転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

文字の大きさ
上 下
22 / 129
第三章

第21話『ソルジャーラット、討伐完了』

しおりを挟む
 勢いよく駆け出した僕はモンスター小団体まで距離を詰めきった。
 時を同じくして、守結まゆ桐吾とうごは各々一体ずつのソードラット、ランスラットを引き寄せている。ここまで全て予定通り。

 そして、僕の役割は――。

「【クイックヒール】、【フィウヒール】!」

 即時回復系で極々回復量の少ない【クイックヒール】。
 回復系のなかでも一番回復量の少ない【フィウヒール】。
 これらをモンスターの目の前で自分に発動させる。
 そう、僕の役目はモンスターのヘイトを自分に集めること。

「えっ、志信しのぶくん!? そんなの無茶だよ!!」

 美咲みさきが声を張り上げ忠告を投げてきているけど、それに反応している暇はない。目の前に全集中して立ち向かわないといけない。

 二番目にヘイトを集められる回復スキル。
 回復量が限りなく少ないとはいえ、連続発動をすればヘイト管理下にないモンスターなら、どんな状況でもスキル発動者に一直線に向かってくる。
 そう、今回も例外なく――。

「――いくぞ」

 モンスターらはこちらへ標的を定め走り寄ってくる。
 まず初めに槍先が僕の腹を目掛け飛び込んできた。
 その対処に大きく体を動かす必要はない。体を捻って角度を変えバックステップ。
 追撃は剣撃。大振りで上段からの振り下ろし。
 これには、左手に装備している盾を剣に当て、軌道をずらして勢いを受け流す。

 「無駄に連携力があるな……」

 つい愚痴が零れてしまったけど、相手の攻撃が止まるはずはない。
 先ほど守結まゆ桐吾とうごの戦闘を見ていたから攻撃パターンはある程度頭に入っている。

「こっち終わった! そっちに――」
「ダメだ! ターゲットを優先!」
「――わ、わかった」

 桐吾の言葉を跳ね返した。
 今は仕方がない。
 この状況は、ソルジャーラットが引き起こしていると言ってもいい。
 ならば、この状況を打開するにはターゲットを討伐することが最善策だ。

 それに――。

「うーわっ、また来ちゃったよ!」

 そう、援軍は止むことはない。
 僕ができるだけ時間を稼ぎ、みんなにソルジャーラットの体力を削ってもらうしかない。

「【クイックヒール】、【フィウヒール】」

 再び回復スキルを使用。
 追加で迫ってくる小団体、計四体がこちらに向かってくる。

「今のうちにやりきって!」

 声を張り上げ全体に指示。様々な声が飛び交っていたように聞こえたけど、今はその言葉は届かない。
 今集中するべきなのは目の前。

「「「「「「キュゥー!」」」」」」

 複数のラットたちの鳴き声が鳴り響く。
 一撃、一撃と間髪入れることなく続く攻撃。正面、右、左と攻撃が続く。
 盾で受け流し、全身を使って回避――止まってはいけない。
 杖の装備を解除して、右手が空けておいたのが功を奏している。地面に手を突いて、後方倒立回転などの様々な動きで回避ができる。
 常にバックステップを意識して後退、左右に動きながらも相手を視界に入れ続ける。
 だけど、距離を取り過ぎてはいけない。援護が届かなくなったり、最悪あちら側に全部流れていってしまうからだ。

「はっ、はっ――」

 目線の先に時折入るあちら側の様子。
 康太こうたが見事なヘイト管理を行っているおかげで、全員の攻撃がスムーズに繰り出されている。
 あの様子からソルジャーラットの体力の削れ具合は相当なものだろう。

「くっ!」

 顔が歪む。
 目の前には六体。残念ながら完全に回避し続けることはできない。時折届く攻撃は、決して柔らかいものではない。
 攻撃を食らってしまう度に、回復スキルを使用。
 だけど、この流れは一番望む展開ともいえる。
 ここまで回復スキルを使用すれば、美咲みさきが回復スキルを使ってもこいつらがあちら側に行く心配はなくなる。



「ダメだよ桐吾くん!」
「でも、あんな状況じゃ志信がっ!」
「大丈夫。しーくんなら大丈夫。大丈夫だよ」

 守結は桐吾を真っ直ぐ見て、反転しようとしている桐吾の行動を止めた。

「でも、あんなの無謀すぎる!」
「桐吾くん、その気持ちはわかる。でもしーくんは、『今のうちにやって』って言った。聞こえたでしょ?」
「……っ! ……わかりました」

 桐吾は、されども反論しようとした。でもしなかった。できなかった。
 見てしまった。誰もが援護に行くべきだと判断するこの状況でも、そう言い切る守結の姿を。
 剣を持たない左拳は固く握られ、力だけじゃなく気持ちも込められた左腕は小刻みに震えている。
 桐吾はそれを見て悟った。
 こんな状況で一番に駆け付けたいはずの人が誰よりも冷静なはずがない。文字通り力一杯に自分の感情を抑えて、志信しのぶの言葉を信じようとしている。
 守結は、志信が望むこの戦いの『勝利』を掴みにいこうとしている。

 それを汲み取った桐吾は、右手に握る剣を力一杯に握りしめ、ソルジャーラットの元へと駆け出した――。

「康太くん、このまま一気に片づけちゃうよ!」
「おうよ、待ってたぜ! 彩夏さやか幸恵さちえ、思いっ切り魔法をぶっ放せー!」
「う、うん! いくよー!」
「はいはいー! やっちゃうよー!」

 康太の掛け声に声を張り上げて応える2人。

 もはやこの状況に置いて、ソルジャーラットの行動はかなり制限されている。
 正面からのヘイト管理により目を離せず、後方や側面からはほぼ絶え間なく剣撃を食らっている。
 そして、剣撃が止んだと思えば遠距離からの魔法攻撃。
 サンドバックとはまさにこの状況のことをいうのだろう。

 こんな状況が続けば、体力が尽きるのも時間はかからなかった。

『ギィィィィャァァァァァ!!』

 苦痛に泣き叫ぶ悲鳴が鳴り響いた。
 そして、その声と共に力なく後方へ体を倒し姿なく消えていった。

「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

 康太は感極まって両拳を天に突き、声を大にして雄叫びを上げた。
 そして、喜びを分かち合うため2人の方に視線を向けるが、そこには誰の姿もなく康太は目線をぐるりと回した――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww

刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。 さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。 という感じの話です。 草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。 小説の書き方あんまり分かってません。 表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~

島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!! 神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!? これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。

処理中です...