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第三章

第14話『テスト返却と打ち上げ!?』

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「それでは、今よりテストの返却をしていきます」

 授業が後半に差し掛かったところ。
 海原先生は、教本をたたんでそう切り出した。
 そんなことになればクラス中が騒がしくなるのは必然。

 後方からは一華が「どどどどどうしよう」と声が聞こえ、いつも通りに叶が茶々を入れている。
 前方からは、彩夏がふんっふんっと鼻息を荒げている。それに気づいた美咲がクスクスと肩を震わせていた。

 現に僕も少しだけそわそわしている。
 勉強は常日頃怠っていなかった。
 テストの内容にも自信はあった……けど、全ては手元に来るまでわからない。

 刻一刻と前から裏返しの解答用紙が送られてくる。
 自分のところまで来て、後ろにも回す。

 ――いざ。

「「よし」」

 百点。

 意図的ではなかったけど、桐吾と声が被った。
 驚いたのもあるけど、僕たちは目を合わせ、ほんの少しだけ口角を上げて一度だけ頷く。

 それが意味するのは、当然、良い結果だった。ということ。

 彩夏は全身から空気が抜けきったかのように萎れて安堵している。
 美咲は平然としている。
 隣の結月は……。

「ね、ね、見て見てっ」

 隠すことなく堂々と用紙をこちらに向けてきた。
 しかも、破れそうな勢いて上下に引っ張りながら。

 そこには、八十五点と記され大量の赤丸がある。

「どう? どう? 私、できる子でしょー」

 物凄く得意げに鼻を鳴らしている……「いや、こういうのって普通は他人に知られたくないものじゃないの?」……と、ツッコミを入れたいところだけど、本人がそれで良さそうだから深堀はやめておこう。

 その行動になんて返せばいいか迷っていると、後方席の一樹から声をかけられる。

「志信、俺の点数ってそこまで悪くはないよ……な……?」

 いつものハキハキとした声とは真逆に三段階ぐらい小さい。

 何事かと振り向くと、申し訳なさそうに用紙をこちらに渡してきた。
 
 六十五点。

「うん、まあ……大丈夫じゃないかな」
「そ、そうなのか……?」
「個人だったらちょっと危ないかもしれないけど、パーティだからね。みんなも好調そうだし、問題ないと思うよ」
「そっかぁ……よかったぜ」

 絵に描いたように胸を撫で下ろし始める一樹を横目に視線を戻す。
 それに、振り返る前に先生が黒板に記載していた平均点は六十点。
 僅かながらではあるけど、平均点を越えているのだから、あれを見て更に安心したことだろう。

「早めにパーティを組んだ人たちは、もちろんメンバーでの平均点になります。……ですが、個人の人たちは当然、それが持ち点になります。つまり、その自分の持ち点が低くてパーティに入れない……なんてこともあるかもしれませんので、そこは覚悟しておいてください。なので、これから先も試験は続きますが早めに組んだ方がいいですね」

 と、先生は淡々と何気なく冷酷なことを告げた。

 僕はあまり気にしていなかったけど、確かにそうだ。
 この学事祭の仕組みとして、パーティを組まなくても試験を受けられるという特色がある。
 だけど、それが個人の得点として獲得できるとしても、試験が進むにつれパーティが組みにくくなってしまう。
 なぜなら、良くも悪くも平均値になってしまうからだ。

 現に、僕の満点もそうなる。

「それではこれにて授業は終了になります。不備などがありましたら、いつでも受け付けておりますので気軽に相談してください」

 先生はそう言い終え、ゆったりと退出していった。


「じゃあさ、今日の放課後どうするよ」

 休み時間が始まり、そう言い出したのは一樹だった。

「どういうこと?」

 そう返したのは桐吾。

「いやさ、テストの後って言ったら、やっぱ打ち上げじゃね?」
「あ、それいいかも」
「お、いいねそれ。賛成賛成!」

 その話題に乗ってきたのは美咲と彩夏。

「そういうの、一度はやってみたいと思ってた」
「同じく!」

 しかも前のめりに。

「いいねいいね。でもまあ、強制ではないから他の人の意見次第だけどな」
「僕も初めてだから……でも、勝手がわからないから、どういう風な感じかだけ聞いても良いかな」
「たしかにな、漠然としてちゃ参加もしずらいよな」
「う~ん、打ち上げといったら……やっぱり、どこかのお店にで食べ物を囲んでわいわいするって感じよね」
「そうそう、それが定番だよねー。後はー、遊べる場所にみんなで行くのもありだよね」

 美咲と彩夏が次々と意見を出してくれた。

 打ち上げ=みんなで遊びに行くという捉え方で間違いなさそうで、敷居が低いように思う。
 これなら、僕でも参加出来そうだ。

「あーっ! それなら私に名案があるよっ」

 と、唐突に切り出したのはまさかの結月だった。
 一気にみんなの視線が集まる。

 なんの根拠はないけど、嫌な予感がした。

「えっとね、前に志信の家に行ったことがあるんだけど」

 ――ん?

「すっごく広かったんだっ。だからね、お泊り会ってありなんじゃないかなって」

 どうしてそうなった。

「それにね、お泊り会だったらお金もそこまで気にしなくて良いし、時間も気にしなくて良いし……と、いいこと尽くしだよっ」
「たしかにね。女子も多いし、親からの承諾も簡単に降りそう」
「う、うん。それだったら私も大丈夫そうかも」

 流れを静観していた叶と一華はここに来て許諾を始めた。

「たしかに、それいいね。守結ともお話できそうだし、私も賛成!」
「私も賛成なんだけど……結月ちゃんがなんで志信くんの家に……?」
「そんなに気にしなくてよしよしっ」
「は、はぁ……」

 なんだかどこからか刺さるような目線が向けられているような気がした。

「おお、いいなそれ。親睦を深めるには持ってこいじゃねえか! 名案すぎるぜ」
「でしょでしょっ」

 どうやっても意気投合しないであろうと思っていた、結月と一樹が目線を合わせてニカッと笑っている。
 
 桐吾の方へ助け船を求めて目線を向けるも、「あはは……」と苦笑いしか返ってこなかった。

 たしかに、条件を考えると合理的な意見だということはわかる。
 悔しいけど、反論できない。
 それに、両親も基本的には家に居ないし、居たとしても快諾される未来しか見えない。
 守結もたぶん拒否しないだろう。
 椿と楓は間違いなく面白さを求めて参加してくるだろう。
 兄貴も特に拒否はしないだろう。
 たぶん、ここで拒否されたとしても、もしかしたら守結に直接交渉されかねない。
 
 つまり、逃げ道はない。

「……みんながそういうなら、それでいこう」
「よし、じゃあそれで決まりだな!」
「レッツゴーレッツゴーッ!」

 完全に意気投合している結月と一樹を前に、右手を額に当ててため息が零れた。
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