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第二章
第5話『守結の心は嵐のよう』
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「あーもー!」
帰宅早々、玄関で靴を脱ぎ始めてる最中、居間の方からそんな声が鳴り響いた。
気の緩んでいるところにそんな声が聞こえれば、自室より声の方へ向かうのが当然。
「それで、どうしたの」
「あっ……聞こえちゃった……?」
「そりゃあ、ね。それで、何かあったの?」
「何かも何も、大ありっ! なんなの今回やる学事祭ー!」
居間へ入ると、守結《まゆ》がぷんすかと地団駄を踏みながら怒り散らかしている。
小さい子供の怒り方そのもので、その様は見ててクスリと笑みを零してしまう。
ハッとすぐ我に返るも、既に背中を向けてソファーにヒップドロップをしてくれていたおかげで怒りの矛先を向けられずに済んだ。
「それに、全校集会でも詳細通達でもそうだし、なんであんな感じなのー!」
「まあまあ落ち着いて」
たしかに、守結《まゆ》の言い分はわかる。
僕から見ても自由奔放な面が際立っていた。
そんな光崎《こうざき》生徒会長に対して、几帳面な守結。両極端な2人はきっと相容れないのだろう。
だとしても、余程のことがない限りは矛先が向かないだろうけど……。
「それで、何がそんなに不服なの?」
「良くぞ訊いてくれたっ! ――といっても、そんなに怒ってるわけじゃないんだけどね」
「そ、そうなんだ?」
誰が見ても怒ってたようにしか見えないと思うんだけど……。
楓《かえで》と椿《つばき》がこの場に出くわしたならば、間違いなく関りを避けて逃げ出していただろう。
「あーあ、今回のパーティは自クラスだけってのが納得できない」
「そうなの? でも、守結だったらパーティを組むぐらいなら簡単じゃない?」
「…………そうだけど、そうじゃない」
「なんなら、相手側から勧誘されるんじゃない?」
「ちがーう! そうじゃない! あーもう、考えるのやーめた」
守結の機嫌は、突風のように吹き荒れては流れるままに収まった。
顔が見えないため表情から察することは叶わず。
この一連の流れにおいてわかったことは一つだけ。守結と光崎生徒会長は相容れないということ。
「じゃあ、収まったようだし部屋に戻るね」
「あっ、そういえばしーくんは今回のパーティはどうするの? もしかして参加しないとか? ……やっぱり、メンバーが集まらないよね……」
「それがね、集まったんだよね」
「え?」
「いや、何その顔。今自分で質問したでしょ」
その一言と同時に振り返った守結の顔は、かなり失礼だけどマヌケなものだった。
いつもの可憐な笑顔が似合う顔からは程遠く、目を点にして口を半分だけポカンと開けたまま。
たぶん質問の時、守結の声色は暗かった。特に最後の方。
その懸念は正しい。以前の学園であれば、成績を左右する行事において不遇職であるアコライトを率先してパーティに加えようとする人は、まずいない。最後の人数合わせにしか考えられない。
だから、もしかしたら人数合わせにすら誘われず参加することも叶わなかったはずだ。
一応、学事祭は強制参加ではない。
参加を辞退する生徒に対する救済処置もあり、補填もある。
だけど、参加することによってのデメリットが少ないのもまた事実。
半身だけで顔を覗かせていた守結は、ソファーに乗り上げて体もこちらへ向け質問を続ける。
「聞き間違いじゃなかったら、今、集まったって言った!? え、もう!?」
「うん、間違いじゃないよ」
「うっそーん?! 今朝、通達があったばっかりだよね。え、え、え、私なんて今日一日誰からもお誘いがなかったよ!!!!」
「え、そうなの?」
「うんうんうん。ほえー、しーくんも隅に置けないなぁ~。やりなすなぁ~」
右手で口元を隠しつつも「にししっ」と口角を上げ、左の肘をクイクイと突き出して「このこの~」と添えている。
僕をからかっているというのがあからさまにわかるその言動。確実に楽しんでいる。
その姿勢を崩すことなく、質問が続く。
「男かぁ、男なのかぁ~? 新しい友達ができたというのなら、私にも紹介してね。お家に遊びに来ちゃったり!? お姉ちゃんが腕によりをかけて料理を――」
「うん、男子一人、女子二人で計8人になったよ」
「は……い?」
「ん? だから、まさかのフルパーティになったんだ」
「……め……だめ……」
「ん? なんて?」
守結らしからぬ小声だったため、一歩近づいて聞き返す。
「だーーーーめーーーー!!!! お家に呼ぶのは許しません! お、おおおお女の子がパーティに5人も!!?? あああああ、だめ、そんなのだめ……だめ……」
「え、え? ど、どうしたの急に」
「ええ、そんなのお姉ちゃんは許しません……許しません……許しま……」
守結は「だめ」と「許しません」を繰り返しながら体から空気が抜けたいくとうに力が抜けていき、しおしおになっていった。
外であれば体を受け止めるところだけど、ソファーの上だしその初めて見る珍しい光景を見届ける。
たぶん、日頃の疲れが爆発してしまったのだろう。だったら、このままソファーで休ませておいた方がいい。
さっき話した限りでは隊長に問題はなさそうだし、掘り返すと話が長くなりそうだからせっかくだしこのまま休んでもらおう。
