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第三章
第18話『源藤宰治という男』
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安全地帯の一角。
ここにはモンスターは不可侵領域となっていて、モンスターや環境の操作装置がある場所。
その前で、遠隔監視スキルによる映像を眺めながら先生たちは話していた。
「いやはや、これは参りましたなぁ。……こっちのクラスは全滅ですよ……」
「まあまあ、遅かれ早かれってやつですよ。気を取り直してください」
海原《かいはら》先生は、背中を丸めて落ち込む大曲戸先生の肩に手を置いた。
そして、その優しさを受けてハンカチを取り出して目に運ぶ。
「でも、全滅……というわけではないですよね」
「はぁ、海原先生……それは皮肉ですか? 慰めの言葉だとしたらそれは間違ってますよ……」
「そ、そんなつもりはなかったんです。ごめんなさい」
「でも、あの転校生姉弟。たまたま、ですかね」
「ああ、楠城のですか。あれは――」
海原先生は、話の途中で後ろから聞こえる靴音が耳に入り、話を止めて姿勢を正した。
その行動を横目で見るに、大曲戸先生もハンカチを握り締め急いでポケットにしまい、姿勢を正す。
「海原くん、大曲戸くんご苦労様ー」
「明泰学園長、ご苦労様です。めずらし――っ!」
視線の先には明泰学園長と、もう1人。
深い青色を基調とした軍服、ピカピカに磨かれた革靴を履いた男性。黒髪をかき揚げ、髭一つない顔は清潔感の塊とも言えるような印象。
その人の名前は、中央都市サーコカトミリアにあるギルド――総括理事長、源藤宰治。名前や役職だけみると、重鎮感溢れる五十代ぐらいな印象が芽生えてしまうけど、実際は三十歳と若く肌も張りのある爽やか系中年だ。
その姿を見た瞬間に、2人は頭を下げようと前屈みになろうとしたが、
「いやいやいいですよ、そういうのはやめにしましょう。僕はそういうの苦手なんですよ。だってほら、人生の先輩に頭を下げられるのってなんだかむず痒くなりません? それに、頭を下げられるようなことなんてしてませんし」
「いやはや、宰治は人ができておるなぁ」
「いえいえ、そう思ってもらえるならば、それは明泰先生の教えがよかったということですよ」
「はっはっは、いつの間にか口のほうも上手くなりおって。――ああ、いけないいけない。それで宰治よ、本当にここでよかったのか? 他にも見るところがあるだろうに」
「はい、ここで大丈夫です。ここでしばらく生徒たちを参観したいんです。だっていいじゃないですか、戦いって」
その最後の言葉を口にしているときの目を海原先生は見逃さなかった。にこやかとした表情、それは誰が見ても期待感を抱いたような笑顔。
でも、その目だけは笑っていなかった。血を求める獣。そんな言葉が似合うほどの貪欲さを感じとってしまった。
だけどそんな期待に応えられない。それを伝えなければいけないと思った海原先生は、源藤さんに報告することにした。
「話の鼻を折るようで申し訳ないですが、残念ながら今回の演習はもう少しで終わりを迎えてしまいます」
「そうなのですか、といいますと?」
「お恥ずかしい話ではありますが、残すところ一パーティしか残っていないのです。それに、開始から一時間が経過しました」
「なるほど、それは残念な話ではありますね。一時間で残り一パーティ……面白いじゃないですか。それに、その時間ということは、アレは出現しているのですよね。なら、見ないという選択肢はありませんね」
源藤さんの期待感溢れる声色に、海原先生は返す言葉をなくしてしまった。
そして、同じくして扇子を開いて口元を隠してクスクスと笑う明泰学園長。
雑談なんてできる雰囲気ではないこの状況。ぎこちない空気のなか誰からも会話の切り出しはなく、ただ目の前の映像を大人4人で眺め始めるだけだった。
ここにはモンスターは不可侵領域となっていて、モンスターや環境の操作装置がある場所。
その前で、遠隔監視スキルによる映像を眺めながら先生たちは話していた。
「いやはや、これは参りましたなぁ。……こっちのクラスは全滅ですよ……」
「まあまあ、遅かれ早かれってやつですよ。気を取り直してください」
海原《かいはら》先生は、背中を丸めて落ち込む大曲戸先生の肩に手を置いた。
そして、その優しさを受けてハンカチを取り出して目に運ぶ。
「でも、全滅……というわけではないですよね」
「はぁ、海原先生……それは皮肉ですか? 慰めの言葉だとしたらそれは間違ってますよ……」
「そ、そんなつもりはなかったんです。ごめんなさい」
「でも、あの転校生姉弟。たまたま、ですかね」
「ああ、楠城のですか。あれは――」
海原先生は、話の途中で後ろから聞こえる靴音が耳に入り、話を止めて姿勢を正した。
その行動を横目で見るに、大曲戸先生もハンカチを握り締め急いでポケットにしまい、姿勢を正す。
「海原くん、大曲戸くんご苦労様ー」
「明泰学園長、ご苦労様です。めずらし――っ!」
視線の先には明泰学園長と、もう1人。
深い青色を基調とした軍服、ピカピカに磨かれた革靴を履いた男性。黒髪をかき揚げ、髭一つない顔は清潔感の塊とも言えるような印象。
その人の名前は、中央都市サーコカトミリアにあるギルド――総括理事長、源藤宰治。名前や役職だけみると、重鎮感溢れる五十代ぐらいな印象が芽生えてしまうけど、実際は三十歳と若く肌も張りのある爽やか系中年だ。
その姿を見た瞬間に、2人は頭を下げようと前屈みになろうとしたが、
「いやいやいいですよ、そういうのはやめにしましょう。僕はそういうの苦手なんですよ。だってほら、人生の先輩に頭を下げられるのってなんだかむず痒くなりません? それに、頭を下げられるようなことなんてしてませんし」
「いやはや、宰治は人ができておるなぁ」
「いえいえ、そう思ってもらえるならば、それは明泰先生の教えがよかったということですよ」
「はっはっは、いつの間にか口のほうも上手くなりおって。――ああ、いけないいけない。それで宰治よ、本当にここでよかったのか? 他にも見るところがあるだろうに」
「はい、ここで大丈夫です。ここでしばらく生徒たちを参観したいんです。だっていいじゃないですか、戦いって」
その最後の言葉を口にしているときの目を海原先生は見逃さなかった。にこやかとした表情、それは誰が見ても期待感を抱いたような笑顔。
でも、その目だけは笑っていなかった。血を求める獣。そんな言葉が似合うほどの貪欲さを感じとってしまった。
だけどそんな期待に応えられない。それを伝えなければいけないと思った海原先生は、源藤さんに報告することにした。
「話の鼻を折るようで申し訳ないですが、残念ながら今回の演習はもう少しで終わりを迎えてしまいます」
「そうなのですか、といいますと?」
「お恥ずかしい話ではありますが、残すところ一パーティしか残っていないのです。それに、開始から一時間が経過しました」
「なるほど、それは残念な話ではありますね。一時間で残り一パーティ……面白いじゃないですか。それに、その時間ということは、アレは出現しているのですよね。なら、見ないという選択肢はありませんね」
源藤さんの期待感溢れる声色に、海原先生は返す言葉をなくしてしまった。
そして、同じくして扇子を開いて口元を隠してクスクスと笑う明泰学園長。
雑談なんてできる雰囲気ではないこの状況。ぎこちない空気のなか誰からも会話の切り出しはなく、ただ目の前の映像を大人4人で眺め始めるだけだった。
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