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第三章

第16話『お泊り会・女子トーク』

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「さすがに、こんなに人数がいるとぎゅうぎゅうだね~」

 守結は、自室に集まる全員へ目線を配らせながら苦笑いする。
 それもそうだ。
 どれだけ1人では十分な部屋の広さであっても、6人も入ればそうなる。

 床に座る一華と叶は同じく苦笑いをし、守結と同じくベッドに座る美咲と彩夏もクスッと笑う。結月は勉強机の椅子に座り、何かを探している。

「いやぁ~、楓ちゃんと椿ちゃん、小さいお人形さんみたいでかわいかったなぁ~」
「うんうん、彩夏の言ってること物凄くわかる。あのままずっと抱っこしてたかった」

 彩夏と美咲は、先ほどまで今で戯れていた時の話をしている。
 全員が到着早々、偶然にも階段を降りてきていた楓と椿は興味津々に駆けてきた。
 早々に守結の部屋に向かう手はずだったが、さすがに8人も一部屋に入るのは流石に無理がある。
 ということで、居間にて2人掛けのソファー二個に3人ずつ、1人掛けソファー一個に1人ずつ座って談笑をしていた。
 その際、椿は彩夏に、楓は美咲の膝の上に抱きかかえられていた。

「しかも、さっき布団を持ってきてくれた時なんて、ちっちゃいのに一所懸命運んできてくれて可愛かったなぁ~」

 美咲は頬を緩ませ、完全に小動物のように捉えている。

「でも、布団がギリギリ間に合って良かったよ。……といっても、私のベッドで美咲と一緒に寝るんだけど。美咲、ごめんね」
「ううん、全然大丈夫。寝る時、こちょこちょしちゃうよ~」
「ちょっとー、そんなのやめてよ!」

 美咲はクスクスと笑みを零す。

 だがしかし、先ほどまでの話を掘り返せば当然みんな共通の疑問が思い浮かぶ。

「そういえば楓ちゃんと椿ちゃんが、気のせいじゃなければ結月に対してだけは距離感違くなかった?」
「私もそれ思った」

 彩夏の疑問に対し、叶も便乗してくる。

「もしかして……」

 美咲は、そのことについてすぐにあることを思い出す。
 
「はぁ……美咲の反応を見るに、教室で話したのね」
「え? 何かまずいことでもあったの?」

 守結のため息交じりの呆れ顔に対し、結月は悪びれる素振りすらみせず。

「いやいや、転校して来て早々、普通は知り合ったばかりの男友達の家なんか行かないと思うけど」
「いいじゃんいいじゃん別に。悪さしたないし、なんなら椿ちゃんと楓ちゃんと仲良くなったよ?」
「むむむ……たしかに。でも、今後は私の――」
「志信がいいよって言ったら、別に問題ないよね?」
「ま、まあ……それなら」

 守結は自分に許可をするよう注文をしようとするも、途中でその横暴さに気づいた。
 それだけでなく、結月の正当性があまりにも真っ当すぎて、それ以上詰めることはできないと悟った。

「そ、それにしても、可愛いお部屋です」
「たしかに、なんか普段の雰囲気からは全然想像つかないよね」

 徐に口を開く一華の言葉に結月も乗っかる。
 そして、釣られるように全員が部屋中を見渡す。

「たしかにね。噂に聞く感じからは想像の反対かも」

 叶も同意見。

「そうかな? 女の子って感じで可愛いと思うよ」
「そうそう、私的にはこれぞ守結って感じかな」

 美咲と彩夏はそれらの意見に反対する。

「いや待って、私ってどんなイメージなの?」

 みんなの意見にツッコミを入れる守結。
 手の甲で空を叩くも、流れるようにみんなの意見が飛んでくる。

「と、届かないような存在」
「真面目」
「まとめ役」
「コミュニケーションお化け」
「友達」
「え、ちょっ、みんなそれぞれ印象違い過ぎない? 美咲ー! 美咲だけだよぉー!」

 完全にいじられ役のポジションになってしまった守結。
 だがしかし、そのおかげで全員の顔に笑顔が咲き、場の雰囲気が一気に明るくなった。

「じゃあさ、こういう時の定番の話、しちゃう?」

 そう切り出したのは、予想外にも叶だった。

「え、なになにっ! こういう時の定番? 好きな食べ物とか?」
「ううん。それもいいけど、やっぱり、こういう時は気になる男子の話題よね」

 食い気味の結月に対し、叶は冷静に淡々と答える。

「えっ、えっ⁉ そういうのって、てててて定番なの⁉」

 はわわわわと挙動不審に左右に目線を振る一華。
 ……だけと思いきや、守結と美咲もはっはっはっと首を左右に振っている。

「そりゃあまあ、女子トークってこれが普通だよ」
「たしかにね、やっぱこれだけは外せないよね」

 謎の共闘をみせる叶と彩夏。
 こんなところでまさかの仲が進展しているようだけど、本当にこれでよいのだろうか……と、冷静にこういう物事を判断できる人物はこの中には存在しない。
 なんなら、結月も言葉には出さずとも、前のめりになり始めている。

「あ、話題を切り出しておいてあれだけど、私は残念ながらそういう人はいないよ」
「気になる人かぁ。たしかに、私も乗ったのはよいもののそういう人はいないかなぁ」
「えっ……そういうのあり、なの? じゃあってわけじゃないけど、私もいない、かな」

 と、叶、彩夏、一華は早々に話題から退場。
 こうなれば、自然と標的は残る守結、美咲、結月になる。

「でもさー、桐吾くんって爽やかだし、何でもできちゃうからクラスの中では結構人気あるんだよね。3人はさ、どうなの? 誰かいるの?」
「気になる男子かー。まず、一樹はなし寄りのなしかなっ」
「うわ、辛辣。でも、それわかるかも」

 彩夏と結月の会話はとてもじゃないけど、他の人には聞かせられたものじゃない。

「でもでもー、気になるっていうんなら、志信っていいよねーっ」
「「なっ」」

 結月の一言に守結と美咲が反応した。

「え、なに? 私は嘘なんていってないからねー?」
「い、いや。だってほら、お姉ちゃんとしてそれは認められないというか、私の――」
「許可はいらないよね?」
「うっ……」
「あ、あのっ! 喧嘩はよくないよ……」

 守結と結月の攻防が繰り広げられている中、届かない声で一華は仲裁に入る。
 もちろん、その声は肩が触れ合う距離の叶にしか聞こえていない。
 そんな中、彩夏はこっそりとひそひそ声で美咲に声を掛ける。

「えっ、美咲。そうなの……?」
「えっ、いや。き、気になるっていうか、そう、気になるだけであって、なんというか、その、あの……いや」

 と、顔を真っ赤に染めて言葉を詰まりに詰まらせている。
 
「あー、ほーう」

 もはやそれ以上の言葉はいらなかった。
 だが、彩夏は無言で美咲の肩を叩き、無言で唇に指を立てる。
 それに応えるように、美咲はハッと我に返り無言で首を縦に振った。

 そんなこんなで、永遠と途絶えることなく沢山の話題を話し合い全員の距離は縮まった。
 男子側と女子側では、明らかに内容の温度差はあれど、コミュニケーションは果たせられたといえる。

 急遽始まったお泊り会も終わりを迎え、より一層今回の学事祭への団結力が高まった。
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