上 下
20 / 129
第三章

第19話『接敵、ソルジャーラット』

しおりを挟む
 康太こうたがソルジャーラットと接触して、ここまで連れてくる手はずとなっている。

 会議を経て、立ち回りはある程度決まった。
 まず初めに前衛。守結まゆ桐吾とうごは遊撃。
 次に後衛。プリーストである美咲みさきを中央に、右に彩夏さやか、左に幸恵さちえを配置して扇状の陣形。
 僕は後衛の遊撃といった立ち位置で、指示を出す司令塔になることが決まった。

 エリアボス、ソルジャーラットは基本的に単独で行動しない。その周りには必ず同種族の下級モンスター二体が護衛するかのように同行している。
 それだけではない。その取り巻きを討伐したところで、不定期なタイミングでどこからか合流を果たすべく同種族のモンスターが加勢にくる。
 なので、一気に3体を相手するにはかなり骨が折れてしまうため、遊撃の2人が取り巻きの相手をして、その援護を後衛2人が担う。
 その間に康太こうたがソルジャーラットのヘイトを管理して、僕と美咲みさきで回復する。といった戦術になっている。 

「よしみんな、そろそろ康太が戻ってくる。陣形や戦術自体は大丈夫だと思うけど、気を抜かずにいこう」
「う、うん。焦って回復しないように気を付けなくっちゃ」
「私も、ちょっと緊張してきたかも」
「私はやる気満々になってきたよー!」
「そこまで気を気負わずに。僕たちで勝ちを掴み取ろう」

 深呼吸を繰り返す美咲と彩夏さやかを元気づけるかのように、幸恵さちえが元気を振り撒いている。
 後衛は今回の戦闘でかなり緊張感しているように見える。
 今までの戦闘では、モンスターのヘイトが後衛に向いたとしても、容易に対処できた。
 でも今回は……下手な戦い方をしてしまうと、そのままパーティが壊滅する危険性がある。

「よぉーし、張り切っていきましょーっ」
「あはは、守結さんがいるだけで勇気付けられますね」
「おおー? なになに、褒めてくれるのー?」

 元気溌剌な守結まゆにバシバシと背中を叩かれている桐吾とうご。2人はこの緊張する空気に飲まれず仲良くやっているようだ。あんな風にみえても、たぶん2人も緊張していると思う。みんなと変わらずに僕だってそうだ。
 たかが授業。気楽にやればいいとはわかっていても、初見の強敵が相手。しかも初パーティで挑むことに緊張しないわけがない。
 でも、こんな状況でもやることはやらないといけない。
 攻撃上昇【オフェイズ】、防御上昇【ディフェイズ】、ダメージ軽減【ハーネス】、速度上昇【ムーブサポート】をこの場にいる全員に再度付与して、康太の到着を待つ。

「っしゃぁー、来たぞー!」

 ――声の方にみんなの視線が集まった。
 そこには、脇目を振らずに「うおおお!」と大声を出しながらこちらに走ってくる康太の姿があった。

「取り巻きは、僕たちが!」
「いっくよーんっ」

 手はず通りに、前衛2人が真っ先に飛び出していった。
 それに反応したソードラット二体と交戦状態になって、出だしは好調。
 それを確認した彩夏と幸恵は、

「いくよー、【ファイアーボール】!」
「私もー! 【ファイアタァン】!」

 各々が得意な、方向型の炎魔法スキル、位置型の炎魔法スキルを使用。
 【ファイアーボール】はモンスターに直撃して破裂。
 【ファイアタァン】は地面から炎が腰ぐらいの高さまで噴き出した。
 各魔法は、正確に発動されていてダメージを負わせることに成功している。

「っしゃぁ! かかってこいや!」

 康太が自分を鼓舞している。
 それもそうだ。観測当初は、若干の距離があったから予想でしかなかった身長が、今康太の目の前にいるのは、目線と同じ高さぐらいはある。
 しかも今までより格段と強い。一切気を抜いてはいけない。

「【フィジックバリア】! 康太! そのまま、防御と回避に専念して!」
「【ヒー】――」
「待って美咲、焦らないで。回復はまだ大丈夫」
「う――うん、わ、わかった」
「落ち着いて――僕たちは、他の誰よりも冷静でいないといけない。深呼吸して美咲――落ち着いていこう」
「――うんっ」

 美咲は杖を持つ手を細かく震わせている。その姿を見て、僕は他人事としてみることができなかった。『みんなが頑張っているから、自分も何かをしなくちゃいけない』。そんな焦りや使命感が、体に現れてしまっている。
 その気持ち……僕は痛いほどわかる。
 でも僕たち支援役は、パーティにとって一番大事な立ち位置。成功するか失敗するか、それは僕たちの行動にかかっているといっても過言ではない。

 しっかりと戦況を見渡そう――この戦いは、まだ始まったばかりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...