50 / 129
第一章
第3話『新たなパーティメンバー』
しおりを挟む
学事祭のパーティ参加条件としてフルメンバーというのがあった。
パーティを組む場合、自クラスというのもある。つまり、今回は守結《まゆ》たちと一緒にというわけにはいかない。
発表があったのは今日だったとしても、できるだけ早く編成終了して連携力を高めたいところ。
昼休み、教室で昼食を摂りながらの雑談をしていた。
そんな折、僕、桐吾《とうご》、結月《ゆづき》、美咲《みさき》、彩夏《さやか》は全員がいつもより少し暗い雰囲気で話をしている。
そして、僕は本題を切り出した。
「たぶん、僕が考えていることはみんなも同じだと思う。このままだと、僕たちはパーティ申請ができない。だから、なんとしてでもメンバーを集めないといけない」
「そうだね、最低でも後1人が必要だね」
「いやーっ、勧誘かぁ。私、そういうの苦手なんだよねぇ」
「うん……私も得意な方ではない、かな」
美咲《みさき》と彩夏《さやか》のやりとりは耳が痛すぎる。
正直、由々しき事態に陥ってしまっているかもしれない。
他のみんなが苦手というならば、転校してきたばかりの僕ができるはずがない。
そうでないとしても、僕だって勧誘が得意ではない。顔見知りなら兎も角、こんな状況ではお手上げだ。
希望の星とも言える結月《ゆづき》に彩夏《さやか》が話題を振る。
「うーん、困ったねー。困ったねー。あ、結月《ゆづき》ならできるんじゃない? いや、この中では断トツに――」
「いやー、私も無理無理ー。なんでかって言うのは、志信《しのぶ》も同じ理由なんでしょ?」
「うっ、うん」
まるで見透かされていたかのような回答に言葉が詰まってしまう。
他は顔馴染み同士でパーティを組んでいるのは容易に予想ができる。
僕を除く各々も、どこかのパーティに加入するのであれば、そこまで難しくは無いだろう。
そんなことを考えていても意味がないのはわかっている。でも、こんなお手上げな状況に打開策を打ち出すことが出来ない。
全員が頭を悩ませていると、
「なあ……偶然聞こえちまったんだけど、メンバーを探してんの?」
「……え? うん」
「ああ、ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだが」
そこには、右手を首の後ろに回して申し訳なさそうにしている一樹《かずき》の姿があった。
「そこで、だ。俺も偶然とパーティを探していて、もし良かったらでいいんだけど……いや、俺をパーティに入れてほしい!」
一樹《かずき》はそう言いながら頭を下げ始めた。
それを見て、僕は戸惑いを隠せず目を見開いてみんなの方へ視線を向ける……と、みんなも大体同じ反応を示している。
視線を戻しても尚、頭を下げたままの一樹。
どうやらこの状況下で僕が判断を下し、それを言葉にしないといけないらしい。
……冷静に考えれば、断る理由があるのか?
僕たちは今まさに人手を探している。更には初対面でもない。今日話したばかりではあるけど、かなりの好印象だった。
これぞ千載一遇の機会と捉えず何と取るか。
「うん、わかった。僕からもお願いするよ、よろしく」
「お……おお! 本当か! 本当なのか! よっしゃー、よろしくな!」
返答を聞いた一樹は、下げていた頭をサッと戻してガッツポーズを取り始めた。……と、思ったらすぐに和らかい表情に戻って自己紹介を始めようとした時だった。
「改めて自己紹介を――」
「あ、あの! ちょっといいですか!」
一樹の話をバッサリと断ち切るように声が割り込んできた。
この場の全員から一身に視線を集めたのは、2人の少女。
体力測定のとき、謝罪の言葉を叫んでいた長月《ながつき》さん。と、もう1人。
第一声こそ声量はあったものの、続く声は雑音にかき消されそうなほど小さかった。
「あの、話してるところに割って入ってごめんなさい。パーティのことでお願いがあって――」
「あー、ごめんね。流れに水を差して悪いんだけど、パーティ編成にあたって人数不足っていうのが聞こえちゃってさ。……つまり、もしよかったら私たちもパーティに加えてくれないかなって話なんだけど」
と、長月さんの話をこれまたバッサリと切ったのは隣の彼女。
顔自体は見たことがあるけど、あの時謝られていた側の人とは違う髪型をしている。記憶が正しければ肩にかかるぐらいだったはずだけど、今目の前にいる彼女は背中まで艶のある黒髪を伸ばしている。
だがしかし、同じクラスメイトというだけで話したこともなく、本当に顔を見たことがある程度でしかない。
現状、彼女たちをパーティに加えれば8人のフルパーティを編成できる。
それは、願ったり叶ったりではあるけど、今日が初めましてという人を加えるのに抵抗がないと言えば噓になる。
誰かに助け舟を出そうと目線を配らせるも、一樹の時同様で、「志信が決めて」という無言のメッセージを訴えてくるのみ。
ええい、背に腹は代えられない。なるようにしかならない!
