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第五章
第39話『本性と思惑』
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◇
「ふむ……撤退、ですか。悪くない判断ですね。もう少し見ていたかったですが……」
「いい状況判断ですね」
「そうですね……ですが、僕的にはもっと――いやいや、これは失礼」
夢中に話す源藤さんは、先生の苛立ちを込めた視線に気づいて謝罪を述べた。
それもそのはず。
今回の演習も源藤さんの介入があってのものであり、カリキュラムにもない。
「海原《かいはら》先生、冒険者として必要な素質とはなんでしょう」
「……それは、どういう意味合いでしょうか」
源藤さんからの質問。
その質問は、海原先生をまさか教師と知らずに質問しているわけでもあるまい。
不可解な質問に対して、海原先生は再度聞き直した。
「私を教師と知っての質問ですか?」
「ああ――大丈夫ですよ。わかってますから」
「…………さすが、と言いますか。そうですか、わかりました」
先生は天を仰いで、深く息を吸い込んで軽い吐いた。
「私が思うに、勝利への渇望――挑戦。枯れることのない探求心――冒険。それらがなければ、冒険者として……いや、冒険者を名乗れないでしょう。――そう、今の彼らのように」
「素晴らしい、素晴らしいですね。そういう解答が欲しかったのですよ。流石ですね、泰斗さん」
「……あまり、下の名前で呼ばれたくはないのですがね」
「あっはは、これは失礼致しました」
源藤さんは片手をお腹に添えて一礼をした。
そして、顔を上げるなり話を再開。
「それにしても、素晴らしい生徒さんをお持ちになりましたね」
「……そうですね。本当にありがたいことです」
このとき、先生はある点について疑問に思うことがあった。
でもここでその話を深堀しても仕方がない。
話が一旦途切れ、再び視線を戻すと――。
「おお、おお! なんと! 素晴らしい! 素晴らしいですよ!」
源藤さんの嬉々とした声を耳に、最も懸念していたことが起きてしまった。
「そうですよ。そうでなくちゃあ面白くない。――次は、次は何をするんですか!」
まるで子供のようにはしゃぎだす源藤さん。
その姿を見るに、先生はこう思った――『やはりこの人は壊れている』、と。
想定していた最悪の状況に固唾を飲むことしかできない。
隣にいる壊れた人のように楽しむことなんてできない。
自分の生徒が危機的状況と直面しているなか、誰が笑顔を向けて見ていられるというのだろうか。
今すぐに中止にしたい――今すぐに助けにいきたい――そう思うのが普通ではないか。
「ここは一旦――」
と、先生は振り向いて中止の提案しようとしたが、
「ダメですよ。ダメに決まってるじゃないですか――先生」
落ち着いた冷たい声色が耳まで届く。
先ほどまでの無邪気さはなく、酷く落ち着いた声と殺意を匂わせる鋭い目線。
その圧を目の前に、思わず「はい……」と即答する他なかった。
血の気は一気に引いていき、背中に冷たい汗が流れ始め、まるで従わなければいけないと、体が訴えかけてきているかのように。
「……わかりました」
「わかってくれればそれでいいんです。じゃあ……この素晴らしい戦いを最後まで見届けましょう!」
「ふむ……撤退、ですか。悪くない判断ですね。もう少し見ていたかったですが……」
「いい状況判断ですね」
「そうですね……ですが、僕的にはもっと――いやいや、これは失礼」
夢中に話す源藤さんは、先生の苛立ちを込めた視線に気づいて謝罪を述べた。
それもそのはず。
今回の演習も源藤さんの介入があってのものであり、カリキュラムにもない。
「海原《かいはら》先生、冒険者として必要な素質とはなんでしょう」
「……それは、どういう意味合いでしょうか」
源藤さんからの質問。
その質問は、海原先生をまさか教師と知らずに質問しているわけでもあるまい。
不可解な質問に対して、海原先生は再度聞き直した。
「私を教師と知っての質問ですか?」
「ああ――大丈夫ですよ。わかってますから」
「…………さすが、と言いますか。そうですか、わかりました」
先生は天を仰いで、深く息を吸い込んで軽い吐いた。
「私が思うに、勝利への渇望――挑戦。枯れることのない探求心――冒険。それらがなければ、冒険者として……いや、冒険者を名乗れないでしょう。――そう、今の彼らのように」
「素晴らしい、素晴らしいですね。そういう解答が欲しかったのですよ。流石ですね、泰斗さん」
「……あまり、下の名前で呼ばれたくはないのですがね」
「あっはは、これは失礼致しました」
源藤さんは片手をお腹に添えて一礼をした。
そして、顔を上げるなり話を再開。
「それにしても、素晴らしい生徒さんをお持ちになりましたね」
「……そうですね。本当にありがたいことです」
このとき、先生はある点について疑問に思うことがあった。
でもここでその話を深堀しても仕方がない。
話が一旦途切れ、再び視線を戻すと――。
「おお、おお! なんと! 素晴らしい! 素晴らしいですよ!」
源藤さんの嬉々とした声を耳に、最も懸念していたことが起きてしまった。
「そうですよ。そうでなくちゃあ面白くない。――次は、次は何をするんですか!」
まるで子供のようにはしゃぎだす源藤さん。
その姿を見るに、先生はこう思った――『やはりこの人は壊れている』、と。
想定していた最悪の状況に固唾を飲むことしかできない。
隣にいる壊れた人のように楽しむことなんてできない。
自分の生徒が危機的状況と直面しているなか、誰が笑顔を向けて見ていられるというのだろうか。
今すぐに中止にしたい――今すぐに助けにいきたい――そう思うのが普通ではないか。
「ここは一旦――」
と、先生は振り向いて中止の提案しようとしたが、
「ダメですよ。ダメに決まってるじゃないですか――先生」
落ち着いた冷たい声色が耳まで届く。
先ほどまでの無邪気さはなく、酷く落ち着いた声と殺意を匂わせる鋭い目線。
その圧を目の前に、思わず「はい……」と即答する他なかった。
血の気は一気に引いていき、背中に冷たい汗が流れ始め、まるで従わなければいけないと、体が訴えかけてきているかのように。
「……わかりました」
「わかってくれればそれでいいんです。じゃあ……この素晴らしい戦いを最後まで見届けましょう!」
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