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第三章

第12話『連休前の答え合わせ』

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 有意義な三連休は終わり、本日から登校日。
 登校早々教室では連休の話題で盛り上がっている。縁のない恒例行事にいつ通り授業の準備を始めた。

「おはよう志信しのぶ、もう授業の準備してるの?」
「おはよう桐吾とうご。先週末にやった授業の内容を復習しておこうと思ってね」
「本当に勉強熱心なんだね。なんだか清々しいよ」

 何かを言い訳するかのように挨拶を済ませ、教材に視線を戻そうとした時だった。

「おはようさーん、2人とも」
「おはよう、志信しのぶくん、白刀はくとうくん」
「おはよう古宇田こうださん、月森つきもりさん」
「……」

 僕は身に覚えのない感覚に戸惑い言葉が出なかった。
 この気持ちはなんだろう。日常の中にある些細なこと。そう、僕には縁がないと思っていた体験。

「どうしたの志信くん?」
「朝からそんなに口をポカンと開けて、朝食を抜いてお腹でも空いてるんじゃないでしょうね」
「――い、いや、ごめんね。ううん、なんでもないよ……おはよう古宇田こうださん、月森つきもりさん」
「それでさ、聞いてよー」

 うまく目線を合わせられない。
 どうやって立ち振る舞えば良い?
 何を話したら良い?
 どんな表情をすれば良い?
 呼吸が浅くなり、指先が、唇が、痺れていく感覚がする。

 盛り上がり始めた会話の中で桐吾は、ある提案を持ち掛けた。

「そういえば、この期に全員名前呼びにしない?」
「お、白刀はくとう君それいいね! 賛成賛成!」
「そうね、こういうのって早めに変えた方がいいと思う」
「ね、志信もそれでいいよね?」
「――あ、え? う、うん、それでいいと思うよ」
「よーし、じゃあ改めてよろしくねっ、志信! 桐吾!」
「よろしくね、志信くん、桐吾くん」

 学生生活で初の休日トーク。話すのが苦手というわけではないけど、気軽に話すのなんて兄妹以外で経験するなんていつぶりだろうか。
 3人は次々に楽しかった思い出、退屈だった一日、訓練が大半だったなんて話を繰り広げている。話に花が咲いて会話に入れず自然と聞き専に徹することになっていた。自分もいつかはこんな風に、自然な感じで話してみたい。と、心に秘めて。
 先生が来て話は中断。朝の時間は自分でも驚くほど速く、あっという間に過ぎていた。

「皆さんおはようございます。全員出席しているようですね。連休は有意義に過ごせたでしょうか。羽目を外して遊び三昧でしたか? ぐうたらなものでしたか? 何はともあれ、本日からはしっかりと切り替えてくださいね」

 みんなは、気だるげな返事で応えるが、その流れで誰かが先生に質問を投げかけた。

「せんせーい、なんで運動着に着替えているんですか?」
「そうですね。では、日程について話しますね。本日の授業は実技演習に変更となりました」
「――よっしゃあー!」

 その回答に歓声が湧き上がり、席を立ちあがる人も出始めた。
 この賑わいを沈めるように、先生は手を数回叩いて話を続けた。

「はいはい静かに。なので、早速説明をしていきます。大規模演習の授業になりますので、第二演習場へ移動になります。そこで、疑似ダンジョンで授業を行います。詳しい説明は移動後にしますのでそのように。では、先生は先に移動しておきますので」

 先生はそう言い残すと早速退室。
 その後はもちろん賑やかに盛り上がりを見せる。若干と呆気に取られていると、彩夏さやか美咲みさきが振り向いて話しかけてきた。

「ねえねえ、こんなの初めてじゃない?」
「ほんとね、一体どんな授業なのかな。もしかしてみんなでボス攻略の演習とかだったりして」
「まさか、私たちがそんなのできるわけないじゃーん。長期戦闘の訓練とかかな? 志信はどう思う?」
「……」
「志信くん大丈夫? 体調が優れないなら、ちゃんと言った方がいいよ」
「あ、ああ。いや、なんでもないよ。どうなんだろうね」
「行ってからのお楽しみって感じそうだし、僕たちも移動しようか」


 移動する際中、廊下で別クラスの生徒も見かけたけど、第二演習場へと移動完了。
 ここ、第二演習場は地下に設計されている。
 特色もなくただの灰色一色だけど学園関係者を全員収容できるほど広大で、学園施設の中で一番の規模を有していて指定避難所になっている場所でもある。
 横を見ると、先ほど見かけた他クラス生徒も整列している。
 海原先生が僕たちの前に立ち、点呼を終え説明を始めた。

「それでは、授業内容について説明していきます。今回は疑似ダンジョンをこの演習場に形成します。そして、モンスターを出現させて序層に出現するモンスターと戦ってもらいます」

 ここまで静寂を保っていたみんなが、昂る気持ちを抑えきれなかったかのようにガヤガヤと話声が増え始めた。
 正直、静かにしている方が無理な話なのかもしれない。冒険者を目指すのなら、実際のダンジョンと瓜二つの環境で攻略の疑似体験ができるのだから、興奮して心が躍らないわけがない。

「さらに、今授業は各モンスター毎に点数を付与しています。もちろん、個人ではなくパーティでの得点が指標になります。最悪の場合、討伐数が0だったとしても、不合格や落第とはなりません。――では、ここまでで何か質問はありますか?」
「はーい、それはどうやって確認するんですか?」
「それは、モンスターが討伐されると自動で加算されるので安心してください」

 期待の声が強くなってきたところで、先生は右手で首の裏に回して次の説明へと入った。

「最後に注意事項です。今授業は疑似ダンジョンですが、その環境はまさに本物と大差ありません。つまり、現を抜かして油断していると非常に危険です。細心の注意を払い対処してください。以上です。準備運動、パーティ編成、作戦会議等に移ってください」

 先生はそう言い残し、この場を後にした。
 暫くしない内に、今いる場所以外が森林地帯のような風景へと変化し始める。
 まるで別世界。肌を撫でる風、心が落ち着く土の匂い、草木が揺れ動く音が伝わってくる錯覚さえ覚える。
 そこに緊張はなく、胸の高鳴りが昂らせるだけだった。
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