転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり

椿紅颯

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第三章

第15話『突発的混乱』

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桐吾とうごくんいくよっ!」
「はい!」

 攻撃力アップの【オフェイズ】、移動速度アップの【ムーブサポート】が付与されている守結まゆ桐吾とうごは、その言葉を合図に前方のアント二体に突進していった。
 掃討するに時間はかからない。アント程度なら2人の相手ではない。
 2人の剣撃は、アントの急所に的確に攻撃――瞬く間に消滅。
 彩夏さやか幸恵さちえも、すでに理解しているようで攻撃態勢にすら移っていない。

「あいやー、あの2人息ぴったりだね」
「本当ね。攻撃も食らわずだから私的にも気が楽ね」

 リラックスした様子で彩夏さやか美咲みさきが会話している。
 康太こうた幸恵さちえも同じように、

「たしかにね。俺も気楽でいれるよ」
「そんなんで大丈夫なのー? ってほら、左!」
「おーう、任せろ!」

 雑談をしていても康太こうたは素早く反応、モンスターのヘイトを自分へと集める。
 そして、彩夏さやかと幸恵が攻撃魔法を的確に命中させて対象は消えていった。



「なんですか皆さん、もうギブアップですか? はぁ……もう少し頑張ってもらわないと最低限の評価しかできませんよー」

 海原かいはら先生は、戦線離脱して安全地帯へ撤退してきたパーティに呆れ声を向けていた。
 開始から一時間が経過していて、単純な体力不足から諦めたグループだ。
 休憩も挟まず無鉄砲に戦闘を繰り返していれば、そうなってしまうのは仕方がない。

「まあ、離脱をやむ終えなかったパーティもいるようですが……」
海原かいはら先生のところは三パーティ……ぐらいですか」
「はい、お恥ずかしい限りですよ」

 海原先生は、首の後ろをポリポリと搔きながら二組の担任である大曲戸おおまがと先生に腰を低くしていた。
 大曲戸おおまがと先生は、きっと自信満々な表情をしていると思った海原先生は、恐る恐る目線を合わせると、

「はあ……こちらのクラスはもう残すところ、一パーティとそちらのクラスと組んでいる子たちだけなんですよ……」
「あ……そうなんです……ねぇ」

 海原先生は、察した。
 自分と同じように落胆している表情だったことに、親近感が湧き上がりため息を盛大に吐いてから姿勢を正し話しを戻した。

「今回の実技は、まだ先のほうが良かったですかね」
「少なくともうちのクラスはそうだった、と言えるでしょうね。海原先生の子たちは善戦しているようですが」
「褒めていただけで光栄ですが、まあ……もう少しでみんな戻ってくると思いますよ」
「あー、そういえばそうですね。もう少しでアレが出ますもんね」



志信しのぶごめん! 前に出過ぎた!」
「みんなー! ごめーん!」

 桐吾の鬼気迫るような声に、後衛は視線を集中させる。
 視線の先、前衛の背後には、ランスラット、ソードラットが混合した計五体のモンスターが迫ってきていた。
 二足歩行の武器持ちの鼠。もうほとんどが人間の体と一緒で、体毛がもふもふしていそうな見た目をしているけど、その上からでも分かるほど筋肉質な体。ただ、人間よりは一回り、二回りぐらい小さい。
 あのモンスターは序層より上、初層である十一から二十階層に出没するアクティブモンスターであり、先ほど戦闘したラットの上位種。

「えっ、うそっ! 志信しのぶくんあれって今までのとは強さが!」
「えっなになに美咲みさき、あいつらもしかして強いの!?」
「彩夏ってば、この間勉強したでしょ!」

 美咲みさきと彩夏が痴話喧嘩を繰り広げているけど、状況は一転している。

「あいつら、武器持ってる! 俺がヘイトを稼ぐからみんな逃げて!」
「それはできないよ! あいつに効く魔法属性は――ああ! わっかんない!」

 間違いなく、みんなは突発的なこの状況に混乱状態に陥っている。
 全員が全員の顔色や行動を窺って、後衛は足を止めてしまった。
 けど――数も数。乱れたみんなの心を一つにするため、僕は声を張り上げて指示を出す。

「大丈夫っ! 退避ではなく討伐!」
「おっけー、しーくん!」
「わかった!」

 まず初めに反応したのは守結まゆ
 敵に背を向けながら距離を取っていたところを急停止して反転。
 それに続き桐吾も反転――剣を正面に構える。

「戦術は今までと一緒! 守結まゆは桐吾と孤立したやつを! 康太こうた、残りにスキルを!」
「おっけー!」
「わかった!」
「お、おうよ、任せろ!」
「彩夏は2人に加勢、幸恵は康太を援護!」

 右往左往していた彩夏と幸恵は泳いでいた焦点をモンスターに合わせ、行動開始。
 ばらけていたみんなの心は再び一つになって、持ち直すことに成功。

 ――それから、五体のラットを討伐することに成功。
 初めて感じる一体感。
 文句の一つも出ないほどの個々の能力と連携力。
 僕はこのとき初めてパーティの楽しさを知った。
 そして、僕はこの高揚感と一体感に心が躍っていた。
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