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第四章
第34話『時間稼ぎ』
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急を要する――出し渋っている場合じゃない。
両手の装備を両盾に変更。
あちらは合間を詰めてくる様子はなく、一歩一歩とゆっくりと確実に足を進めてきている。
もしかしたら、このまま手を出さなければ先に逃げていったパーティを追いかけていくかもしれない。
でも、もしその予測が外れて、戦闘中のこちらに攻撃を仕掛けてこられては全てがおしまいだ。
……なら、今は僕が行くしかない。
「【ディフェイズ】【ハームス】【ムーブサポート】【フィジックバリア】」
防御、補助、無効のスキルを自分に発動させる。
準備は整った。
「よし、来いっ!」
『ジイィィッィィィ』
低温で響く声は体の芯まで届く。
進める足を止め、僕を真っ直ぐと見定めているようだ。
――赤光しているような目と目が合い、息を呑む。
『シャァァァァア!』
その長口を半開きにして特徴的な前歯を剥きだしながら、こちらに向かってくる。
僕も、その前進に合わせて前へ進み合間を詰める。
初撃――予想通りで右手に持つ長剣を上段から叩きつけてきた。このまま駆ける足を止めることなく、右に駆けて抜けて背後に回り込む。
よし、ここまでは順調。
だが、レンジャーラットは振り返り様に直剣を横一線に払ってきた。
予想外の攻撃だったけど、いつもの要領でバックステップで回避しようとした――。
「なっ⁉」
――予想を大きく上回る攻撃の伸びに驚きを隠せなかった。
宙に浮いている体を動かすことはできない。
唯一動かせる右手の盾を攻撃に合わせて【ブロッキング】を使用して防御、そのまま剣の軌道上に体が吹き飛ばされてしまった。
気持ちのよい着地は叶わず、床に数度打ち付けられて転がり込んだ。
「う……ぐはっ」
あまりの痛みにうめき声を零すことしかできない。
幸いにも、一番の衝撃を受けるであろう着地はスキルのおかげで無効化されたようだ。
一撃でこの威力……もしも攻撃が直撃すれば一撃で戦闘不能になる。
ゆっくりと近づく足音に気を持ち直し、体をゆっくりと起こす。
「【インスタントヒール】【クイックヒール】【ファストヒール】【フィウヒール】。よし………動けるっ!」
全て回復量が大きいスキルではなく、その量は極めて少ない。
でも、全て即時発動や発動がかなり早いことから、この状況には丁度いい。
『ジャァァァァア!』
もはや直剣を武器として扱うというよりは、力任せに振るうための棒みたいな道具のように振るう粗雑な攻撃。
そのはずなのに、身長や腕の長さから伸びるような攻撃は、間合いがいつものモンスターとはわけが違う。
近づくことなく、相手の足運びと剣の軌道を見極めるしかない!
二撃、三撃と続く攻撃。
【フィジックバリア】の再使用まで時間がある。つまり、一撃も当たるわけにはいかない。
辛うじて攻撃と攻撃の間隔は長い。
今のところ時間稼ぎとしての役は果たせているだろう――でも、長くはもたない。
「ったぁぁぁぁー!」
レンジャーラットの背後から声が聞こえてきた。
それと同じく、レンジャーラットが小さく一度体を震わせた。まるで背中から小突かれたように。
「志信! 大丈夫⁉」
「しーくん! 大丈夫⁉」
声の主は守結と結月だった。ということは……
「もう一撃!」
「「任っかせてー!」」
もう一度怯んだ隙を狙って、僕は全力で駆け出した。
レンジャーラットに視線を送ると、想定通りに反応を遅らせている。
「全員――撤退!」
両手の装備を両盾に変更。
あちらは合間を詰めてくる様子はなく、一歩一歩とゆっくりと確実に足を進めてきている。
もしかしたら、このまま手を出さなければ先に逃げていったパーティを追いかけていくかもしれない。
でも、もしその予測が外れて、戦闘中のこちらに攻撃を仕掛けてこられては全てがおしまいだ。
……なら、今は僕が行くしかない。
「【ディフェイズ】【ハームス】【ムーブサポート】【フィジックバリア】」
防御、補助、無効のスキルを自分に発動させる。
準備は整った。
「よし、来いっ!」
『ジイィィッィィィ』
低温で響く声は体の芯まで届く。
進める足を止め、僕を真っ直ぐと見定めているようだ。
――赤光しているような目と目が合い、息を呑む。
『シャァァァァア!』
その長口を半開きにして特徴的な前歯を剥きだしながら、こちらに向かってくる。
僕も、その前進に合わせて前へ進み合間を詰める。
初撃――予想通りで右手に持つ長剣を上段から叩きつけてきた。このまま駆ける足を止めることなく、右に駆けて抜けて背後に回り込む。
よし、ここまでは順調。
だが、レンジャーラットは振り返り様に直剣を横一線に払ってきた。
予想外の攻撃だったけど、いつもの要領でバックステップで回避しようとした――。
「なっ⁉」
――予想を大きく上回る攻撃の伸びに驚きを隠せなかった。
宙に浮いている体を動かすことはできない。
唯一動かせる右手の盾を攻撃に合わせて【ブロッキング】を使用して防御、そのまま剣の軌道上に体が吹き飛ばされてしまった。
気持ちのよい着地は叶わず、床に数度打ち付けられて転がり込んだ。
「う……ぐはっ」
あまりの痛みにうめき声を零すことしかできない。
幸いにも、一番の衝撃を受けるであろう着地はスキルのおかげで無効化されたようだ。
一撃でこの威力……もしも攻撃が直撃すれば一撃で戦闘不能になる。
ゆっくりと近づく足音に気を持ち直し、体をゆっくりと起こす。
「【インスタントヒール】【クイックヒール】【ファストヒール】【フィウヒール】。よし………動けるっ!」
全て回復量が大きいスキルではなく、その量は極めて少ない。
でも、全て即時発動や発動がかなり早いことから、この状況には丁度いい。
『ジャァァァァア!』
もはや直剣を武器として扱うというよりは、力任せに振るうための棒みたいな道具のように振るう粗雑な攻撃。
そのはずなのに、身長や腕の長さから伸びるような攻撃は、間合いがいつものモンスターとはわけが違う。
近づくことなく、相手の足運びと剣の軌道を見極めるしかない!
二撃、三撃と続く攻撃。
【フィジックバリア】の再使用まで時間がある。つまり、一撃も当たるわけにはいかない。
辛うじて攻撃と攻撃の間隔は長い。
今のところ時間稼ぎとしての役は果たせているだろう――でも、長くはもたない。
「ったぁぁぁぁー!」
レンジャーラットの背後から声が聞こえてきた。
それと同じく、レンジャーラットが小さく一度体を震わせた。まるで背中から小突かれたように。
「志信! 大丈夫⁉」
「しーくん! 大丈夫⁉」
声の主は守結と結月だった。ということは……
「もう一撃!」
「「任っかせてー!」」
もう一度怯んだ隙を狙って、僕は全力で駆け出した。
レンジャーラットに視線を送ると、想定通りに反応を遅らせている。
「全員――撤退!」
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