70 / 129
第四章
第23話『一華と叶』
しおりを挟む
放課後、一華と叶は夕陽に照らされる教室で話をしていた。
他にも生徒はチラホラと数人の姿があるも、その全員が帰宅する準備を整えている。
「おつかれさま」
「おつかれ~」
教科書を鞄に詰め込む叶。
机へ溶けるように張り付いている一華。
今回初めてのパーティ戦を終えて、緊張感から解放されたかのように安心している。
「今日さ、どう感じた?」
「どうって? みんなのこと?」
「そう」
その問いに対し、喉を鳴らし「ん~~~~」と唸る一華。
「そうだね~。みんな凄かった」
「だよね」
「それに……楽しかった」
「それね」
2人は薄っすらと笑みを浮かべ、その時のことを浮かべる。
「なんか、何をするわけじゃないんだけどさ、いてもたってもいられなくいられなくなるよね」
「うん。今何ができるわけでもないのに、思い出すだけで何かしなくちゃっ、てね」
「最初はさ、ちょうどいい船を偶然にも見つけられてラッキー程度しか思ってなかったのにね。完全に当たりくじって感じ」
「なんだかそれ失礼じゃない……? でも、わかるかも。パーティを組んで全然時間経ってないのにね」
「本当にそうだよね。パーティを組んでまだ五日目だっていうのにね」
「そうだよねー。でも、もう五日も経ったんだね」
一華は体を起こし、座ったまま背を伸ばす。
「私、今までで一番楽しい」
「えっ、叶ちゃんが随分と珍しいこと言ってる」
「何よそれ。私には感情がないとでも思ってたの?」
「え? 違うの?」
くだらない冗談に、2人は目線を合わせて笑う。
「でもさ、一華も人のこと言えないからね?」
「え?」
「一華、いつもより笑ってるよ。それはもう楽しそうに」
「そ、そうか……な?」
叶に言われたからなのか、夕陽に染められたのか、嬉しかったことを思い出しからたからなのか、それとも全てなのか。
本人にもハッキリと理解できない感情が湧き上がり、頬を赤く染める。
「私、初めて褒められた……」
「たしかに、一華が褒められてるところ初めて見たかも」
「え。今、もしかして流れで酷いこと言われた?」
「いいや? 気のせいじゃない」
「ふぅーん」
一華は反撃とばかりに、意味深な顔をしながら口を尖らせる。
「な、なに」
「私だってわかってるんだから。そんなに鈍感じゃないよ」
「だからなにが――」
「叶ちゃんも初めて褒められてたじゃん」
「そ、それは……」
核心を突いたと確信した一華は、これを好機と見て怒涛の追撃を繰り出す。
「し・か・も、ほんの少しだけほっぺを赤くしちゃって! あぁ~、あんな姿の叶ちゃんかわいかったなぁ」
「あ、あれは! あれは、あれは……そ、そう。体を動かしたからで」
「え? 叶ちゃん、あの時は動いてなかったよね?」
「うぐっ」
滅多にない機会に、ニヒヒッと悪い笑みを浮かべながら更なる追撃をする。
「はぁ~、かわいかったなぁ~。いつもあんな感じで過ごしてたら、叶ちゃんも男子からの人気も急上昇だろうにねぇ。はぁ~、せっかくの美人さんがもったいないよ」
「…………」
身振り手振りため息を交え、わざとらしい名演技を見せる一華。
普段は、自分の意思をこれでもかというぐらいに先読みされ、的確に刺激され、話題のネタにされているのだ。
こういう時ぐらいでしか優位に立てないことを良いことに、更につけあがる。
その反面、言い訳や他の要因を疑う余地もなく、頬を、耳を真っ赤に染める叶。
挙句の果てに顔を下に向け、前髪を垂らし、表情を伺えなくなってしまった。
小さくも可愛らしい復讐心を燃やた一華は、止めの一撃を放とうと目論む。
「もしかして叶ちゃん。志信くんのこと好――」
「食らえ!」
「あいたーっ! いたーい! 叶ちゃんひっどーっ!」
「自業自得」
かなり容赦のない手刀が一華の脳天へと放たれた。
得意げに叶をおちょくっていたせいで目を閉じていた一華。
当然、避けられるはずもなく直撃。
それはもう即座に反応してしまうほどの痛み。
もちろん叶もその反動で手に痛みを覚え、プラプラと右手を振っている。
手刀の直撃部分を両手で覆い、涙目になる一華。
目で痛みを訴えるも、叶からは殺意のオーラを纏った笑顔だけが返ってきた。
「ひ、ひぃっ! あのぉ……怒ってます……よね」
「どうだろうね」
叶は酷く冷静で、声にも何かが宿っている。
「随分と痛そうじゃない。もし良かったら、もう片方の手がまだいけそうなのだけど」
「ご、ごごごごごめんなさいっ!」
完全に攻守が逆転した瞬間であった。
そんなやりとりをしていると、気づけば教室の中は自分たちだけになっている。
滅多にこんな経験をすることができず、もう少しだけ物寂しい教室を堪能していたいところではあるが、叶は鞄を手にし、スッと澄ました顔に戻す。
「じゃあ、そろそろ私たちも帰ろっか」
「うんっ」
他にも生徒はチラホラと数人の姿があるも、その全員が帰宅する準備を整えている。
「おつかれさま」
「おつかれ~」
教科書を鞄に詰め込む叶。
机へ溶けるように張り付いている一華。
今回初めてのパーティ戦を終えて、緊張感から解放されたかのように安心している。
「今日さ、どう感じた?」
「どうって? みんなのこと?」
「そう」
その問いに対し、喉を鳴らし「ん~~~~」と唸る一華。
「そうだね~。みんな凄かった」
「だよね」
「それに……楽しかった」
「それね」
2人は薄っすらと笑みを浮かべ、その時のことを浮かべる。
「なんか、何をするわけじゃないんだけどさ、いてもたってもいられなくいられなくなるよね」