僕もやりたいことがあるし、時間が惜しい。
そうともなればいてもたってもいられない。クルリと反転した後、守結を居間へ置きざりにして急ぎ足で自室へ向かった。
帰宅早々、玄関で靴を脱ぎ始めてる最中、居間の方からそんな声が鳴り響いた。
気の緩んでいるところにそんな声が聞こえれば、自室より声の方へ向かうのが当然。
「それで、どうしたの」
「あっ……聞こえちゃった……?」
「そりゃあ、ね。それで、何かあったの?」
「何かも何も、大ありっ! なんなの今回やる学事祭ー!」
居間へ入ると、守結《まゆ》がぷんすかと地団駄を踏みながら怒り散らかしている。
小さい子供の怒り方そのもので、その様は見ててクスリと笑みを零してしまう。
ハッとすぐ我に返るも、既に背中を向けてソファーにヒップドロップをしてくれていたおかげで怒りの矛先を向けられずに済んだ。
「それに、全校集会でも詳細通達でもそうだし、なんであんな感じなのー!」
「まあまあ落ち着いて」
たしかに、守結《まゆ》の言い分はわかる。
僕から見ても自由奔放な面が際立っていた。
そんな光崎《こうざき》生徒会長に対して、几帳面な守結。両極端な2人はきっと相容れないのだろう。
だとしても、余程のことがない限りは矛先が向かないだろうけど……。
「それで、何がそんなに不服なの?」
「良くぞ訊いてくれたっ! ――といっても、そんなに怒ってるわけじゃないんだけどね」
「そ、そうなんだ?」
誰が見ても怒ってたようにしか見えないと思うんだけど……。
楓《かえで》と椿《つばき》がこの場に出くわしたならば、間違いなく関りを避けて逃げ出していただろう。
「あーあ、今回のパーティは自クラスだけってのが納得できない」
「そうなの? でも、守結だったらパーティを組むぐらいなら簡単じゃない?」
「…………そうだけど、そうじゃない」
「なんなら、相手側から勧誘されるんじゃない?」
「ちがーう! そうじゃない! あーもう、考えるのやーめた」
守結の機嫌は、突風のように吹き荒れては流れるままに収まった。
顔が見えないため表情から察することは叶わず。
この一連の流れにおいてわかったことは一つだけ。守結と光崎生徒会長は相容れないということ。
「じゃあ、収まったようだし部屋に戻るね」
「あっ、そういえばしーくんは今回のパーティはどうするの? もしかして参加しないとか? ……やっぱり、メンバーが集まらないよね……」
「それがね、集まったんだよね」
「え?」
「いや、何その顔。今自分で質問したでしょ」
その一言と同時に振り返った守結の顔は、かなり失礼だけどマヌケなものだった。
いつもの可憐な笑顔が似合う顔からは程遠く、目を点にして口を半分だけポカンと開けたまま。
たぶん質問の時、守結の声色は暗かった。特に最後の方。
その懸念は正しい。以前の学園であれば、成績を左右する行事において不遇職であるアコライトを率先してパーティに加えようとする人は、まずいない。最後の人数合わせにしか考えられない。
だから、もしかしたら人数合わせにすら誘われず参加することも叶わなかったはずだ。
一応、学事祭は強制参加ではない。
参加を辞退する生徒に対する救済処置もあり、補填もある。
だけど、参加することによってのデメリットが少ないのもまた事実。
半身だけで顔を覗かせていた守結は、ソファーに乗り上げて体もこちらへ向け質問を続ける。
「聞き間違いじゃなかったら、今、集まったって言った!? え、もう!?」
「うん、間違いじゃないよ」
「うっそーん?! 今朝、通達があったばっかりだよね。え、え、え、私なんて今日一日誰からもお誘いがなかったよ!!!!」
「え、そうなの?」
「うんうんうん。ほえー、しーくんも隅に置けないなぁ~。やりなすなぁ~」
右手で口元を隠しつつも「にししっ」と口角を上げ、左の肘をクイクイと突き出して「このこの~」と添えている。
僕をからかっているというのがあからさまにわかるその言動。確実に楽しんでいる。
その姿勢を崩すことなく、質問が続く。
「男かぁ、男なのかぁ~? 新しい友達ができたというのなら、私にも紹介してね。お家に遊びに来ちゃったり!? お姉ちゃんが腕によりをかけて料理を――」
「うん、男子一人、女子二人で計8人になったよ」
「は……い?」
「ん? だから、まさかのフルパーティになったんだ」
「……め……だめ……」
「ん? なんて?」
守結らしからぬ小声だったため、一歩近づいて聞き返す。
「だーーーーめーーーー!!!! お家に呼ぶのは許しません! お、おおおお女の子がパーティに5人も!!?? あああああ、だめ、そんなのだめ……だめ……」
「え、え? ど、どうしたの急に」
「ええ、そんなのお姉ちゃんは許しません……許しません……許しま……」
守結は「だめ」と「許しません」を繰り返しながら体から空気が抜けたいくとうに力が抜けていき、しおしおになっていった。
外であれば体を受け止めるところだけど、ソファーの上だしその初めて見る珍しい光景を見届ける。
たぶん、日頃の疲れが爆発してしまったのだろう。だったら、このままソファーで休ませておいた方がいい。
さっき話した限りでは隊長に問題はなさそうだし、掘り返すと話が長くなりそうだからせっかくだしこのまま休んでもらおう。
僕もやりたいことがあるし、時間が惜しい。
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