「うん、じゃあ2人ともよろしく」
「ほ、本当にー!? 私なんかがいて了承してくれるな――」
「ありがとう。じゃあまずは自己紹介をしておくね。私は香野《こうの》叶《かなえ》。そして、こっちが長月《ながつき》一華《いちか》だよ。私は叶《かなえ》、こっちも一華《いちか》って呼んでね」
右足重心で腰に手を当てて、これまた一華の話をバッサリと斬ってしまう叶。
自分の番を強制的に奪われたのを受け入れがたいのか、口をパクパクさせてオロオロとしている。
あまりにも自然な流れすぎて、まるで何かのお笑い的なノリなのか、それともこれが日常的なのか違うのか。色々と考察はできるけど、このてんやわんやな感じだけでは何とも判断が付かない。
それでも、この流れを止めてしまってはもったいないから、気にせず流れに乗ることにした。
「う、うんよろしくね。僕のことも志信《しのぶ》で大丈夫」
「僕も同じく桐吾《とうご》で」
「じゃあ俺も一樹《かずき》でよろしくっ!」
「お好きなようにどうぞー」
「私も彩夏《さやか》でよっろしく!」
「私も美咲《みさき》でいいわ、よろしくね」
そういえば、忘れていたけど一樹の自己紹介もバッサリといかれていたような気がする。
何事も無かったかのように乗ってくれているのは、ノリがいいのか特に気にしてないのか。
少なくとも表情に出てないということは、そこまで悪くは思っていないのだろう。
「ちょ、ちょっともー! 私にも喋らせて―!」
途中で自分の台詞をとられた一華は、顔をぷんぷんさせて両腕を曲げ伸ばして声を大きく抗議開始。
だけど、本人の顔の赤さとは裏腹に、この場の雰囲気は一気に明るくなり笑顔が沸き起こった。
これで一安心。この調子なら、今日の放課後にはメンバー申請が可能だ。
パーティを組む場合、自クラスというのもある。つまり、今回は守結《まゆ》たちと一緒にというわけにはいかない。
発表があったのは今日だったとしても、できるだけ早く編成終了して連携力を高めたいところ。
昼休み、教室で昼食を摂りながらの雑談をしていた。
そんな折、僕、桐吾《とうご》、結月《ゆづき》、美咲《みさき》、彩夏《さやか》は全員がいつもより少し暗い雰囲気で話をしている。
そして、僕は本題を切り出した。
「たぶん、僕が考えていることはみんなも同じだと思う。このままだと、僕たちはパーティ申請ができない。だから、なんとしてでもメンバーを集めないといけない」
「そうだね、最低でも後1人が必要だね」
「いやーっ、勧誘かぁ。私、そういうの苦手なんだよねぇ」
「うん……私も得意な方ではない、かな」
美咲《みさき》と彩夏《さやか》のやりとりは耳が痛すぎる。
正直、由々しき事態に陥ってしまっているかもしれない。
他のみんなが苦手というならば、転校してきたばかりの僕ができるはずがない。
そうでないとしても、僕だって勧誘が得意ではない。顔見知りなら兎も角、こんな状況ではお手上げだ。
希望の星とも言える結月《ゆづき》に彩夏《さやか》が話題を振る。
「うーん、困ったねー。困ったねー。あ、結月《ゆづき》ならできるんじゃない? いや、この中では断トツに――」
「いやー、私も無理無理ー。なんでかって言うのは、志信《しのぶ》も同じ理由なんでしょ?」
「うっ、うん」
まるで見透かされていたかのような回答に言葉が詰まってしまう。
他は顔馴染み同士でパーティを組んでいるのは容易に予想ができる。
僕を除く各々も、どこかのパーティに加入するのであれば、そこまで難しくは無いだろう。
そんなことを考えていても意味がないのはわかっている。でも、こんなお手上げな状況に打開策を打ち出すことが出来ない。
全員が頭を悩ませていると、
「なあ……偶然聞こえちまったんだけど、メンバーを探してんの?」
「……え? うん」
「ああ、ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだが」
そこには、右手を首の後ろに回して申し訳なさそうにしている一樹《かずき》の姿があった。
「そこで、だ。俺も偶然とパーティを探していて、もし良かったらでいいんだけど……いや、俺をパーティに入れてほしい!」
一樹《かずき》はそう言いながら頭を下げ始めた。
それを見て、僕は戸惑いを隠せず目を見開いてみんなの方へ視線を向ける……と、みんなも大体同じ反応を示している。
視線を戻しても尚、頭を下げたままの一樹。
どうやらこの状況下で僕が判断を下し、それを言葉にしないといけないらしい。
……冷静に考えれば、断る理由があるのか?
