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第三章

第17話『前回の授業を踏まえての戦術』

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 何事もなくお泊り会は終わった。
 若干だけ心配だったのが遅刻。
 休日ならその心配もいらなかったけど、平日にやったものだからその懸念だけは拭えずも、全員が無事に当校を終えた。

「あー、これは計算外だったわ」
「まあ、そうなるよね~」

 一樹は、昨晩持ってきた寝袋入りの鞄をみて愕然としている。
 置き場がなく、挙句の果てに自分の机の下に押し込んでいる姿を見て彩夏がツッコミを入れた。

「それで~? 昨晩の男子は何を話してたのかな~?」
「そりゃあ、簡単には他人に言えない話だ。逆に、女子は何を話してたんだよ」
「むふふ~。それはもちろん、他人には言えない話よ」
「じゃあお互い様だな」
「だね」

 一樹と彩夏の心理戦はあっけなく終わりを迎えた。
 どちらも、それ以上深堀してはいけなさそうだというのはすぐに分かり合ったらしい。
 個人的には気になるところではあるけど、共通の秘密というのは時に団結力を生むことがある――と、どこかの本で読んだ記憶がある。
 だとすれば、一樹同様にそれ以上の詮索はしないほうがいい。

「そろそろ移動する?」
「たしかにな」

 話を断ち切ってしまう形にはなってしまうけど、話を切り出した。
 なぜなら、黒板に『本日はお昼まで実習につき、演習場に集合』と記されているからだ。

 
 
「それでは、本日も実習になりますが前回同様、パーティ組には足を運べない可能性があります。ですが、今回は半分以上をダンジョン化させますので、自由にやっておいてください。一応、強敵となるモンスターの出現はなしにしておきます」

 と、先生とその他の人たちはこの場から離れていった。
 だけど、少しばかり大盤振る舞いではと思ってしまう。
 前回と同じく、パーティを組んでいるのは二つしかない。
 その、計16人のためだけに、クラス全員が参加する規模を自由に使っていいというのは、ありがたくも申し訳ない気持ちもある。

 ……と、想うのも反面、こんな優れた環境で自由にやっていいというのは、他の人たちよりかなりのアドバンテージがとれる。
 こんな絶好の機会に茶々を入れるのは、野暮というもの。

「よし、少しだけ会議をしようか」

 先生の言葉通り、早速地形が変わっていく。
 もう一つのパーティは足早に疑似ダンジョンへと侵入していくも、僕はそう提言する。

「お、待ってました」
「おっけーおっけー」
「そうね、賛成」

 桐吾、彩夏、美咲は僕の提案をすぐに乗ってくれた。
 だけど、もちろん疑問の声も出てくる。

「なんでだ? 会議なんて、とりあえず一回戦闘を挟んでとかのほうがよくないか?」
「たしかにそうね」
「わ、私も戦ってからの方がいいのかなって」

 一樹、叶、一華は今までの経験則からそう進言する。
 もちろん、3人が言うことに間違いは何もない。

「うん、そうだね。それもまた一理ある。ただ、今からやるのはそういったこと以外のことなんだ」
「ほほう? あっ、これが昨日言ってたやつか?」
「そう、そういうこと」
「なるほどな、じゃあ俺も賛成するわ」

 桐吾と一樹はそれ以上の言葉を交わさず微笑する。

「えー、なにそれなにそれ。男同士の秘密的な的な? 気っになるー」

 結月だけが謎の食い付きを見せるも、叶は納得してくれた。
 
「まあたしかに。リーダーがそう決めたのなら、従ってみるのもありだよね」
「たしかに……もう、私たちパーティだもんね」
「叶、一華もありがとう。といっても、そんなに畏まる内容でも難しい内容でもないから、確認程度だと思って。じゃあ少しだけ寄ってきて」

 全員が円になるように立ち、話し合いが始まる。

「まず、このパーティの編成は攻撃力が前衛寄りになってる。だから、基本的には前衛のみんなに頼りつつ、後衛は支援を中心になるんだけど、陣形だけ決めておきたい」
「なるほど。ナイトが2人もいるもんね、どうせなら有効な配置にしたいってことかな」
「そう、美咲の言う通りで今回はそこが重要になると思うんだ。前回の授業の時に見させてもらった戦い方を参考に、一華が前線、叶が銃後って感じでお願いしたい」
「私はそれでいいけど、せっかく盾役が2人もいるなら前線でヘイトを集めまくった方がいいんじゃないの?」
「うん、叶の言ってることも凄くわかるし、それが基本的な戦術になる。でも、今回の編成で懸念しているのが回復の回数と考えている」

 叶は顎に手を置き、少しの間考えた後、「あっ、そうか」と独りでに解決したようだ。

「えっ、なになに。叶ちゃん、どういうこと?」
「前衛が要となるパーティであれば、その回復頻度が増えるのは当然ってのはわかるね?」
「うん、一番動き回らないといけないもんね。――あっ、そういうこと」
「そう。そして、このメンバーが答えってことね」

 叶は本当の答えに気づいたようだ。
 結月と一樹の方に目線を移し、頷いている。

「そう、桐吾は兎も角、結月と一樹は間違いなく突撃タイプ。そうなれば、戦闘中は自分の傷なんて気にせずに戦うからね」
「えーっ、なにそれひっどーい!」
「そうだぞ、誰が猪突猛進タイプだ」

 と、結月と一樹は反応するも、他全員は呆れ顔をしている。

「まあ、そんな感じで前衛を桐吾、結月、一樹、一華。後衛を美咲、彩夏、叶、僕って感じのザックリとしたことだけ決めて、自由にやってみよう」
「いいね」
「よしきたっ」
「うん!」
「そうね」
「いいねいいね」
「わかった」

 全員からの承諾は得られた。
 後は、戦闘後にでも微調整すればいいだろう。

「よし、行こうか!」
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