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第四章

第37話『もつれ込む戦線』

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 ――その一撃は完全に不意打ちだった。
 叫び声もダメージを食らったような声も聞こえてこない。
 そして、なにより悪い状況だと思ったのは……あちらの様子が伺えないということだ。

康太こうた!」
「おうよ、【プロボーク】」

 今この状況で最善を尽くすとすれば、再びヘイト管理を行うこと。
 康太《こうた》もそのように判断していたようで、対応までの時間に隙はなかった。
 ヘイト管理スキルをかけられたレンジャーラットは、じりじりと顔を康太の方へ引き寄せられている。

(……なんだあれは? 強制力のあるはずのスキルに対して、抵抗している……?)
「――くん、志信しのぶくん! ど、どうしよう!」

 美咲みさきの動揺した投げかけで、目の前の状況に再び意識を戻す。

「う、うん。まずは……そうだ。守結まゆ結月ゆづき桐吾とうご!」
「はいはーい!」
「大丈夫だよーん」
「問題ないよ!」

 3人の安否は問題なさそうだ。

「よかったぁ……」

 返答を聞いた美咲みさきはほっと一息ついている。

 さっきのはなんだ……?
 たぶん、康太も同じことを考えているに違いない。
 防御――今までなかった行動。それに明らかな拒絶反応。
 今考えられるのは二パターン。
 先ほどの行動から、ヘイト管理スキルからの解除方法があり、それを自ら行うことができること。
 もう一つは、スキルの効力がある時間が圧倒的に短いか……。

「なっ⁉」

 康太のその声と同時に、再び背後から攻撃している3人に反撃を繰り出している。
 今度は、あの縮こまる行動をとっていない。
 ……だとすれば、後者の可能性が非常に高いはずだ。

「康太、スキルを回して!」
「おうよっ、そういう感じか!」

 あの様子を察するに、康太も同じ選択肢を出していたようだ。
 【プロボーク】【インサイト】のヘイト管理スキルを、ヘイト管理から外れるタイミングで交互にかける――これでいけるはずだ。

 安心するには未だ遠く、レンジャーラットの耐久力にも目を見張るものがある。
 ソルジャーラットと違い、取り巻きの増援など妨害がないなか、言うならば集中砲火されているのに、未だ討伐できない。
 一つだけ救いがあるとすれば、魔法スキルを行動妨害メインで使えていることだけだ。

「うっぐっ」
「美咲、今回は回復多めにしないとまずい」
「えっ、でもそれだとあいつがこっちに来ちゃうんじゃないの?」
「今回は、もうそこら辺は気にしなくて大丈夫。みんなの回復に集中していいよ」
「うん。わかった」

 康太は以前のような回避や攻撃の受け流しができてない。
 時折攻撃を真正面から受け止めてしまっている。
 ヘイト管理に集中し過ぎて、いつも通りにできていないようだ。
 それに、今の背面側にいる3人の様子もわからない。
 先ほどの数回に渡る振り返りざまの攻撃を、完璧に回避できていれば回復する必要もない。
 だけどそもそも回復スキルは、視界に入っていない人を回復することができない――という一面もある。

 そして、今一番懸念していることがある。
 それは、今【フィジックバリア】が再使用までの時間が空いてしまっているということ。
 この状態で、康太が攻撃を回避せずに今日攻撃を防御してしまったら、もしかしたら……。

『ジァァァァア!!!!』
「――――うっ、ぐはっ!」

 想定しているなかで、一番の最悪なことが起きてしまった……。
 レンジャーラットの最上段から強攻撃――それを、康太は防御スキルを使用してその攻撃を防いでしまった。

 その行動の行き着く先は――。

「康太!!!!」

 ――戦闘不能。
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