僕たちは今まさに人手を探している。更には初対面でもない。今日話したばかりではあるけど、かなりの好印象だった。
これぞ千載一遇の機会と捉えず何と取るか。
「うん、わかった。僕からもお願いするよ、よろしく」
「お……おお! 本当か! 本当なのか! よっしゃー、よろしくな!」
返答を聞いた一樹は、下げていた頭をサッと戻してガッツポーズを取り始めた。……と、思ったらすぐに和らかい表情に戻って自己紹介を始めようとした時だった。
「改めて自己紹介を――」
「あ、あの! ちょっといいですか!」
一樹の話をバッサリと断ち切るように声が割り込んできた。
この場の全員から一身に視線を集めたのは、2人の少女。
体力測定のとき、謝罪の言葉を叫んでいた長月《ながつき》さん。と、もう1人。
第一声こそ声量はあったものの、続く声は雑音にかき消されそうなほど小さかった。
「あの、話してるところに割って入ってごめんなさい。パーティのことでお願いがあって――」
「あー、ごめんね。流れに水を差して悪いんだけど、パーティ編成にあたって人数不足っていうのが聞こえちゃってさ。……つまり、もしよかったら私たちもパーティに加えてくれないかなって話なんだけど」
と、長月さんの話をこれまたバッサリと切ったのは隣の彼女。
顔自体は見たことがあるけど、あの時謝られていた側の人とは違う髪型をしている。記憶が正しければ肩にかかるぐらいだったはずだけど、今目の前にいる彼女は背中まで艶のある黒髪を伸ばしている。
だがしかし、同じクラスメイトというだけで話したこともなく、本当に顔を見たことがある程度でしかない。
現状、彼女たちをパーティに加えれば8人のフルパーティを編成できる。
それは、願ったり叶ったりではあるけど、今日が初めましてという人を加えるのに抵抗がないと言えば噓になる。
誰かに助け舟を出そうと目線を配らせるも、一樹の時同様で、「志信が決めて」という無言のメッセージを訴えてくるのみ。
ええい、背に腹は代えられない。なるようにしかならない!
「うん、じゃあ2人ともよろしく」
「ほ、本当にー!? 私なんかがいて了承してくれるな――」
「ありがとう。じゃあまずは自己紹介をしておくね。私は香野《こうの》叶《かなえ》。そして、こっちが長月《ながつき》一華《いちか》だよ。私は叶《かなえ》、こっちも一華《いちか》って呼んでね」
右足重心で腰に手を当てて、これまた一華の話をバッサリと斬ってしまう叶。
自分の番を強制的に奪われたのを受け入れがたいのか、口をパクパクさせてオロオロとしている。
あまりにも自然な流れすぎて、まるで何かのお笑い的なノリなのか、それともこれが日常的なのか違うのか。色々と考察はできるけど、このてんやわんやな感じだけでは何とも判断が付かない。
それでも、この流れを止めてしまってはもったいないから、気にせず流れに乗ることにした。
「う、うんよろしくね。僕のことも志信《しのぶ》で大丈夫」
「僕も同じく桐吾《とうご》で」
「じゃあ俺も一樹《かずき》でよろしくっ!」
「お好きなようにどうぞー」
「私も彩夏《さやか》でよっろしく!」
「私も美咲《みさき》でいいわ、よろしくね」
そういえば、忘れていたけど一樹の自己紹介もバッサリといかれていたような気がする。
何事も無かったかのように乗ってくれているのは、ノリがいいのか特に気にしてないのか。
少なくとも表情に出てないということは、そこまで悪くは思っていないのだろう。
「ちょ、ちょっともー! 私にも喋らせて―!」
途中で自分の台詞をとられた一華は、顔をぷんぷんさせて両腕を曲げ伸ばして声を大きく抗議開始。
だけど、本人の顔の赤さとは裏腹に、この場の雰囲気は一気に明るくなり笑顔が沸き起こった。
これで一安心。この調子なら、今日の放課後にはメンバー申請が可能だ。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。


【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。


【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる