと。僕はいくら他人に罵られようとも、歩んできた棘道を間違っていたなんて思ってない」
「今日はそんな話をするために呼び出したのか?」
「ああ、いけないいけない。そうだったね」

 源藤さんは用意されていたお茶を啜る。

「単刀直入に言おう。キミに会ってあげて欲しい生徒が居るんだ」
「それはまた唐突だな。俺にファンサービスでもしろと?」
「まぁ~、今や国中にその名声を轟かせている【大成の樹】のキミたちのファンは大勢いるだろう。というか、その自覚はあったんだね。要はそんな感じなんだけど、たぶん会ってみると面白いことになると思うよっ!」
「なんだそれ。お前のその顔、久しぶりに見たな」

 源藤さんは、子供のような笑顔を見せている。
 目までしっかりと上げ口角も持ち上がっているのに、その瞳の奥には別の何かがちらつく。

「そこまでか。将来有望なその生徒っていうのは……なるほどな。だからここに呼び出されたのか」
「さすがだね! そう、ここの生徒なんだよね」
「今は?」
「あー、そのことに関しては後から説明するよ」
「お前がそこまで言うんだ。さぞ期待のできる前衛クラス、か、後衛クラスのストライカーなんだろうな」
「……その子はね、アコライトなんだよ」
「ほう」

 巧みな話術に乗せられないように上手く話題に乗っていた上木さん。
 でも、たったその一言だけを耳にし、体がピクリと反応してしまう。

「いいねぇいいねぇ。そうこなくっちゃ」
「はぁ。それで、どんな子なんだ」
「目立った功績は今のところはないと言えばない。あえて言うのであれば、二年生にして授業中だけどレンジャーラットを討伐してみせたよ」
「1人でか⁉」
「いやいや、まさかそんなことはありえないよ。それはキミが一番よく理解していると思うんだけど。ちゃんとパーティを組んでだよ」
「でもそれ、本当なのか。そんな情報、こっちには入ってきてないぞ」
「そりゃあ、まあね? 学園内の情報はギルドにも流れない機密情報だし」
「じゃあなんでお前は知ってるんだよ」

 得意げに源藤さんは頷く。

「うんうん。良い疑問だ。まあ、ただ偶然この学園に用事があって、偶然にも授業を見学することになってね」
「それ、本当に偶然なのかよ」
「ああ、最初はもちろん偶然だよ」
「最初ってなんだよ。それに普通、レンジャーラットって普通の授業で出現させるのか? どう考えても危険すぎるだろ」
「ああ~、それはね。僕がちょちょっとね。――いやいや、僕が直接調整したとかではないからね。これは本当だよ、後から担任の先生にでも確認をとろうか?」

 上木さんの鋭い眼光に必死に言い訳する源藤さん。

 本来、レンジャーラットはダンジョン初層と上層の狭間にある二十階層を守護するボスモンスター。
 各階層に出現するエリアボスも学生であれば単身で撃破するのはほぼ不可能。
 それより強い階層ボスは絶対に無理。
 独り立ちしたメンバーを募った初心者パーティだったとしても、討伐には困難を有する。

 それを、実戦経験すらない学生パーティで討伐したと聞かされた。
 これに興味を示さず、何に興味を示せるのだろう。
 内心前のめりになる上木さん。
 必死に表へ出さないようにするも、口は動いてしまう。

「いや、そんな確認は要らない。それより、なぜその生徒なんだ。他の生徒の実力あっての成果ということはないのか」
「ははぁ~ん、興味津々だねぇ。わかるよ、普通はこんなことを聞かされたらそう思うし、僕が逆の立場だったら確実に疑うね。でもね、僕はこの目でハッキリと見たんだ。彼の指揮能力、状況判断能力、行動力――勇気を」
「なんとなくわかった気がする。お前が言ったことを。――面白い、俺はまんまとお前の策略に陥れられたわけだ」
「それに、キミがいつだったか……忘れてしまったけど、今は最前線組には当たり前になっているを既に気づいているよ」
「それは本当なのか」
「ああ、本人に聞いてみるといいよ」

 実態が不明瞭なため、未だ公表に至っていない技術。
 それを、上木さんは数年前に発見してた。
 武具にスキルを付与する。
 これは、最新の技術であり、それを知る人は極めて少ない。

 その考えに学生が行き着き、授業といえど実戦で活用した。
 結果、普通ではありえない功績を残したと言うのだ。

「その生徒に興味が湧いてきた」
「喜んでくれて僕も嬉しいよ。僕もキミのそんな顔を久しぶりに見たよ」

 クールに表情一つ変えずに会話していた上木さんの表情には、純粋な笑顔があった。

「それで、その生徒はもうすぐ来るんだろ?」
「あー、僕としたことがいけないいけない。つい会話が楽しくて時間を忘れていたよ」
 
 肩の力を抜いた源藤さんは、長針と短針から成る魔力で動く時計が掛かっている壁上部に目線を送る。

「悪いんだけど、その子に会ってもらう前に別の子を呼んでいるんだ」
「そうなのか?」
「うん、一応ね。そうしないと、後で怒られちゃうからさぁ――そろそろ来る時間だね」

 そう言うと、源藤さんは扉の方に目線を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

World End

nao
ファンタジー
 法術という異能によって成り立った世界で、無能力者の少年ジンは狂った神が人間の魂に刻み込んだ魔物化の呪いによって姉や友人、彼を包んでいた世界の全てを失う。  失意のドン底にあった彼は善神と自称する神ラグナから世界の真実を伝えられる。彼は狂った神への復讐を誓い、ラグナの庇護の下で力を蓄えて狂神を打倒するために力を蓄える。やがて新たな旅に出た彼は仲間と出会い、そして運命の出会いを遂げる。   大切な仲間達と出会い、別れ、人間世界に仇なす者となっても彼は旅を続ける。強大な力の前に、数多くの仲間を失い、傷つきながらも最後まで戦い抜いた末に彼が辿り着いたのは世界の終焉と安息だった。  これは人々から怨まれ、多くを失いながらも最後まで戦い続けた男の物語である。

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...