転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

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第三章

第22話『嵐のような重圧は過ぎ去り』

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 固唾を飲む状況が続いているなか、海原かいはら先生と大曲戸おおまがと先生は緊急終了をするべきか決めあぐねていた。
 教師たる者、教え子たちが危険としかいえないことに挑んでいるのだから、それを止めるべきだということは十分に承知している。
 でも、それを行動に移せないでいるのは他でもない。後方で食い入るように相槌を打ち、生徒たちの動向を愉しんでいる人がいるからだ。

「ほう……ほうほう、へえ~」
「おぉ、これは愉快愉快」

 源藤げんどうさんは顎を指で触りながら、とても興味深そうに眺めている。
 明泰あきやす学園長は、扇子を畳み右肩を軽く叩きながら興味を示している。
 安全地帯の一角で、源藤げんどうさんの拍手が数回鳴った。

「素晴らしい、素晴らしいですね」
「いやはや、これは良いものを見ることができたのぉ」
「先生方、失礼ながらお聞かせください。彼らは何学年ですか?」
「私たちが担当しているのは二学年です」
「へぇ~、それは本当に凄い、凄いとしか言いようがないですね。先生の教えが素晴らしいから、ということですかね」

 海原かいはら先生は、返答に困ってしまった。
 この授業において、いや……映し出される情報だけ見るなら、その賞賛を素直に受け取ってもいいのかもしれない。
 でも、全体を見ればすぐにわかる。もう、僕たちのパーティしか残っていない。
 これを素晴らしい指導の結果。と、言うのならそれは、もはやただの皮肉でしかない。

「いえ……彼らが、彼らの努力が今の結果です。あの勇姿は、私の教えではありませんよ」
「……そうですか。でも、海原先生は素晴らしい教え子をお持ちになった。これからに期待していますよ」

 こんな短いやりとりのなかでも感じる重圧。それに耐えるだけでも汗が浮かび上がってきてしまい、いち早く目を背けたくなってしまう。
 そんなこんなしていると、

『よっしゃぁぁぁぁぁ!』

 その雄叫びに海原先生は振り向いた。
 そこには、見事ソルジャーラットを討伐した僕たちのパーティが映し出されていて、喜びを全力で表現する康太こうた
 それに続いて拍手が鳴った。源藤さんが爽やかな笑みを浮かべながら、お腹の前で拍手をしている。

「おぉ、これは――これは! すごい、すごいですね!」
「あーっはっは、宰治さいじが珍しくこんなに笑ったのなんて久しぶりに見たぞっ」
「だってすごいじゃないですか先生。こんな素晴らしい戦いはあそこでしか見れませんよ!」

 まるで新しい発見をした子供のように喜ぶ姿を見せられ、海原先生と大曲戸おおまがと先生は反応に困っていた。
 本来なら、自分たちも源藤さんみたいに大喜びを見せてハイタッチぐらいはしたいところだけど、こんな状況ではそんなことはできない。
 源藤さんは、かなり満足したように頬が緩めたまま話を続けた。

「本日はとても面白いものを観させていただきました。――では、これにて僕は退出させていただきます」

 軽い会釈を一度した源藤さんは、踵を返してゆったりとした歩調で背を向け歩き出した。

「あーこれこれ、待たんかー。あっ、先生方、速やかに授業を終了させてくださいね。彼らもきっと、へとへとでしょうから」

 それだけを言い残して、明泰あきやす学園長はこの場を後にした。
 2人の背中を見送った先生たちは、深く大きなため息を一つ吐いた。
 やっと肩の荷が下りた2人は、肩の力を抜いて話し始める。

「はぁ……海原先生は、あの2人がくるのを知ってました?」
「いえいえ、そんなまさか。私も驚きが隠せませんでしたよ……。ほら、証拠に私のおでこを見てくださいよ」
「あぁ……」

 大曲戸先生は、額にびっしょり濡れるほどの汗を見て察した。
 明泰学園長に関しては通常運行すぎて逆に怖かったと思っていたけど、隣にいる源藤げんどう宰治さいじという男はそこに居るだけで重圧を感じてしまう。
 あの人の前で失態や不祥事を起こせば、自分の職を失いかねない。そういった管理権限を持ち合わせている人なのだ。

 もう一度だけ一息吐いた後は、操作盤にて全てを元に戻し授業を終了させた。
 先にリタイアした生徒たちは、例外なく救護室へ直行済みなため、安全地帯に残っているのは先生たちだけ。

 この授業において、最後まで戦った僕たちの元へ足を進め始めた。
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