「うん。今何ができるわけでもないのに、思い出すだけで何かしなくちゃっ、てね」
「最初はさ、ちょうどいい船を偶然にも見つけられてラッキー程度しか思ってなかったのにね。完全に当たりくじって感じ」
「なんだかそれ失礼じゃない……? でも、わかるかも。パーティを組んで全然時間経ってないのにね」
「本当にそうだよね。パーティを組んでまだ五日目だっていうのにね」
「そうだよねー。でも、もう五日も経ったんだね」
一華は体を起こし、座ったまま背を伸ばす。
「私、今までで一番楽しい」
「えっ、叶ちゃんが随分と珍しいこと言ってる」
「何よそれ。私には感情がないとでも思ってたの?」
「え? 違うの?」
くだらない冗談に、2人は目線を合わせて笑う。
「でもさ、一華も人のこと言えないからね?」
「え?」
「一華、いつもより笑ってるよ。それはもう楽しそうに」
「そ、そうか……な?」
叶に言われたからなのか、夕陽に染められたのか、嬉しかったことを思い出しからたからなのか、それとも全てなのか。
本人にもハッキリと理解できない感情が湧き上がり、頬を赤く染める。
「私、初めて褒められた……」
「たしかに、一華が褒められてるところ初めて見たかも」
「え。今、もしかして流れで酷いこと言われた?」
「いいや? 気のせいじゃない」
「ふぅーん」
一華は反撃とばかりに、意味深な顔をしながら口を尖らせる。
「な、なに」
「私だってわかってるんだから。そんなに鈍感じゃないよ」
「だからなにが――」
「叶ちゃんも初めて褒められてたじゃん」
「そ、それは……」
核心を突いたと確信した一華は、これを好機と見て怒涛の追撃を繰り出す。
「し・か・も、ほんの少しだけほっぺを赤くしちゃって! あぁ~、あんな姿の叶ちゃんかわいかったなぁ」
「あ、あれは! あれは、あれは……そ、そう。体を動かしたからで」
「え? 叶ちゃん、あの時は動いてなかったよね?」
「うぐっ」
滅多にない機会に、ニヒヒッと悪い笑みを浮かべながら更なる追撃をする。
「はぁ~、かわいかったなぁ~。いつもあんな感じで過ごしてたら、叶ちゃんも男子からの人気も急上昇だろうにねぇ。はぁ~、せっかくの美人さんがもったいないよ」
「…………」
身振り手振りため息を交え、わざとらしい名演技を見せる一華。
普段は、自分の意思をこれでもかというぐらいに先読みされ、的確に刺激され、話題のネタにされているのだ。
こういう時ぐらいでしか優位に立てないことを良いことに、更につけあがる。
その反面、言い訳や他の要因を疑う余地もなく、頬を、耳を真っ赤に染める叶。
挙句の果てに顔を下に向け、前髪を垂らし、表情を伺えなくなってしまった。
小さくも可愛らしい復讐心を燃やた一華は、止めの一撃を放とうと目論む。
「もしかして叶ちゃん。志信くんのこと好――」
「食らえ!」
「あいたーっ! いたーい! 叶ちゃんひっどーっ!」
「自業自得」
かなり容赦のない手刀が一華の脳天へと放たれた。
得意げに叶をおちょくっていたせいで目を閉じていた一華。
当然、避けられるはずもなく直撃。
それはもう即座に反応してしまうほどの痛み。
もちろん叶もその反動で手に痛みを覚え、プラプラと右手を振っている。
手刀の直撃部分を両手で覆い、涙目になる一華。
目で痛みを訴えるも、叶からは殺意のオーラを纏った笑顔だけが返ってきた。
「ひ、ひぃっ! あのぉ……怒ってます……よね」
「どうだろうね」
叶は酷く冷静で、声にも何かが宿っている。
「随分と痛そうじゃない。もし良かったら、もう片方の手がまだいけそうなのだけど」
「ご、ごごごごごめんなさいっ!」
完全に攻守が逆転した瞬間であった。
そんなやりとりをしていると、気づけば教室の中は自分たちだけになっている。
滅多にこんな経験をすることができず、もう少しだけ物寂しい教室を堪能していたいところではあるが、叶は鞄を手にし、スッと澄ました顔に戻す。
「じゃあ、そろそろ私たちも帰ろっか」
「うんっ」
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~
椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。
探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。
このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。
自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。
ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。
しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。
その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。
まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた!
そして、その美少女達とパーティを組むことにも!
パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく!
泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話
亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる